従魔の方がしっかりしてるのなぁぜなぁぜ??
さて、問題はこれからだ。
テイマーまたは冒険者は従魔が増えた場合にギルドに申請する必要がある。従魔と言えどモンスターなのに違いはないので、その辺はしっかりと管理する必要があるのだ。
小雪の場合は最初に冒険者登録するときに一緒に申請を済ませている。
申請するとなると、ギルド関係者にはどう頑張ってもバレる。グリフォンを従魔にした初心者冒険者は世の中からどう見られだろうか。状況説明など諸々、面倒な事になりそうな予感はする。
グリフォンを従魔に!?お前が!?という反応になりそうだ。
しかし、グリフォンほどの強いモンスターが味方でいてくれるのは心強くはある。小雪ももちろん強いのだが、森のモンスターが息をひそめるほどグリフォンも強いモンスターなのだ。従魔になってもらうのはありがたい。
いやいや、そんなテイマー駄目だろう。主人としての威厳もなにもないと首をふる。いや、最初からなかっただろうか。
(なにか思案しているところ申し訳ないが主よ、まだ従魔契約は仮の状態だ。名を賜りたい)
一人もんもんと考えていると、グリフォンは身をかがめ乙葉の様子をうかがった。
仮契約??と首を傾げる彼女に、知らぬのか??とグリフォンは驚いたように目を丸めた。
テイマーといいつつ何も知らないなんちゃってテイマーなんですよといじける乙葉に、小雪は慰めるように柔らかな尻尾を押し当てた。
(まぁ良い、よく聞け。従魔契約はモンスターと人間双方の承諾があって初めて完了する。モンスターは快諾の呪文を唱え、主人となる人間はモンスターに名を授ける。これが従魔契約の流れだ)
「グリフォンさんは、詳しいですね。それってみんな知ってることなの??」
(まぁ、それなりに見聞きするからな。知らぬもののほうが少ないかもしれんな。まぁ、ゴブリンやグールなんかは知らんだろうが)
「私、まさか常識力ゴブリンと同じなんですか??ショック過ぎる」
(そんなことより、名を)
「そんなことより!?…………えーっと、ん〜??急に名前って言われても、そうですね」
グリフォンの姿を今一度じっくりと観察する。真っ白なワシの顔に、艷やかな黒い羽。黒い羽は夜の空を移したように綺麗で、段々と顔に向かって白く明るくなっていく。
あっ!!と乙葉は手を叩いた。閃いたぞとグリフォンに向かい合う。
「決めましたグリフォンさん!!あなたの名前は東雲でどうでしょうか!!」
(シノノメ??)
「私の世界では夜から朝にかけて東の空が段々と明るくなることなどを指す言葉なんですが、ほかにも夜明けなどの意味もある言葉なんです。グリフォンさんの艶のある綺麗な黒い羽が夜で、頭の白い毛は明るくなる空って感じで……まぁ、少し強引なんですけど。いかがですか??」
本当に滅茶苦茶強引な引っ張り方をしたので、これで大丈夫だろうかとチラリとグリフォンの姿を確認する。
彼は驚いたように目を丸め、そしてどこか泣きそうな笑みを浮かべた。
(夜明けか。うむ、その名が良い。良き名をありがとう主よ)
グリフォン改めて、東雲は頭を乙葉の額に擦り付ける。それを合図のように、乙葉と東雲を包むように光が溢れ始めた。柔らかで優しい光だった。
光はしばらくすると、ゆっくりと霧散していった。これで主従契約は結ばれたようだ。そういえば、小雪に名前をつけたときも光っていたなと過去を振り返る。
乙葉と東雲が額を擦り合わせている様子を見ていた小雪は、僕だけ仲間はずれはいやだ!!と突進する勢いで一人と一匹のもとに飛び込む。押しくら饅頭のような状態に、乙葉は一人静かに泣いていた。
東雲は艶のあるモフモフ、小雪は手も埋まるようなモフモフである。みんな違ってみんな良い。
「モフモフしか勝たん」
これからのことや、冒険者としての未来など、色々な不安が全て吹き飛んで、何もかもがなんとかなるよぉと根拠のない大丈夫に埋め尽くされていく。モフモフ、恐ろしい子ッ!!!!
というのは冗談で、小雪と東雲を連れた乙葉は思い出したように肩を落としながら冒険者ギルドへと向かっていた。
どんなシナリオがみんなを納得させれるだろうか。あーでもない、こーでもないと頭をワシャワシャとかき回す乙葉の横で東雲は重い溜息をついた。
(どうもこうも、ありのままを言えばいいだろう。心配せずとも、何事もどうにかなるものだ。流れに身を任せよ)
「すっごい悟ってる。人生2周目なの??」
(しょうもないことを言ってないで、行くぞ主)
ズンズンと進んでいく東雲に、あれ??私よりしっかりしてない??私よりも何倍も頼もしくない??と乙葉は言葉を失った。
冒険者ギルドへと帰ってきた乙葉は、依頼達成報告と追加従魔の申請を受付で行った。ちなみに、小雪と東雲には乙葉の影の中に入ってもらっている。
自分の影の中は一体どうなっているんだと、かなり気にはなるのだがその前に終わらせないといけない事があるので、一旦その件は保留にしている。
ニナに従魔申請の紙を記入し渡す。受け取った彼女は、ニコニコした笑みのまま数秒固まった。か細く震える指先で間違いですか??と聞いてくるニナに、乙葉苦笑いで首を振った。
「すすすす少し待っててください」
慌てた様子で席を立った彼女は、急ぎ足でギルドの2階へと上がっていく。しばらくして、エルダーがとんでもない勢いで階段を降りてくると問答無用で二階の部屋へと連れて行かれた。
体感数秒という速さに抵抗のしようもなかった乙葉は、二階の応接室でソファーに座っていた。
「ぐ、ググリフォンを従魔にされたと??」
「いやぁ、成り行きで」
あははっと後ろ頭に手を当てながら苦笑いを浮かべると、バァアンッとエルダーの両手が机を叩いた。置かれたティーカップがそれに合わせて少し飛び上がり何事もなくソーサーの上に戻る。
「いやいやッ!!前代未聞なんですがッ!?どんな成り行き!?」
「な、なんというか。体調不良勝ちみたいな」
「なにその勝ち方!?」
エルダーの目から逃げるように、視線をそらす乙葉。誰が言えようか、食べられると勘違いして自分の不摂生について必死に語り、結果ドン引きしたグリフォンが仲間になったなんて。
どんな経緯だよ。大人として恥ずかしすぎる。
「ま、まぁ経緯はこの際置いておきましょう」
コホンと咳払いをひとつしたエルダーは、自身を落ち着かせるために深呼吸をしつつソファーに座り直す。
「と、とりあえずそのグリフォンをお見せいただけることは可能ですか??疑っているわけではないのですが」
あぁ、虚偽申告防止のためかと納得した乙葉は、頷くと自分の影に向かって話しかけた。傍から見るとかなり危ない人間だなと客観的に見た自分を想像して、声が自然と小さくなる。
呼びかけに応えるように、東雲が影からゆっくりと姿を現した。
(いつも主がお世話になっております)
姿を現した東雲の第一声に、エルダーは固まった。「お父上ですか??」とこちらを向くエルダーに、乙葉は食い気味に否定した。そんなわけない。
(お初にお目にかかるギルドマスター殿、我はシノノメ。主は少々臆病な所があるが、心優しく良い人間だと我は思っている。今後とも主の事を宜しくお願い申し上げる)
「やはりお父上では??「違います」」
挨拶を終えた東雲は、すんなり乙葉の影へと戻っていった。
「それにしても、良いお父上、いや良いグリフォンを仲間にされましたね」
「えぇ、まぁ」
「ただ、申し訳ないのですが街の中で連れ歩くのはやめていただきたい。良くも悪くもグリフォンは目立ちますから、街がパニックになってしまいます」
「えぇ、勿論ですとも!!」
乙葉が素直に頷くと、エルダーは柔らかな笑みを浮かべた。
街の中にグリフォンが現れればそりゃ驚くだろうし、パニックになるのは目に見えている。それに滅茶苦茶目立つそんな事は望んでない。また変な目で見られるのは彼女としても願い下げだった。首を縦にふることはあっても横にふる理由はない。
ひとまず嘘ではないことは証明され、無事に宿屋へと帰り着いた。ずっと一人と1匹分の食事を用意してもらっていたが、今日からもう一匹分増やしてほしい旨を、ヘレンに伝えると彼女は快く頷いた。そのまま追加料金も払っておく。
部屋に戻り倒れ込むようにベッドに寝転ぶ。濃い一日だったと乙葉は大きなため息をついた。疲れから眠気を感じる乙葉に、影から頭だけをのぞかせた東雲が声をかける。
(主よ)
「なんですか??東雲さん」
(一つ頼みがあるのだが)
「なんでしょうか」
半分夢の世界へと歩き出している彼女の喋り方は、むにゃむにゃと力がない。
(主は自分が弱い弱いとよく言うが、具体的にどの程度の実力なのか知りたい。明日手合わせ願いたいのだが良いだろうか)
「……う??え、めっちゃ良くない」
一瞬で覚醒しガバリと起き上がる乙葉を無視して、よろしく頼むと東雲は影の中へと帰っていく。その後どれほど呼びかけようとも彼が顔を出すことはなかった。
彼女のせっかくの眠気は、綺麗さっぱり消え去ってしまったのは言うまでもない。




