イノシシお買い上げいただきました
「では改めまして、私はロザクロー冒険者ギルドの受付をしておりますニナと申します」
「あ、よろしくお願いします」
場所は変わり、最初の受付へと二人は帰ってきていた。にこやかな笑顔で自己紹介をする受付嬢のニナに、なんとか乙葉は頭を下げる。ちなみに彼女の脳内は酒が飲めない??嘘だろ??が九割を占めていた。
「依頼はあちらのボードにありますので、気になるものを受付まで持ってきてください」
多くの冒険者が吟味するように集まっている大きなボードをニナは指さす。依頼内容や報酬についても紙に詳しく明記しているようなので後で見に行こうと乙葉は頷いた。
「オトハさんのランクは最低ランクのGランクになります。ランクは依頼の難易度や達成数で昇格していくシステムです。依頼書には推奨ランクも記載されていますので、参考にしてください」
「わかりました。……あ、それからお聞きしたいのですが」
「はいなんでしょうか??」
「この町に来る間にモンスターを倒したのですが、買取なんかはしてますか??」
アイテムボックスに眠っている複数のイノシシを思い出した乙葉は、ついでだと質問することにした。
アイテムボックスはたくさん入りそうだが、あの巨体を捌く技術はない。いつまでも減らない状態で、箪笥の肥やしにようにモンスターを持っているのもなと考えたのだ。
「あぁ!モンスターの買取ですね!!買取は、この建物の横にある建物で行ってますのでそちらへ行ってください」
「そうなんですね、わかりました。ありがとうございます」
にこやかに手を振るニナに見送られながら、ギルドを出た乙葉はとりあえず門番兵の元まで戻った。言われた通り作り立ての冒険者カードを提示し、また冒険者ギルドにトンボ返りする。
今度はギルドの横に立つ建物へと向かった。先ほどいたギルドの横に立つと小さな建物のように感じるが、こちらもそれなりに大きな建物だ。
「あの、すいません」
ドアを開けると、作業中だった大男がこちらへ視線を向けた。顔に大きな傷のある少し厳つい風貌の男だ。乙葉の顔を見ると、爽やかな笑顔を浮かべた。
「どうした嬢ちゃん」
「モンスターの買い取りをお願いしたいのですが」
「あぁ、そうか!!すまんが冒険者カードを見せてくれ」
ポケットから冒険者カードを取り出し男へ渡す。カードを見てそれから乙葉に視線を向けた男は、カードを返しながら笑顔を浮かべた。
「嬢ちゃんここは初めてだろう??俺の名前はジョセフだ。よろしくな」
「千ヶ崎、あ、オトハ・チガサキと言います。よろしくお願いします」
乙葉とジョセフは握手を交わし、さっそくと奥へと案内された。奥ではすでに作業員が別のモンスターの解体作業を行っていた。その間を縫って奥へ進み、空いている台をジョセフはトントンと叩く。
「じゃあここに出してくれ」
「はい、これが後5体なんですけど」
アイテムボックスからあのイノシシを取り出し、台の上に乗せるとジョセフは感心したようにそのイノシシを凝視した。
「ファイアーボアだな。うん、損傷が少ない。それにアイテムボックスに入っていたから鮮度もいいな」
イノシシを食い入るように観察するジョセフの様子を見ると、かなり状態が良いようで乙葉は良かったと安堵のため息を漏らす。
彼の話によれば、こういう大型のモンスターは討伐の段階でひどく損傷してしまう場合が多いようで、ここまで綺麗な状態はかなり珍しいようだ。
乙葉の場合は小雪が一撃で倒してくれたおかげでこの程度の損傷で済んでいるが、本来なら数人でよってたかって一斉攻撃をしかけなければ倒せそうにない巨体だ。討伐段階で損傷が激しくなるのも無理はない。
「あと5体も空いた台に出してくれ。支払いは向こうの受付でやるから、あっちの依頼ボードでも見てちょっと待っててくれや」
ジョセフに爽やかな笑顔で送り出された乙葉は、一仕事終えたような達成感の中再びギルドの扉に手をかける。
今日は色々とあったのでもうすでに休みたい。そんな気分の中、乙葉はギルドにある依頼ボードを眺めていた。
Gランクの依頼は、町はずれの森にある薬草採取や迷い猫の捜索など比較的危険の少なそうなものが多かった。ファンタジーでよくある鑑定と言うスキルがあれば、薬草採取はお茶の子さいさいだろう。残念ながら乙葉にはその能力がないので図鑑との睨めっこ大会が予想される。
「とりあえず防具は買いたいよね。それから宿も借りないとなぁ……そのくらいのお金になればいいけど」
ファイアーボアの相場がどのくらいなのか乙葉はもちろん知らない。とりあえず今夜の宿屋代くらいになればいいなと、まだ見ぬ宿屋のベッドに思いをはせた。
依頼は森の奥深くまで行かずとも採取可能な、かなり初心者向けの依頼にすることに決めた。ファイアーボアがあまりお金ならなかった時の保険でもある。
「オトハさーん」
名前を呼ばれ振り返った乙葉を、ニナが手を振って呼ぶ。どうやら買い取り金額が出たそうで、急いで依頼書をちぎって受付へと向かった。
「今回の買い取り金額は、ファイアーボア6体、どれもAランクですので合計金貨9枚のお支払です」
「あの初めてなもので申し訳ないんですが、ランクっていうのは??」
「あ、そうでしたね!!買取ランクのご説明をしますね。ランクというのはモンスターの状態の事です。Aランクは比較的損傷がない状態、Bランクは損傷がかなりある状態、Cランクは損傷が激しく欠損部分がある状態とランク分けされてまして、買い取り金額にも大幅に影響します」
モンスターはどのような程度であれ一律同じ金額だと思っていたがそうではないらしい。モンスターを狩る時において冒険者は損傷をできるだけ減らし金額が下がらないことを意識するそうだ。
奥が深いなと金貨を受け取る。それと交換するように、先ほどちぎってきた依頼書をニナに渡した。
「薬草採取のご依頼ですね。場所はわかりますか??」
「すいません、この町に来たばかりで」
というより、この世界に来たのもついさっきですけどねという言葉は心にとどめておく。申し訳なさそうに視線を逸らし頬をかく乙葉に、ニナはいえいえと首を振った。
「初めての方は誰だってわかりませんからお気になさらず、無料貸し出ししている地図と薬草図鑑をお貸ししますね」
椅子から立ち上がったニナは、奥から地図と本を持って戻ってくる。何十人と触って来たであろう年季の入った地図と本を乙葉は頭を下げながら受け取った。
「助かります」
「それから、出過ぎた真似かもしれませんが、まずは防具などを装備した方が良いかもしれません。武器屋はここを出て右の道をまっすぐに進むとギルド系列のお店がありますので行ってみてください!!」
テロンテロンの服だった事をすっかり忘れていた乙葉は、ニナのありがたい情報に感謝した。先ほどまでその事を考えていたのに、そのまま行くところだったと冷汗をかく。
「依頼の場所は比較的危険の少ない場所ですが、気を付けて」
「あ、はい。あの、何から何までありがとうございました」
本と地図を手にギルドを出る乙葉に、ニナは手入れをされた綺麗な手を振り見送る。ロザクロー冒険者ギルドによくいる冒険者は、ガラの悪そうな男か巨漢が大多数を占めている。乙葉のような可愛らしい女性はかなり少ない。
「むさ苦しい冒険者ばっかり相手してるとつい応援しちゃうわよね。オトハさんみたいな可愛い子」
ボソリとニナが呟くと、近くにいた別の受付嬢がうまく聞き取れなかったようで首を傾げた。




