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悪役転生。転生したら裏切り役キャラになっていた。  作者: 綿木絹
エンディング後の世界編
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そうだ、エピローグを作ろう

 レイは彼らが想像しやすいように、と劇場仕立てで自分の状況を説明した。


「ご主人。そのクリスという女性は何かの能力者だったのでしょうか?」

「Zzzz……Zzzz……Zzzz……………グエ!死ぬぅ!……って、ここは。あー、そうだった。いきなり旦那が魔法を使ったから、気を失ってたんだ。」

「イーリは普通に出てただけでしょうが!ご主人が大変ありがたーい話をしているときに居眠りとは。ウチは同じ眷属として情けないです!」


 だが、あっという間に興味を失くす二人。

 確かに、この二人には関係ないかもしれない。

 そも、魔族は一夫多妻制も、多夫一妻制も認めている。

 そして、世の中に配慮したという謎の空気感で、この世界では同性婚も認められている。


「うーん。魔族にとっては興味のない話というのが分かった。っていうか、俺の話も意味が分かりにくかった。イーリはラビが折檻してくれるとして、ラビもラビだ。話の内容はどうでもいいんだよ。」


 ラビは単純にレイの例え話の内容に対しての質問だった。

 何度も略が出ているようにそこは重要ではない。

 

「では結末でしょうか。これはこれで良いではありませんか。苦難を乗り越えた二人が最後に結ばれる。まさにご主人が成し遂げたハッピーエンドです。」

「俺っちも主人公のスロカスが実はめちゃくちゃ強かったって下りは見習わないとなぁって思いましたし、なんなら俺っちも強くなった気がしてきやしたが?」


 そこで魔王は目を見開いた。

 それがこのクソつまらない例え話をした理由である。


「そう!そこが問題なんだよ。主人公はイーリをモチーフにしたから、イーリがそう思うのも無理はない。——それでだ、ラビ。例えばイーリと一緒に命を賭けた戦いをしていたとして、苦難を乗り越えて愛しあったとして、そのカップルが平和な日々を送れると思うか?」

「イーリのようなドクズとは一緒に暮らせません。」

「ラビさん?俺っち、やるときはやる男っすよ!」

「うーん、イーリだとなぁ。」

「んじゃあ、俺がそうだったら?」

「ウチが支えます!」

「ラビさん?俺っちと扱いが違いすぎるじゃないっすか!」


 ただ、ラビは賢い女悪魔だ。

 今のはただふざけていただけ。


「ウチだって分かってます。ジョージは戦いがなければ、どうしようもない男だった。それに引き換え、クリスはバリバリのキャリアウーマン。しかも働きながらも規則正しい生活を送れる女性。物騒な世の中ならその後も魅力はあるかもしれませんが、平和になってしまえば、戦い以外能がないジョージは甲斐性無し。しかも酒に女に博打まで。これは捨てられますよねぇ。」


 これが、今置かれた状況である。


「ちなみにこの手の続編、主人公ジョージは同じ役者でもヒロインが別の女優が充てられることが多い。この意味、分かるよな?」

「分かります!やっぱり、ジョージは捨てられているんですね!」

「ナンバー毎に助演女優を変えたいというメタ的な要素もあるから、ヒロインを変える為にドクズな性格になったという考え方もできる。普段ドクズな人間がここぞというときにヒーローになる展開が面白いってのが前提だけどな。」

「ふむふむ、確かに魔王様ってあれからダラダラと過ごしているっすよね。俺っちも結局借金生活してるし……ゲフゥ!」


 ラビの膝蹴りが彼の鳩尾に突き刺さる。

 これがまさに『吊り橋効果』であり、『戦場のみで真価を発揮するタイプ』の現実である。

 勇者だの魔法使いだの僧侶だの賢者だの、ステータスの職業欄にはそう書かれるかもしれないが、戦いが終わってみれば、勇者は無職だ。レイの日がな一日をダラダラと過ごしている姿は無職と変わらない。本来なら、魔王国の国づくりをしなければならないのに、彼は立ち止まってしまっている。


 ——ただ、この何気ない会話が、ひとつの物語を産んだことは確かだった。


「戦いのエンディングってだけで、人生はそこから再スタートなんだ。だから俺達の人生のエンディングはまだまだ先だ。そもそも、俺たちが住むこの世界は本来存在しない|tobecontinuedトベコン世界線。だから、あった筈のエンディングイベント自体が——」


 本当ならばエンディングロール後にもムービーがある。そして、後日談を考察できる大きな一枚絵でFinという言葉が付けられる。エミリだったら子沢山な平和な日々。キラリだったらカギッコホネッコとステーションワゴンを背景にして、そしてリディアなら……


 「——それか!それがこのモヤモヤの正体か。」


 ——finを書き換えたこの世界に後日談は描かれない。


 彼はモヤモヤの正体を突き止めた。

 本当に突き止めたのかはさておき、最初の一歩だったことは間違いない。


「ご主人?」

「魔王の旦那?」


 レイは椅子から立ち上がり、カーテンを開いた。

 そして、そこから広がるアーマグ大陸を眺める。


「俺たちが先ずやることは『オリジナルCパート』作りだ。それがないと、皆、新たな一歩を踏み出せない。やっぱ、ケジメが必要なんだよ!だから、俺たちなりのエピローグを完成させるぞ!」


 外から差し込む光が陰鬱とした会議室を照らす。

 多分、こっちは新婦側の部屋なのだろう。

 可愛らしい作りをしている。

 ゲーム内ではMKB三姉妹がここに鎮座している。

 そんな、可愛らしい部屋が外の光を浴びて、本来の色を取り戻した。


 そして彼は決意した。

 中途半端な尻切れで終わってしまったストーリーを自らで完結させることを。


「アルフレドとフィーネを呼んできて欲しい」


     ◇


 レイは鏡の前で髪を整えていた。

 魔族レイになったとしても、牙が生えた程度である。

 ツノは結局ほとんど生えなかった。

 男らしさのかけらもないツノをわざわざ目立たせる気にはなれない。


「髪をセットするなんて、何時ぶりだ?ゲームってオプションで見た目設定しないと髪型変わらないし。いっそ設定で丸坊主のドラグノフが羨ま……、いや、それはない。」


 ツノと反比例したように発達した犬歯。

 これは邪魔以外の何者でもない。

 この犬歯は口を閉じても剥きだした。

 マジで勘弁してほしい。

 歴史上に存在したと言われるネコ科哺乳類のサーベルタイガーが絶滅した理由がなんとなく分かる。


「旦那ぁ、スーツ、ここに置いときますよー。」


 悪いな、とイーリに返事をして、彼は久しぶりに見るあのスーツを手に取った。

 人間だった頃、最初の旅の宿で売り払った成金スーツ。

 てっきりどこかの誰かが手にしたと思っていたが、あっけなく見つかった。

 あの宿屋の店主も処分に困っていたらしい。

 同じ額と少しだけのお礼金を支払うように、と部下に命令をしていた。


「いや。こんな派手なスーツ、誰も欲しがらないか。まだ、びっくりするほど世界は変わっていないもんな。」


 それは仕方がない。

 Finを取り除いた世界、終わったことを示すムービーも流れていない。


「アーモンドの剣とセットで残ってたんだっけ。人類の裏切り者、喧嘩上等、死ね、色んな悪口を書かれているけど、やっぱり修道院は西にも動いていたのか?ラビ、水場はどこだっけ?流石に親の形見だと思うと綺麗にしたくてな。」

「ご主人!そんな雑用なら、ウチがやりますよ。なんなら部下総出で手伝います。」

「いや、いいよ。あんときの俺は混乱しすぎてて、実の親の死をほったらかしにしていた。これくらいしなきゃダメなんだよ。そもそもこの落書きって俺の恥だからな。俺自身で雪ぐ必要があるってことだ。」


(俺はこの世界を壊そうとしていたらしいし、実際にゲームを破綻させてしまった。そしてそれは色んな人や悪魔に影響を与えていた。世界を周れば気が付いていない歪にも気付けるかも?その穴埋めをしなきゃならんだろう)


 区切りをつける必要がある。

 だから、皆、決めていた筈のノルマをやっていない。

 誰もが決めたことを実行せず、ダラダラと過ごしている。


 あの二人が現状を報告に行かないのもおかしい。

 即ち、アルフレドとフィーネだ。

 フィーネの両親はこの世界では生き残っている。

 アルフレドもあの村とは縁が深い筈だ。

 里の皆も心配しているだろうし、レイ自身も両親の墓参りをしていない。


 レイモンドの両親アーモンドとカカオは、この世界線で死んでしまった数少ないネームドキャラなのだ。


「魔王の体で行けなかったってのもあるけどな」

「旦那は世界を救ったじゃないっすか。」

「エステリア大陸とアーマグ大陸で分けると決めている。それに魔王軍に被害を受けた村だからな。」


 ゲームシステムを管理していたアズモデ曰く、今回最もバグっていたのはレイモンドだったそうだ。

 サブキャラなのに中の人がゲームプレイヤーだったのだから仕方がない。

 プレイヤーだったから、最初からシナリオを改変してしまった。


『アルフレドとフィーネをほんの少しだけ足止めした後に、スタト村への最短ルートを進ませる』


 止めなければエルザ軍にアルフレドとフィーネは蹂躙されて、再び世界はリセットされた。

 回り道させれば無事にゲームはスタートするが、村は全滅していた。

 今のスタトは奇跡の村である。


 必死だっただけ、でも今はそれが過去どれだけいたかも分からないプレイヤー・レイによるゲーム破壊工作の一環だったと、今なら分かる。


「レイ!呼び出しってなんだ?何か、やるべきことがあるのか?結婚した後は色々忙しいと聞いていたが、正直何をすれば良いか分からなくてな。」


 レイが父親の形見を磨き上げたところで、アルフレドが飛び込んできた。

 そしてどこから聞いたのか分からない話を唐突に始めている。

 だが。


「ええええ、なんでアルまで居んのよ。私だけが呼び出されたんじゃないの?」


 と数刻前に入室して、レイの剣磨きを面白そうに眺めていたフィーネが白目を剥ける。

 今は兄と妹にしか見えない。

 外見は異なるが、それぞれがそれぞれを兄妹だと認識しているように見える。

 これも尻切れにしてしまった弊害かもと、レイには思える。


「二人を呼んだんだよ。それより、旅の支度はできているよな?」


 彼はそんな二人を見ながら、在るべきだった二人のエンディングを思い出していた。



          ♡


デズモア「ガハッ……、こ、これが……、真の愛の力…………、なるほど、私にはない人間の力……か…………」


 そう言って、邪神は頭からチリとなって消えた。

 二人の愛の力に邪神はどうすることもできなかった。

 そして満身創痍の二人は女神に永遠の愛を誓った。


 すると、パラパラと拍手の音が。


エミリ「ありがとう。そして……、おめでとう。やっと二人が結ばれたんだね。やっぱりフィーネには敵わないや。」


ソフィア「そうですね。でも、とってもお似合いですよ?それに世界も平和になったことですし。」


マリア「よーし、それじゃあ、私はおうちに帰ろっかな……、ってゴメン!二人は魔族に家族を殺された……のよね。本当にごめんなさい。」


フィーネ「それは終わったことよ。謝る必要なんてないわ。」


リディア「マリアさん、忘れていませんか?勇者様とフィーネは家族になったんです。それに、これからやることを考えたら、それどころではありません。」


エミリ「それに!アタシたちも家族でしょ?アタシはそう思ってるよ!」


ソフィア「そうですね。見届け人としてはとても少ないですけど、構いませんよね?」


アルフレド「うん、ありがとう。みんなが俺の家族だよ。」


フィーネ「そうね。本当に本当に。みんな、ありがとう!」


仲間「おめでとう!末長く幸せにね‼‼」


 純白とは言えない血塗られた服、ドレスやタキシードとは呼べない頑強な鎧を纏った二人は、幸せそうに笑った。


 そして数日後……


 二人は牧草地帯で、先程なぎ倒したばかりの木の上に腰をかけていた。

 周りには小鳥が飛び、蝶がひらひらと舞っている。


アルフレド「さぁて、今日はこの辺にしとくか。フィーネ、腹減ったよ。」


フィーネ「ちょっとー。まだ家の『い』文字もできてないじゃない。結婚早々、綺麗な奥さんに野宿しろっていうの?」


アルフレド「しょうがないだろー。それにここがいいって言ったのはフィーネじゃないか。」


フィーネ「それはそうだけど……。勇者様でしょー、ちょちょちょって作ってよね。簡単な家でいいの。そこで私たちは……」


アルフレド「あぁ、そうだな。俺はフィーネと一緒に静かに暮らしたい。ずっと考えていたことだ。……よし!もうひと頑張りするかな!これからも宜しくな、フィーネ。愛しているよ。」


フィーネ「うん。私も愛している、アルフレド。世界を救った私だけの勇者様!」


          ♡


「そして、数年後……」という文字が出て、赤子を抱えたアルフレドとフィーネ、そして別れたはずの仲間達が祝福に来ている画像が、Finという文字と共にフルスクリーンで表示される。


 そこからしばらく待つとオープニング画面に戻る。

 これがフィーネルートのエピローグである。

 

 ——二人は本当に救われたのか。


 そこはプレイヤーが考えればよい。


 仲間はたくさんできたが、アルフレドはそもそも孤児だ。

 さらに言えばフィーネの家族も死んでいる。

 そして二人とも故郷を失っている。

 彼らは世界のために戦い、そして世界を守った。

 だが、失ったものが多すぎるのだ。


 だから二人は


「静かなところで一緒に生きていきたい」


 という選択をした。

 ゼロではなく、マイナスからの再スタートという終わり方である。

 

 それでも二人は幸せなのだから、これはハッピーエンドだとも言える。


「でも、今は違う。フィーネの両親は生きているし、スタトの村人も半数以上が生存している。だったらやはり、故郷への凱旋こそがエピローグにふさわしいと思わないか、フィーネ?それにアルフレド。」


 エピローグをカットしてしまったのなら、有り得そうなCパートを作れば良い。

 それこそが、最初にやるべきことなのだ、と彼は思う。


 因みにレイは、二人が故郷に帰ったという話を聞いていない。

 勿論、黙って帰った可能性もあるが、


「フィーネ、スタト村の様子を見に行ってきたらどうだ?まだ、帰ってないんだろう?」

「……そういえば帰ってないかも。でも待って、アルフレドも行くんでしょう?この場合のアルフレドの立ち位置が気に入らないわ。」


 アルフレドは澄ました顔をしていた。

 まるで「フィーネよ、里帰りしなさい」と手を振っている。

 それがフィーネには気になって仕方なかった。

 そしてアルフレドも余計なことを言う。


「それは仕方ないんだ。俺とレイは世界の仕組みを考えないといけない。構想はあっても、何も着手出来ていないのが現状だ。だから、泣く泣くここに留まっている。でもフィーネは何も考えずに、ご両親と感動の再会をして来い。そのまま戻ってしまってもいいんじゃないか?」

「なんで私だけなのよ。アルフレドだってスタト村が故郷じゃない。まさか、私がいない内に既成事実を?そうはいかないわよ」


 こんな感じに、世界はずっとふわふわしたまま続いている。

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