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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていた。  作者: 綿木絹
エンディング後の世界編
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武人

「——さて、エミリは」


 その瞬間、レイの視界が壁にワープした……と思われるほどに突然移動した。


「あなたのエミリ!参上したよぁぁ!アタシと一緒にパパとママに会いに行くんでしょ!それってつまり!」

「ちょ、待て待て待て。とりあえず、前に話したかもしれないが、本来はエミリの両親はあそこで死んでいた。スタト村でもお前の母さん、めちゃくちゃバグった動きしてたから、その様子を見に行くべきだろって話だから。」


 エミリの力は人外の遥か上に行ってしまっている。

 今の突撃、常人ならば「ミンチの方がマシ」と言われるレベルのダメージを負うだろう。

 実はその辺りもこれからの課題なのだ。

 勇者たちが無事に人間社会に適合できるのか。

 以前にも言ったが、勇者なんて戦いが終わってしまえばただの無職だ。


 今のように走っているだけで人を殺せる。

 だから彼らだけが守るべき交通ルールを作るべきだ。

 勇者パーティは歩行免許証を取らなければ、外を歩いてはならないとか。


 力仕事にしたって、力が人外なのだから素材だけでなく、作業具も破壊しかねない。

 それこそ伝説の斧や伝説のノコギリが必要かもしれない。

 そも、街一つぶっ飛ばせる魔法がある限り、生涯、監視下に置かなければ危険である。

 気が付けば、一つの街が勇者パーティの一人が牛耳っていた、なんて可能性も大いにある。


「そのテストも兼ねて、勇者パーティで一番力持ちのエミリの出番ってわけだな。」


 ものすごい勢いで体を揺さぶられながら、レイは呟いた。

 そのせいで、ものすごくビブラートの利いた呟きになっていた筈だ。


「ねぇぇぇぇ、レイー。あれやるんでしょ? 魔族専用の瞬間移動。アタシもあれやりたいなー。ねぇねぇ、これくらいしがみついてたらいい?」

「エミリ、ありがたいがそれはわざとやっていないか?」

「うーん、なんのことかなぁ。アタシ、パワー属性だから良く分からないかもぉ。」


 エミリは公式のエンディングでも分かる通り、全力で愛をぶち当ててくる。

 だから浮気をしようもんなら、その握力であらゆる箇所を潰されるに違いない。

 格闘アニメで登場する握力だけで人を壊せる存在、それがエミリだ。


「いつまでも魔王城にいても仕方がない。それじゃあ行くぞ、エミリ!転送魔法(イツノマニマゾク)!!」


     ◇


 レイとエミリはスタト村に降り立った。

 もう顔を隠す必要はない。

 そしてエミリの母親を探す必要もない。

 この中でバグっている人間を探せば良いだけだ。


「いや、マジでさ。今回はサクッと終わらせようと思ったのにさ……」

「え、あたしとのランデブーをサクッと終わらすつもりだったの……。それって……」

「あー、違う違う違う!ほんとーーに違うから!エミリのことだけに集中したかったって意味だから。実際、この村では違う意味でいろんなことが起きたから。タイムトラベラーがいたら、ぜひ証明してほしいくらいだから!」


 なんだかんだ、全ての設定が0に戻っていないのは、薄々気がついていた。

 フィーネの闇落ちイベントはかなり複雑な工程が必要だが、ヤンデレエミリはそれよりは難度が低い。

 それだけは十分に注意が必要だ。


 ——というよりも、だ。


「なーんで、5mの巨人さんがスタト村で突っ立ってんだよ。おい、ドラグノフ。お前はアーマグにいる筈だろ?」


 エミリの母親よりも目立つ存在がいるせいで、村を見渡せない。

 そもそも、こいつがなんでここにいるのか理解できない。


「魔王様、我の勘が告げるのです。この村に我に匹敵する者がいると。」


 確かに、今のドラグノフには見えない壁は存在しない。

 そういう意味では無敵というわけではない。

 デスモンドでの悲劇的な戦いは、あくまで負けイベントだからこそ発生したものだ。


「強き者、それこそが我の正義。ならばその正義をこの目に焼き付けたいと馳せ参じました。」

「いや、それは分かったから、なんでお前がその情報を手に入れたのかって聞いてんだが?」

「それはその……、お恥ずかしながらイーリ殿がマロン殿に話していた会話の中身が聞こえてしまったというか……」

「イーリの仕業か。ってか、なんでイーリがマロンのところにいたんだ?」

「以前よりイーリ殿は体臭を消す方法はないかと、誰これ構わず聞き回っておりました。」


 なんと、イーリは狡猾にも魔王様に対して抜け駆け行為をしていた。

 口では気にしてませんよと嘯きながら、裏ではしっかり魔族が抱える臭い問題の解決に乗り出していたという訳だ。


 だから、ここは後で詰問しておこう、その方法も聞いておこう。

『魔王様は最強、でも臭い』、これはあまりにも致命的だ。

 血と腐敗臭でむせ返るような場だからこそ臭いよりも力だった。


 でも、今その力関係が変わろうとしている。


「ドラグノフ、イーリの話は良い。続きを聞かせてくれ。それに体臭問題も一応聞いておこう。これは国を揺るがす事態かも知れぬ故な。」


(クソ、イーリに先んじられるとは! もはやイーリの話とか、ドラグノフが何故ここにいるのかなんて、どうでも良くなってきた。そもそも俺もやっぱり臭いに違いない。嗅覚は環境適応能力高いって聞くし!ただ、彼の話は貴重だ。なんせドラグノフの体は人間ベース。体の形状は違っていても、元人間という重要な共通点がある。)


「……ええ。その折、我はマロン殿を紹介したのでございます。マロン殿曰く、我は他のものより脇とか関節とかがかなり多いからだそうで……。我の場合は一度、脇を全て焼かれました。そして妙な薬を塗り込みながら癒しの魔法を。ただ、一つだけうまく行かなかったことがあったとか。」


(待て待て待て待て!それ、いつの話? ドラグノフは戦時中に戦後のことを考えてたってこと? いや、確かにこいつは人間の感性も持っていたことは確かだが……。それにマロンカロンボロン医療研究所は野戦病院というよりは現代的な先進的な病院みたいなところもあったけど。そうか! こいつ、ずーーーっと出番なかったから、ある意味戦時下でも平穏な生活を送っていたってことだ。って、おっかしいなぁ。ドラグノフって硬派なイメージしかなかったんですけどぉ? いやいや、今はイーリとドラグノフに先んじられたことは置いておこう。まずは臭いだ。でも、そうか。汗腺を焼却したんだろうけど、あのマロンでも完治は難しいのか——)


「我の逞しい脇毛が全て失われてしまったのでございます。それはそれは立派な脇毛が……」


(——ってそっちかよ!違うよ? 違うからね⁉ キャラデザの段階で脇毛は描かれないからね? そういう細かいところにポリゴンを割いてたら、無駄に容量とるし、他の処理が重くなっちゃうからね⁉ 髪の毛の表現とかも家庭用ゲーム機じゃあ、まだまだだからね? 四箇所の脇毛が滑らかに動いてたらユーザーから総ツッコミ食らうから!……いや、待てよ?これもキャラデザの設定の一つか!なるほど、結局どこまでいっても設定がついてくる。ゲームから生まれたのだから当たり前かもしれないけど……。ま、俺も今度マロンさんに会いに行こう。うん、そうしよう!)


「レイー!この人だぁれ? 」


 レイがヒロインそっちのけで脇毛、ワキガの処理に心を奪われていた時、鼓膜が破れたかと思った程の元気な声が左耳から聞こえてきた。

 二人目のヒロインのエピローグ作りに来ているというのに、脇毛処理に頭を奪われる最低の魔王である。

 ただ、エミリはそんなレイを責めるではなく、単純に目の前のおじさんが誰なのかを聞いている風だった。


「あー、戦ってないもんなぁ。」


 通常ルートでは魔王城に入って彼と遭遇するイベントがある。

 でも、それをカットしてしまったため、エミリは四天王の一人ドラグノフと対面していない。


「魔王軍四天王の一人、ドラグノフ将軍だよ。エミリは一度、デスモンドでの『絶滅エンド』で見たことも戦ったこともあると……。いや、なんでもない。」


 今はあのイベントを回避した通常ルート。

 無論、本当の通常ルートなら魔王城で遭遇するのだが、あっちのバッドエンドは思い出さない方が良い。

 あれは思い出したくもない惨劇なのだから……


「だーめ。デスモンドのことはアタシにとっては大切な記憶なの! 絶体絶命の中、レイはアタシたちを助けるために命を投げ出した。それからもずっとアタシ達を支えてくれた。だからぜーんぶ覚えておきたい。レイがアタシ達にしてくれたことを考えたら、あんなの悪夢じゃないもん!……うーん、でもその人があの時のモンスターってイメージはあんまりないんだけど。見た目は確かにそうだったような? でも、雰囲気が違うから全然似ても似つかないっていうか。」


 あのイベントは避けられないムービーイベントだ。

 それに見えない壁も存在した。

 確かに今のドラグノフとは別人と考えても良い。

 ただ、それだけではないのも確かだ。


「エミリが強くなったからだよ。あの時に比べたらエミリとドラグノフの実力差はほとんどない。もしかするとエミリの方が強いかもなぁ。で、ドラグノフはエミリの母さんに会いたいってさ。」

「はぁ⁉なんで魔族があたしのお母さんに? も、も、も、もしかして逆恨みってこと⁉」

「エミリ殿、我はそのような矮小な男ではございません。ただ……」

「ただ?」

「戦士でも剣士でもない、普通のご婦人が化け物じみた力を使っていたとイーリ殿から聞いてしまい、居ても立ってもいられなくなったのでござる。」


 フィーネエンドで明らかに浮いていた女性の存在だった。

 にも関わらず、触れることができなかったのは、エミリの為にネタをとっておく為だった。

 というより、エミリの母親なのだからエミリとの再会からが彼女のスタートであって欲しかった。


 でも、イーリはあの場にはいなかった。

 そしてドラグノフがここにいるということは、レイが城に帰った後にポロリと口にしてしまったからとしか考えられない。

 だから、全責任は魔王レイにこそある。


(だって、しょうがないじゃん! 大木やら岩石を肩に背負いながら歩いてるんだぞ? むしろあの光景を見てツッコまなかった俺、頑張ったじゃん!現に今も村の復旧のために巨大な金槌で人間重機を演出しているし……)


「あー、そっか。お母さん力持ちだからか! でも、お母さんはあんまり力仕事はしない筈なんだけど……。レイ、お父さんとお母さんに会いに行こ!」

「そうだな。って!エミリの力、俺でもびっくりするから!」


 エミリはレイの手を取って走り始めた。


「大丈夫!レイは魔王様でしょ!それにアタシが大好きな悪魔(ひと)だもん‼」


 キラキラと朱色に輝く髪の少女は嬉しそうに走り出した。


 目指す先はもちろん母親のところ。

 おそらくは父親もそこにいる筈だ。

 そして後ろからドスンドスンとドラグノフもついてきているのも分かるが、その地響きが気にならないほどに、——遠くの人間重機から発生される音は常軌を逸していた。


 因みに、ここにドラグノフがいたことが、後の伏線だったとこれよりずっと先で魔王は知ることになる。

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