デズモア・ルキフェ3
6ターン目
「もう嫌い!本当に嫌い‼こんな世界、燃えてなくなっちゃえ!」
デズモア・ルキフェはマグマの炎を口から吐いた。
レイは100の、エミリは150、ソフィアは200、マリアは150ずつのダメージを食らった。
「そ、そうだった。前衛は炎耐性持ちか。後衛も耐性持ちがいたんだった!ぐぬぬ、ならばやはり、これだ!これが一番よかった気がする!」
デズモア・ルキフェは覇道の杖を振った。
「次元破壊!』
デズモアで最も厄介な全体魔法である。
全員に400ダメージを与えるという凶悪な攻撃であるが……。
「えっと順番的にマリアが回復だな。完全回復、もう使っちゃっていいや。魔法節約なしなし!!デズモアもなんかおかしくなってるしー!」
「はーい。じゃあ、完全回復全魔法。マリアもLP貯めなきゃ‼」
「うふふ、私、溜まりましたよ。っていうかずっと溜まっていました♡ レイ、覚悟してくださいね♡」
ちょっと補足しておこう。
本来ならば、このゲージは好感度マックスのキャラしか出せない。
つまりはメインヒロインと、もう一人くらいしか出せない。
そしてそこでプレイヤーは誰々ルートかぁ、なんて考えたりするのだが、彼女達がレイを待ち続けたこと、一度は死んでしまったという悲劇を経験したことで、全員が好感度マックスになっている。
♡
ソフィア「レイに私の愛は伝わっているかしら。」
そう言って緑の髪を弄りながら、彼女は組んでいた足の左右を入れ替えた。
ソフィア「レイのために美味しいご飯、今日も作ったのに……。」
少女はそう言ってイスの座りが悪かったのか、よいしょっと座り直した。
ソフィア「私の声が聞こえているか、心配になります。」
少女は少し椅子の位置が悪かったのか、少し下品ではあるが足で蹴って少しだけ移動させる。
少し、音が聞こえた気がするが、彼女はまだ憂いに満ちた顔を浮かべている。
ソフィア「でも、こういうのもいいですね。ゆっくりと待つ。」
そして、落ち着いたのか彼女はそのまま動かない。
ソフィア「あぁ、レイ。こんなにも私はあなたのことを愛しています……」
彼女は虚空を見つめてそう言った。
ソフィア「今日も貴方の姿をこの日記に綴ります。私はここにいます……っと!」
そして冷めてしまった紅茶を飲むのだった。
ずっとずっと……彼のために……
『放置プレイ』
♡
二人の究極の愛の形は眩しすぎた。
そしてデズモア・ルキフェは30万SMポイントのダメージを食らった。
全員のHPが300ずつ回復した。
(って俺いないじゃん!……なんて無粋なツッコミをすると思ったか!俺、画面外でずーっと全裸で四つん這いだったからね!? ソフィアずーっと俺の事を無視して、俺の上に座り続けていたからね⁉……ってバカ!ソフィアのモーションはこんなんじゃ……なかった? こういうのもぶっ込んでたのかよ!まさかこれもアプデか? 謎アプデか? もう、恥ずかしいとこ見られてるし……、なんか、清々しいなぁ。……っておい、会場の全裸のやつ、お前も同じことされようと、四つん這いになるんじゃなない!ゼノス、あいつは実は良い奴だったのかもしれん。単純に喜んでるな、あいつ……。やっぱり事案だな。)
「ガハッ……、なんだ、この意味の分からない『力』はぁぁ!」
「SMポイントがダメージ認定されているんだ……。ち、ちなみに何ポイント食らったんだ?で、できれば教えて欲しいんだけど……」
「ふん。敵に60万ポイントもダメージが喰らってしまったと正直に言うバカがいると思うか!恥を知れ!」
(バカはいる……っと。っていうか、SMポイントって通常ダメージの二倍ってこと? あれか?こんな展開は知らないぞ。これも謎アプデで……って尖りすぎてませんかねぇ?で、また謎の回復。なんでこの展開で回復されるんだよ。)
「そ、そうか。知りたかったのに残念だ。だが、お前、ダメージ大丈夫か?まぁ、計算上はまだいける……か。んじゃあ、ソフィアも交代っていうか、俺を出せ、俺を!フィーネと交代だな。」
「それはチェンジっということでしょうか?」
「違う違う!そして言い方‼えと、その話はまた後にしよう……な。」
「承知しました。もっとレイ様を神の快楽に溺れされられるように精進いたします。」
と、言いながらソフィアはフィーネと……
「……フィーネ、ちょっとフィーネさん? えっと出てきてくれない?まだ順番じゃないから!その前に、あいつが降参してくれるって!それに、ちゃんと全員分あるんだから、創造神『鈴木』に悪いだろ?」
7ターン目
「全裸で女の椅子になる……だと? なぜだ。なぜ、HPに関係なく頭がクラクラするんだ!?あれか……、精神攻撃と言う奴か。ふざけたことを!!焼却してやる‼」
デズモア・ルキフェはマグマの炎を口から吐いた。
レイは100の、エミリは150、フィーネは100、マリアは150ずつのダメージを食らった。
「そ、そうだった。もはや全員が炎耐性持ちだった。そうだ、一回深呼吸をしよう。よし……。」
デズモア・ルキフェは深呼吸の波動を放った。
それによりレイ達にかかっていた魔法が全て解除された。
「違う、違う!今のは技じゃないんだ!」
「だめだぞ。三つまでの願い事で、ちょっと待ってとか言ったら、カウントされるやつだぞ。所謂ボタン操作ミスってやつだな。さて、今回はフィーネに回復してもらって……」
「えー、あんまりダメージ食らってないじゃん。マリアをそんなに焦らして楽しいの?レイ♡」
♡
マリア「ねぇ、私たちの出会い……覚えてる?」
レイ「あ、あぁ、俺が死にかけて……」
マリア「ね!本当によかった。私……、貴方に出会えて、いっぱい冒険して、泣いて、泣いて……でも……、やっとこうして、堂々と手を触れ合える……。」
レイ「マリア……?」
マリア「ねぇ……。一番じゃなくていいから……」
レイ「マリア?えっと」
マリア「ううん。ダメ。やっぱ、ダメよマリア。そんなこと言っちゃ……。レイ、大好きなレイ!私のことをずっと愛して!私、お金持ちだから、レイが無一文でも気にしない!だから、これは本当の愛なの!ずーっとぎゅーってしたい。背中から抱きしめて寝たい。」
レイ「む、無一文でも……いい……のか?玉の輿……だと?それに一緒のベッドで……。じゅるり」
マリア「もう、レイったら。それじゃあ、今度はレイが後ろからぎゅーってして」
レイ「それって……。マリア、愛してるよ。でも……、まだ全部が終わっていないから……。」
マリア「じゃあ、さっさとこんな戦い、終わらせましょう!!」
レイ「あぁ。そう……だな。マリアの為に俺も頑張りたい。」
『桃色の少女の恋』
♡
(あれ……。おかしい。絶対に何かがおかしい。だって……、これは彼女の気持ち、そのまま……。それはおかしくはないんだけど……。……そして俺の悪い部分の気持ちまで?いや、それは聞かれちゃダメなやつだけど!でもそうか、やっぱりそうなんだ……)
「アタシももういいよね!レイ、ずーっと好きなんだからね!」
♡
エミリ「先生……って最初に呼ぶんじゃなかったです。」
レイ「ん? 急にどうした?」
エミリ「だって、先生だと、どうしても子供扱いされそうで……」
そう言ってエミリはレイの顔を自分に引き寄せた。
だからレイは彼女のかなり早くなった鼓動を肌で感じることが出来た。
それにあったかい。彼女の胸に包まれている。
エミリ「ね、あたしだって女の子なんだよ?ちゃんと魅力的な女性です。そりゃ……、ちょっと乱暴なとこもあるけど……。その分包容力でカバーするね? どう?落ち着いた?」
レイ「あ……、あぁ。落ち着いた。ちゃんと生きてるんだな。やっと……、やっと実感した。それに先生と生徒、それはアリな設定だ。寧ろ、その為に改変したまである。」
エミリ「え!そうだったの?アタシの為に!ねぇ、それじゃあ先生。戦い方だけじゃなくて、いろんなこと、教えてくれる?」
レイ「いーや、駄目だ。」
エミリ「えー、どうして。」
レイ「それは———の上での戦い方だからだよ。」
エミリ「せ、先生⁉それじゃあ、楽しみにしてるね。その前に……、ぎゅーしていい?」
レイ「勿論。俺もぎゅーしていい?」
エミリ「うん!お互い、ぎゅーだね!あたし、ずーっとこうしていたかった。もっとぎゅーっとしてあげる。」
レイ「気持ちいい。癒されるよ、エミリ。エミリと一緒に居ると、元気になれる。だから、エミリのこと大好きだ。何度でも、何回でも好きって言いたい。エミリ、大好きだ!」
エミリ「あたしもレイの全部が好き。大好きだよ!レイ!」
♡
(なんか、エミリの場合。シャレにならない感じの本音だった気もするけど……。あのエンディングだし。っていうか!俺は何をぎゅーしたんだ⁉)
「もう……、私だけ……、残っちゃったじゃない。仕方ないから、はい!私の気持ち!」
♡
フィーネ「あの……、あのさ。私、ずっと言えなかった……じゃない? その間、ずっと考えてたの……」
レイ「フィーネ、あれはもういいって言っただろ。全部俺が……」
フィーネ「違うの!聞いて! えっと……、あのね……、すごく恥ずかしいんだけど。後、変に誤解はしないでよ?例えだからね、あくまで例え話!」
レイ「ちょっと、何を言っているのか、分からな……」
レイの口をフィーネは自分の唇で塞いだ。
フィーネ「え、えと。違うの。そういう意味じゃなくて……。今だったら、ちゃんと話し合って、ちゃんとあのムービーが来たって、私たちがお互いに考えていたら、ムービーイベントさえも変えられるんじゃないかってこと。」
レイ「え……!?」
フィーネ「あー、もー!分かんないかなぁ!だってレイ……、私がキス……するなんて思わなかった……でしょ?あ……、勘違いしないでよ。これはそういう為のキスだから! その……、カウントしないやつだから……」
レイ「でも、俺はカウントするよ。だって、俺フィーネとちゃんと向き合いたいから。」
♡
「あり……がとう……。レイがいてくれてお陰で、私はちゃんと考えられるようになった。好きだよ。レイ。」
「うん。フィーネ。俺もずっと君のことが好きだ。だから、これからもずっと……」
その瞬間、レイの頭の何かが繋がった。
それに心がとても温かくなる。
(フィーネが言いたかったのか、こういうこと?ムービーも乗り越えられる……。いや、違う。そういうのが言いたいんじゃなかったんだ。俺は何を考えていた。この恋愛アクションは、ラブポイントは主人公とヒロインの為のイベントだ。レイモンドである俺のために用意されたものじゃない。つまり……)
「そう……か。そうだったんだなぁ。俺はずっと……。えっと、みんなゴメン!」
レイは自分をぶん殴りたい気分だった。
このままじゃ、彼女たちの気持ちに応えられない。
だから今の気持ちを全部吐き出した。
「俺は今までずっと間違った考え方をしていた。これはゲームだからとか、この子の設定はこうだからとか……。ステータスはどう……とかさ。でも、それと気持ちは関係ないんだ。俺、本当に……馬鹿だった。ちゃんと皆、考えてくれていた。ちゃんと自分の足で立っていた。システム? ステータス? そんなのその次に考えるべきだった。俺……、本当にみんなのことが大好きだ。……だから、俺は絶対にこの世界を終わらせたくない!」
ゲーム内、ゲーム設定の異世界、そしてただの異世界。
ずっと考えて来たことだ。
でもそんなこと、どうだってよかった。
彼も、彼女たちも、ちゃんと生きている。
それなのにレイはずっとゲームのことばかり考えていた。
勿論、そうしなければならなかった部分も多い。
でも、レイは今まさに彼女たちの心に触れて、改めて自分自身に誓った。
——絶対に自分のターンで解決してやると。
だから銀髪の青年は、悪魔になった青年は、魔王になった青年は、全てを無かったことにしない為に最後の戦いを始める。
「俺は俄然やる気になった。だから、デズモア。早く第三形態になってくれ。じゃないと先に進めない。」