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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていた。  作者: 綿木絹
エンディング後の世界編
123/184

この過去に含まれるのは

「——え?今のはあの時と同じ? でも、なんで俺まで出演しているんだ?」


 レイは長い長い走馬灯のようなものを見ていた。

 勿論、同じ現象は知っている。

 でも、エミリが二人にエミール、キリと名付けたのは、エミリがエミル切りという残酷無慈悲な武技が好きだから。

 そんな安直な理由でつけた名前。

 レイは一応の設定をエミリには伝えている。

 でも、伝えたと言ってもエミリの力は母親からの遺伝したことだけ。


「俺の想像?妄想?流石に——」


 レイが見たものは、それがどうしてそうなったのか、という語られていないストーリーだ。

 『金色砂糖いも』というアイテムが存在していることは間違いない。

 だが、まさかそれがエミリの農園で作られていたとは。

 それが事実なのか、彼には分からない。

 それ以外のことがが引っかかった。


 これはもしかしたら自分だけが見た、自分しか見ていない妄想かもしれない。

 そういう妄想癖がフィーネとの一件以来ついてしまったのかもしれない。


 ただ、不可思議な内容が含まれていた。

 時々出てくるエミールの気持ち。


 何かが起きていたと示唆する言葉。

 でも、それは容易に説明が付く。

 だって、これは最近の出来事で、魔王軍が攻めてくる少し前の出来事だ。

 無意識に自分が補足してしまったとも思えること。


(だけど、こっちは……)


 レイは先日、経済には明るくないと言った。

 だから、エミールが考えていた金と農業の関係は、彼の知識の外なのだ。


 でも、それもただの自分の妄想かもしれない。

 だからレイは今のストーリーを胸の内にしまおうとした。


 ガタッ


「貴方!無理をしないで!」


 だが、エミールに肩を貸しながら歩いてくるキリの表情が全てを肯定していた。

 エミールの目から溢れる涙が、レイの妄想が現実なのだと訴えていた。

 そして。


「レイ……様。貴方のお陰で私は義父(ちち)との約束を違えずに済みました。本当に……、本当に有難うございました。」

「私からもお礼を述べさせてください。あの時は無我夢中で分からなかったけれど、不穏な森の気配を察し、私たち親子を助けに来てくださったのは、やはり貴方ですよね? そして、それからもエミリのこともずっと守って下さっていた。有難うございます。本当に本当に……」

「そっか。そういうこと……だったんだ。今更だけど、アタシも分かった。本当に……本当に…………。レイ——」


 赤毛の少女と、同じく赤い髪の女性と、薄い茶色の髪の男性が嗚咽混じりに泣いている。

 そしてエミリが『分かった』という内容にも察しがつく。

 エミリは散々二重の記憶の中で、自分の両親が殺されている場面を思い出している。


 だから今改めて、レイが両親を助けてくれた経緯を自らの目で理解したのだ。

 あの場面では彼女も登場していたから、そのことも見えていたのだ。


 ——本当は二人は死ぬ運命にあった。


 でも、彼は世界の意志、運命を覆して二人を救ってくれたのだ。

 これほどに尊い存在はいない。


「エミリ。そこまで凄いことじゃない。今なら分かるだろ。俺は知っていただけだ。だから……、もう泣くな。」


 レイは自身の胸の中で泣いているエミリの頭をポンポンと叩いた。

 エミリには逆効果だったのか、さらにきつくレイの体を締め付ける。

 常人なら爆散する程のレベル。


「無理……だよ。あたし、レイのこと、大好きだもん!」

「あぁ。分かっている。俺もエミリが大好きだから安心してくれ。」


 あまりの圧迫に折れた訳ではない。

 彼女からの感謝の気持ちを、正面から受けるべきだと思ったのだ。

 何百、何千という自分は、もしかしたら両親を見捨てていたかもしれない。

 だったら、その分も含めて、彼女からの愛の形を受け止めるべきだろう。


 そう思ったレイはしばらく動くのをやめた。


      ◇


 化け物になってしまった勇者パーティが、果たして平和の世界で適合出来るのか、さらっとしか触れないものが多い。


 でも、これからその後始末が始まる。

 勿論、もう一つの楽観理論は存在する。

 例えば同じ主人公の続編が出た場合、何故かレベルが1に戻っている。

 新規勢の為でもあるし、そうでなければゲームが面白くないからでもある。


 それがこの世界に起きることを信じて、今は細々と調整していくしかない。

 だから、そのきっかけとなるように、とエピローグ作りをする。


 ——ただ、ここに一人だけ、全てに置いてけぼりを食らっている者がいる。


「あ、あのぉ。魔王様。我は来る日を間違えてしまったのでしょうか?」


 今の発言から察するに彼には今の映像が見えなかったらしい。

 まるでムービーイベントのようだ。


 レイ自身も自分のもう一つの力に気が付いていない。

 ただ、だからといって「帰れ」なんて言えない。

 いや、むしろドラグノフが最適かもしれない。


「いや。お前は一般人なのに屈強なご婦人がいるって噂でここに来たんだろ?だったらちょうど良い機会を与えてやろう。ドラグノフは俺の気配を辿って追ってこい。エミリは俺に抱きつき中だから良いとして、エミールさん、キリさんも怖いかもしれませんが、俺の近くに来てもらえますか?」


 その言葉に一般人であれば困惑するだろう。

 今回のレイは変装をしていない。

 ここはスタト村であり、すでに自分が魔族だということがバレている。

 そこにはエミール夫妻もいた訳で、最初から人間のふりをする必要がなかった。


「キリ、行こう」

「はい、貴方。」


 流石に巨大な蝙蝠(こうもり)の羽には吃驚した様子で、恐る恐るレイの懐に歩みを進め始めた。

 もしかしたら恐怖は感じておらず、エミールの足を気遣っての歩みの遅さだったのかもしれないが。


「レイ! 何をするつもりなの?」


 赤毛の少女がちょうど良い質問をしてくれた。

 だから魔王は牙を光らせて、声高らかに笑った。


「ははははは。知れたこと。先の話を本当の意味で実現させるんだよ。あの時は帰ってすぐに魔物に襲われてしまったのだろう? だから、あの家にも『ただいま』をしなければな。」


 もはや恒例となった転送魔法(イツノマニマゾク)を使い、エミリの家族を彼らが本来住まう家へと送り届ける。

 ドラグノフも同様の魔法が使えるので、何も言わずともついてくる。

 そして無事に元ギリー農園に到着した訳だが、田畑は荒れ果てていた。


「かなり早い段階で撤退命令を出していたが、やはりモンスターにやられていたか。予想通りとはいえ、やりきれないな。」

「レイ……、前にも話したと思うけど、うちの農耕は父が。でも、回復魔法を使っても完全に断絶した腱は戻らないってフィーネが……」

「エミリ、大丈夫だよ。私も今の体に少しずつは慣れてきている。それに……」


 そう言って、エミールはキリに笑みを向けた。

 すると何故だろうか、キリは複雑な顔をしている。


「そうだよ!お母さんはスタト村の復興の功労者って言ってたじゃん! ついにその馬鹿力の本領発揮だね!」


 確かにその通りで、彼女はスタト村で獅子奮迅の働きをしていた。

 そりゃもう、ツッコみたくて仕方ないくらいに。

 だから彼女がやる気を出し、エミールが知恵を出せば簡単に復興はできそうなものである。

 因みにレイには彼女の浮かない表情の見当がつく。


「設定と外れていたから、スタト村では力仕事をしていた……か。でも今は役に戻ってしまったか。」


 レイがレイモンドを辞めていた時と同じ現象だろう。

 スタト村にいた彼女は彼女であって彼女ではない。

 そして、そんな彼女をそのまま連れて帰っても良かった。

 でも、それはフェアじゃない気もしていた。


「エミリ……、エミリは知っているだろ?」

「うん。でもでも!」


 だからレイはエミリに二人の名付けをさせた。

 自分にも彼女たちの過去が見えたこと、そして自分まで登場したことは意外だった。

 だが、それ故に今の彼女の心境が理解できる。


「え、ええ。私、あんまり力仕事を人に見せたくないっていうか……。あの時はなんででしょう。何も考えずに力を使っていたけれど。記憶を思い出してしまってから、穴があったら入りたい気分なの。」

「やっぱりそれ?なんでよー。アタシはレイの前でもバンバンモンスターをぶっ潰してきたのにー。私が品がないみたいじゃん!」

「え、エミリ。違うんだ。私のせいなんだ。私が彼女に作法というか、そういうのを無理やり押し付けてしまって……」

「違くないじゃん! お父さんもアタシの馬鹿力をそんな風に見てたんだぁ。ふぅーん。ゴリラ女とか思ってたんだぁ……」

「ゴリ?」


 ネットでのエミリのあだ名、彼女の言葉から出た瞬間。

 レイも即座に視線を逸らす。


(だが、今の状況って、やっぱりスタト村と同じ?)


 家族喧嘩も生きていればこそだ。

 だからといってエミリを怒らせるのは怖い。


 ただ、レイはその家族喧嘩の内容にこそ耳を傾けていた。


(やっぱりフィーネの時と同じ……。在りうべからざる過去が創造されている。これは良いこと……だよな? 未来を創造なのは分かるけど、過去が後から作られるって……。もしかすると下手に昔話なんてしない方がいいってことか?今とか未来とかが変わってしまうのかも……)


 そんな疑問が脳裏によぎったが、今までの傾向を考えると、そうではないことに気が付く。

 スタト村の件では元々村に何もない。

 だからそう錯覚してしまいそうだが、今回は明らかに違う。

 フィーネやアルフレドの件も違うと言えば違う。


 これは創造ではなく、後付けの過去だ。

 設定を歪めるようなことは起きていない。

 結局のところ、メビウスが作った設定の檻の方が頑強なのだろう。

 観測者が今を生きている以上、現在は変えられないというだけかもしれない。

 その全てが違っていて、他に理由があるのかも知れない。


 今のレイにはそこまでしか考察の余地がない。


「キリさん。腕相撲くらいだったら出来ますよね?ほら、昔もギリーさんに言われてやったでしょう?」


 レイはエミリのエピローグを作りに来たと同時に、魔王として食糧問題を解決するためにここに来た。

 過去回想で登場した肥沃の大地は喉から手が出るほど欲しい。

 でも、強奪はしてはいけない。

 ならば、ギリーとエミールが当時やっていたように、専属契約することが望ましい。


「あ、あれは……。その……。訳もわからず。それにあの時はまだ……」

「ドラグノフ、お前。腕相撲は分かるよな?」

「勿論ですが、魔王様は我についても随分詳しいですね。ただ、我が魔王様と初めて会ったのは……。」

「魔王だから知ってんだよ。お前が人間だったってこともな——」


 そして、レイは重要なヒントが散りばめられた、エミリの回の締めに入っていく。

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