心に1000のダメージ
従魔契約はモンスターとテイマーまたは冒険者(人間)双方の承諾をもって、強い繋がりを得る契約だ。
魔法で一方的にというわけではなく、お互いに話し合いで納得のいく条件を出し合うのが一般的。中には魔具を使い強制的に言うことを聞かせるなんていうゲスなやり方が残念ながら存在しているようだが、もちろん合法ではなく見つかれば即逮捕案件だ。
話がそれてしまったが、とにかく双方が納得のいく条件を出しモンスターは快諾の呪文で、テイマーはモンスターに名を贈る事により両者納得の下で契約します!!と誰にだか宣言をして、晴れて契約が成立するのだ。誰にだろうか、神だろうかな。
そんな従魔契約をするのに適した職業が存在する。それが、テイマーだ。
理由は一つ、テイマーになる人の多くはモンスターの言葉をある程度は理解できるからである。
大体は生まれながらに力を持っている者が多く、青年期などに力が開花するものもいる。ただ、かなりレアなケースではあるが。
モンスターの言葉を理解できるテイマーは、ほかの冒険者よりスムーズに契約しやすいため適しているというわけだ。
しかしその力も大なり小なりで、魔力と同じように個々によって違う。人によってどの程度聞こえるかも変わってくるのだ。
この世界では、モンスターを下級モンスター、中級モンスター、上級モンスター、災害級モンスターと大きく五つに分ける。
声の聞き取り安い順は、災害級モンスター→上級モンスター→中級モンスター→下級モンスターの順のように知能の高いモンスターから聞き取りやいようだ。
ただ例外も存在する。災害級モンスターの中でも、人形のモンスターはテイマーでなくとも会話が可能な場合があるようだ。かなりレアケースのようではあるが。
テイマーになるものの多くは中級モンスターまでの言葉を理解できるものがほとんどの割合をしめている。極稀に下級モンスターの言葉を理解できるすごい奴!!も現れるらしい。
ギルドマスターであるエルダーが東雲の言葉を理解したのは、彼が単純に人間ではなくエルフであるからだ。ある程度は理解できるらしい。
ちなみにクリスタルボア(分類では中級モンスター)の声を理解していない乙葉。言わなくても、察していただけるだろうか。
残念なのことにチート能力は付与されていないようだ。残念なことに。
「……ぼ、凡人以下」
手合わせ願います宣言から夜が明けた翌日の早朝。乙葉は、またもギルドの保管庫に居た。今日は自分が名乗っているテイマーについてより理解するために本を読み漁っている。
モンスターについてを優先して調べ、なんちゃってテイマーです!!とあまりその辺を率先して調べていなかったのだが、昨日の一件でゴブリンと同じくらい常識がないと知り酷くダメージを受けたのだ。
あの異臭を放ち、よだれをダラダラと垂らしながら襲いかかってくるゴブリンと、私は、同じ、だと??と、かなりのダメージだった。
そこまで言われてはいないが、嫌なのだ。ゴブリンと同じなのは。
そして、今は別の事実にガックリと肩を落としていた。魔法もダメ、剣術もダメ、テイマーとしての能力もダメ。そんな事があっていいのか本当に私はポンコツなのか!?嘘だろ!?と乙葉は本を掴む手を、ブルブルと震わせた。
「……あれ??でも、小雪ってスノーウルフでしょ??上級モンスターのはずなんだけどな。……え、まさか上級モンスターの声も理解できてない??嘘だろポンコツすぎる!!!!」
ふと乙葉は震える手を止めて、視線を上げた。スノーウルフだと思う小雪は上級モンスターに分類されるはずだ。なのに、なぜだか彼の言葉を聞いたとことがない。
ちなみに上級などの分類は、依頼などの推奨ランクに照らし合わせるとスノーウルフを含むA〜Bランクが上級モンスター、C〜Eランクが中級モンスター、それ以下は下級モンスターとなる。
ちなみに東雲はSSランクなので災害級モンスターというわけだ。ちなみにSSランク冒険者は、現在この世には10人ほどしかいないらしい。
こう見ると、とんでもないことになっているのがよく分かる。初心者冒険者、災害級モンスターを従魔にする。字面がやばい。
いや、それよりも己のポンコツ具合のほうがよりやばいのかもしれない。乙葉は、ズーンっと誰から見てもわかるほど落ち込んだ。
(あやつは幼獣だから、まだ言葉を話せぬのだ)
ボソリと呟いた乙葉の独り言に、反応するように影から東雲は顔を出した。
幼獣だと??と彼女は真顔になった。確かに最初は綿あめのように小さかった。あの状態なら幼獣だと聞いても納得できる。しかし今やかなりの大きさだ。
(モンスターは名をもらうと強い力を得るものだ。モンスターによっては急成長してもおかしくはない)
「そうかぁ、そういうことね。じゃあスノーウルフの成獣になったらお喋りできるかもしれないんだね!!」
ワクワクするなぁと笑みを隠しきれない乙葉に、東雲は首を傾げた。
(主よあやつは、いや、まぁ、良いか。倒れても困るしな)
ボソボソっと話す東雲の声は、残念ながら乙葉には届いておらず、ニヤニヤとする彼女を残しサッと影の中へと戻っていった。
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所変わって、北門から出てすぐの草原へと乙葉たちはやってきていた。事前にエルダーには軽い手合わせをする旨を伝え、町へ被害がない程度ならとOKをもらっていた。
とはいえ、乙葉は自身の実力を嫌でも知っているので、東雲にほどほどにねと伝えている。
影から飛び出してきた小雪とひとしきりスキンシップをとったあと、剣をとり東雲と向かい合った。
(では、行くぞ主よ――)
攻撃を先に仕掛けてくる東雲に、乙葉は剣で応戦する。見るもののすべての視線が、一瞬でも逸れることがないほど戦いは白熱した!!――らいいなと吹き飛ばされながら乙葉は思っていた。
残念ながらすべて彼女の妄想である。東雲によって起こされた風に、成すすべもなく吹き飛ばされた。
ヒューンッと効果音が付きそうな飛び方をした乙葉は地面に叩きつけられる前に、小雪が見事にキャッチし大事に至ることはなかった。ほっと息をつく。
一方、東雲は呆然と立ち尽くしていた。実は彼女を吹き飛ばしたときに起こした風は、自身の勢いをつけるために行ったもので攻撃するつもりでやったのではないのだ。
羽を動かす準備運動のような、そんな感じ。まさか、それで吹き飛ぶと誰が思うだろうか。
(主よ、お主はもしやクソ雑魚と言うやつか??)
「グハァッ!!!!今、すごいダメージ受けた!!」
その通りですがね!!と草の上に寝転び不貞腐れる乙葉を駆け寄ってきた小雪と東雲はジッと見下ろす。
「東雲さんも、小雪も、愛想尽かしたなら従魔契約を解除してもいいよ。できるのか知らないけど」
(……悪かった主よ、そう不貞腐れるな。大丈夫だこれから伸びしろがあるということではないか)
寝転ぶ乙葉のそばに身をおろした東雲は、撫でるように羽根を器用に動かす。小雪も彼女の側によると、尻尾でファサファサと体を撫でた。
アニマルセラピーにより、少し機嫌を直した乙葉はスンと鼻を鳴らす。まぁ、どれだけ不貞腐れようともクソ雑魚なのは事実なのだどうにもならない。
(ただ、このままでは簡単に死ぬのは事実だ。どれ主よ明日から少しづつ我が鍛錬してやろう。魔力はあるようだからな)
「え、あるの!?前に試してみたけど何もできなかったよ私」
(あれにはコツがある。だが、我が教えるのだから心配はいらぬ。瞬く間にある程度の魔法を使えるように鍛え上げてやろう)
ギラリと東雲の目が光った。なんだか、嫌な予感がしてならない。魔法が使える!!と喜ぶべきなのかもしれないが、こういう目をギラギラさせるタイプはスパルタな人が多い事を乙葉は知っているのだ。
会社の先輩と同じ目してる。ゾゾゾっと背筋が粟立つ。
いや、やっぱりポンコツのままでいいや〜と逃げ出そうとするがすぐに御用となった。それから一週間、乙葉の予想通りのスパルタ特訓が始まった。




