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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていた。  作者: 綿木絹
エンディング後の世界編
119/184

アーマグの食物事情

 黒い手?

 いや塗りつぶされているだけ?

 手が差し出されている。


「やっぱり世界は終わるんだわ……」


 暗いのか、明るいのか分からない何か。

 その中で愕然としている。


「どうして……本当の事を言ってくれなかったの?」


 そして——


「ご主人‼まーた微睡んでたんですかぁ?」


 白兎の声に、魔王は肩を浮かした。


「……あぁ。ちょっと考えることがあって。」


 魔王レイは先日のことを考え込んでいた。

 相当悩んでいた。

 だから、まだ胸のもやもやが残っているのだと思った。


「スタト村っすよね。思ったよりも時間かかったんすね?」

「あぁ。色々あり過ぎた。頭が追い付かない……」


 歴史を作ったまでは良い。

 歴史なんてその時の権力者によって簡単に変えられる。

 ただ、自分の過去回想が流れたのはどういう理由なのか。


 あれは自分の思い込みかもしれない。


 それに何となくだが誰にも話したくない。

 そんな黒歴史のような過去だった。


「……ま、ゲームってそんなものか。昔のゲームは、こういうゲーム性にしたいと決めてからシナリオが後からついてきた。恋愛ありきのRPGというコンセプトで、嫌なやつを登場させる為にレイモンドという嫌われキャラが作られた。でも、今考えてみたら、レイモンドが嫌なやつだった理由もあるわけで。鈴木Pによるリメイクが正にそれで。それを俺が勝手に想像してしまった?そしてついでに妄想まで?」


 レイは魔王の座には基本的に座らない。

 あそこは広すぎるから落ち着かないのだ。

 だから、三姉妹が使用する筈だった部屋に彼らはいつも居る。

 なんなら、ここに玉座を置いても良いかもしれない。


「そんなことより、ご主人!何をそんなにソワソワしているんですか?」


 レイの様子がおかしいから、ラビは心配になって主に理由を尋ねた。


「あれじゃね? 昨日の台の設定が厳しすぎたからイラついてんじゃねぇか?」

「イーリ、あんたまだ賭博やめてないの? ご主人が言ってたじゃない。もうすぐ魔王軍のお金は尽きるって。」

「えぇぇぇぇ、あれ、マジなの?だんなぁ!正気の沙汰じゃありませんって。なんでお金が無くなるんすか。」


 魔王は全く別のことを考えていた。

 だが、流石に部下への応対をしなければならない。


「ラビもイーリも間違ってるぞ。流通を減らすだけだ。金が流通し過ぎれば、物の値段がどんどん釣り上がる。今でもハイパーインフレ状態なんだよ。デスモンドがやたらと金持ちが多いのは人間と魔族が共存してるからだ。つまり魔族と交流が多い者ほど金を持っている。でも、これからはさらに西、ほとんど魔族を知らない人間達とも交易が始まる。そうしたらどうなると思う?」


 経済に明るいわけではない。

 でも、流石にバランスをとった方が良いくらいは分かる。


「そうすりゃ、西のものを買い占められそうじゃないっすか。」


 確かにイーリの言う通りではある。

 共通通貨だから、そうなって当たり前だ。

 ただ、人間と魔族の線引きがここで問題となってくる。


「そうだな。それじゃ、イーリは西で何を買う?」

「買うっつったら、ギャンブル用のコインっすかねぇ。それ以外に俺、欲しいもんないっすから。」

「クズな同僚がいて、ウチは本当に不幸ですよ。買うと言ったら服に決まってます!道理でイーリからはドブ川の臭いがするわけね。」


 ——その言葉、魔王に衝撃走る。


「いや、待てよ!お前、そのバニースーツ毎日変えてんのか? 何着持ってんだよ、それ!おかしいすよね、レイのだんなぁ!!」

「毎日変えてるに決まってるでしょ? 勿論、節約のためにお洗濯して何着かを着回してるけどね。ね、魔王様!」


(——いや、そうだったのか!モンスターって全員同じ衣装だから服を変えていないものだと思っていた。裸の奴も多いし。いや、そういう意味ではなくて!でも、普通に考えてあり得ない。……ていうか、人間だった頃も服なんて考えたこともない。マリアの屋敷で新島として過ごした日々とデスモンドでマスクドパンツマンとして過ごしていた日々くらいしか、服を着替えていた記憶がない。)


 だが、魔王は動じない。


「そ、そ、そうだ。確かにアーマグ大陸は総じて臭い。魔族が住む場所なんて大抵臭いから誤魔化せるかもしれないが、清潔感はモテる最大の秘訣だぞ!」

「えー、そうなんすかぁ。確かに秘密の塔だとレイの旦那も家事してましたもんねー。そうかー。だから旦那はモテるのかぁ……」


(バカで助かった。それに魔族にとってモテる要素は強さ以外にない。でも、気になる。俺、実はめちゃくちゃ臭いんじゃあなかろうか……。あ‼そうだ。こないだ久しぶりに最初のスーツ買い戻したから一度は着替えてる。よし、俺は悪くない。俺は間違っていない。)


「あ、あぁ。そうだぞ。ラビ、とても良い着眼点だ。魔族は基本、同じ服しか着ない。だが、人間はしょっちゅう装備を変えているだろ? あれと同じ感覚で普段着さえ毎日変えるものなんだ。」


 ラビは嬉しさのあまり、ウサギ耳をぴょこぴょこさせている。

 それによく考えたら、いつもラビに服を用意してもらっていた。

 あの感じだと、黙って洗ってくれていたということだ。

 これはやはり、ラビもヒロイン候補!というか嫁!


「えへへ。ウチはできる女ですよー、魔王様ぁ。」


(か、かわいい。間違いなくヒロイン候補。でも、この流れはよろしくない。最後、ちらりとだけ、この地獄耳が捉えたが、エミリの母が何かを言っていた。強制的に話を軌道修正するしかない。)


「確かに出来るいい女だ。だが、実はそれでも半分も正解には達していない。そもそも魔族には抜け落ちていることがある。分かるか。お前たち、幹部は日頃何を食べている? 以前は虫とか草とかm鼠とかを食べていた筈だったが……」

「それは進化する前ですよー、ご主人。ウチは普通にパンとかお野菜とかお肉とかを食べてます!」

「俺っちもカップラーメンとかカップやきそばとか食ってますよぉ。やだなぁ、虫だなんてぇ。」


 そうなのだ。

 いろんなゲームの演出でも、魔王幹部はけっこう良い物を食べている。

 魔王城の食卓描写はかなり豪勢なのだ。


 イーリは置いといて……、いやカップ麺もこの世界では高級品かもしれない。

 そしてゲーム上、フィールドの演出がアーマグに入るとおどろおどろしいものになっている。

 木なんてほぼ枯れている。


 なのに、幹部クラスは良い物を食べている。

 ということは、だ。


「それらの食材、全てエステリアで取れた物で間違いない。そして今までは人間たちから強奪していた、という設定の可能性が高い。ちなみに俺は不戦の誓いを立てた。だから、もう人間から食材は奪えない。付け加えるとアーマグの大半は農耕に不向きな不毛の大地だ。」


 そう。

 この流れにするべきなのだ。

 

「ってことはぁ、ウチたちの莫大な資金で食べ物を買い占めたらどうですか?」

「そっすよ。金があれば全てが手に入るんすから!」


 そして、漸く話を進めることができる。

 正直言って、お金の話はここに繋げるためだった。

 更に言えば、お金の話はきっとこれから先に嫌でもすることになる。


「当面はそれでも良いだろう。だが、彼らも自分達が飢えるわけにはいかない。争いが起きないということは、人口も増え続ける。となれば食料が必要となる。金は食えないし、行商人の往来もほとんどない。それにエステリアの人間のほとんどはまだ古い文明のままだ。アーマグの科学技術が必要になるのはまだ先。」


 これらも全部、次のお話に繋げる為。


「田舎では物々交換が当たり前だろうから、下手をすればこちらまで食料が回ってこない。条約で土地購入は禁止されていることは言っておかなければなるまい。どんなに技術が進んでも、自然が育ててくれる農地ほど効率的なものはない。」

「なるほど、確かにそうですね。でも、それとお金を減らすのとは、どういう関係があるんですか、ご主人。」


 ラビがふむふむと考えながら、レイにクリティカルな質問攻撃を行った。

 マジレスはされたくなかった。

 だって、今回は……


「ラビ、答えを求めるのは早計だ。そして我が国に絶対的に足りていないのは食糧のだ。このままでは幹部クラスまで魔物肉とかミミズとかを食べなければならない。だからこそ、エステリアの食糧生産事情を知っておくべきだろう。そして出来ることならば、大農場と有効的な関係を築いておきたい。だから今回は、エミリを連れてエステリアに渡ってくる!」


 ——というわけで、エミリエンドの物語が始まる。


          ♡


デズモア「ガハッ……、こ、これが……、真の愛の力…………、なるほど、私にはない人間の力……か…………」


 そう言って、邪神は頭からチリとなって消えた。

 二人の愛の力に邪神はどうすることもできなかった。


 ただ、勇者とて無敵ではない。

 その力を全て使い果たし、地面に横たわった。


 真っ暗な世界。闇の中。

 もしかしたら全てが幻だったのか?それとも死後の世界。


 分からない。分からない。分からない。


 でも、一つだけ分かることがある。暗闇でも寒くはない。むしろ暖かい。


 その中で彼は声を聞いた。


「——きて……きて……起きて!」


 声だけで分かるのに、なんていうか、少し照れてしまう。

 この感触は知っている。彼女と初めて出会った日。

 あの道でぶつかった時につい触れてしまった柔らかな感触。


 だから彼はゆっくりと目を開けた。


「エミ……リ」


 エミリの胸に抱かれているのが少しだけ恥ずかしい。

 それになんというか……、大きすぎて顔が見えない。

 だからエミリの顔を見ようと彼は双丘に手をやった。


 引っ叩かれるかもしれない。

 そして全ての夢から目覚めるかもしれない。


 でも……


「もうー。今日だけだからねー。それに、それでアルフレドの傷が少しでも言えるなら、アタシも嬉しい。それに……」


 そう言って赤毛の少女は頬も赤く染めた。

 優しい笑みをくれる独り占めできる天使(エミリ)


 その時、女神が祝福の鐘を鳴らした。


 そしてパラパラと拍手が二人に浴びせられる。


フィーネ「やっと気づいたの?エミリに感謝しなさい。あなたの頭が痛くないようにずっと抱きしめてたわよ。」


ソフィア「うふふ。エミリっぽいですね。それに勇者様も嬉しそうで何よりです。それに世界も平和になったことですし。」


アイザ「うーん、妾にはできぬ癒しのちから。ガクっ」


リディア「アイザちゃん、どんまいです。もっと牛乳を飲みましょうね。ところで、この魔王城は実は結婚式場だったのですよ、勇者様。これからやることがちゃんとありますよね!私たちだけでは不満かもしれませんが……」


アルフレド「ううん、ありがとう。みんなが俺の家族だから、全員揃ってる。」


エミリ「うん!私もみんなのこと、家族だと思っているよ。じゃあ着替えてくるからゼノスを柱に括り付けておいてね!」


ゼノス「おい、ちょっと待て。俺はどっちもいけるだけだ。っていうか、ちょっと、いや、かなり羨ましいぜ。」


アイザ「もう、ゼノスにはアイザがいるのら!」


フィーネ「みんな、はしゃぎすぎよ。エミリ、私が見立ててあげるわ。」


 そしてエミリは胸がこぼれ落ちそうな若草色のドレスで再登場した。

 ゼノスにはしっかりとアイザが目隠しをしたらしい。


仲間「エミリ、勇者様。結婚、おめでとう!!」


 そして数日後……


 二人の姿は悲劇の起きたエミリの農場にあった。

 惨劇のせいか、そこは廃墟にしか見えなかった。


アルフレド「まずは父上と母上のために祈ろう。」


エミリ「うん。お父さん、お母さん。エミリのこと……、見守ってくれて……、あり……が……とう」


 そう言ってアルフレドの胸で泣くエミリ、それを優しく抱きしめるアルフレド。


アルフレド「エミリ、これからは俺がお前を守るから。」


エミリ「うん。でも、でもでもー。アタシはもっと賑やかな方がいいなぁ。その方がいっぱい畑を耕せるしね。勇者様でしょー、ちょちょちょって作ってよね。ア・タ・シ・た・ちの家族を……。」


アルフレド「な、そんな簡単に……。その……、物事には順序が……。っていうか、父上と母上も賑やかな方がいいよな。よし!今からひと頑張りするかな!これから宜しくな、エミリ。愛しているよ。」


エミリ「うん。アタシも愛している、アルフレド。世界を救ったアタシのヒーロー!」


アルフレド「よーし!頑張っちゃうぞー‼」


          ♡


「そして、数年後……」という文字が出て、大人数の子供たちが鍬を構える大きな一枚絵が描かれる。

 そして、まだいるの?と呆れるように、赤子を抱えたアルフレドとお腹の大きなエミリ。

 これが所謂、一番辿り着きやすいと言われる『子沢山・エミリ・エンド』。

 そして別れたはずの仲間達が二人の子供たちに翻弄されている一枚絵がフルスクリーンで浮かび上がる。

 勿論、Finの文字も。


 そして、フィーネエンドと同様に、そこからしばらく待つとオープニング画面に戻る。


 ——だが、実際のところ、簡単にエンディングに辿りついてしまうから、デズモアを倒して暗転したらガッカリするという、ユーザー目線が存在する。


 でも、リアルにエミリを見ると、どの口がそんなことを言ってんだとキモオタ達をぶん殴りたくなる。

 それほどにエミリは尊い。


 それに、このエンディングでは確かに二人は救われている。

 おそらく七人のヒロインの中で最も幸せなエンディングだろう。

 確かに二人には子供たちしか家族がいない。

 でも、その中に登場する二人は本当に幸せそうなのだ。


 勿論、それは「全てを失った二人だった」からこその選択なのだろう。


「っていうか、これ、めちゃくちゃ良いエンドじゃねぇか! 安易にハズレエンドなんて言ってた自分をぶん殴りたい。まぁ、とにかく。今はやっぱり状況が違う。エミリの両親はちゃんと生きている。前回全く触れられなかったのは苦しかったけれども!ただ、エミリの父親は畑が耕せない体になってしまっているし、回復魔法に厳しい世界というのは今までの経験上はっきりしている。」


 そんな赤毛ロリ巨乳エミリのエピローグを作っていく。

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