作戦会議はしっかりと
今にも飛び出しそうな面々を、乙葉は素早く引き止めた。放っておいても良いかもしれないが、人手がいないと困る。
「皆さん冷静に、まずは座れ」
死にたくないという何よりも強い思いが、乙葉の表情と声色に現れる。大の男達は、恐ろしい形相の乙葉に動きを止めた。
「過去ゴブリンの巣穴が発見され、討伐部隊が組まれたことは数度あります。どの件でも苦戦はしているもののなんとか討伐に成功している。しかし、死者の数は多かった」
過去に何件かあった例をだしながら、乙葉は淡々とお前らそのまま突っ込んでいったら死ぬぞ??と遠回しに伝えた。
巣穴は今回もそうだが、狭い洞窟になっていることが多い。そんな場所で、大剣なんて振り回せば剣先が天井や壁にぶち当たるのは当たり前で隙ができるのも当たり前だ。
ゴブリン達は知性あるモンスターではないが、単純な馬鹿ではない。
人間がそんな馬鹿な隙をつくれば、絶対に見逃さない。当たり前だが、怪我人や死者もでる。
なのになぜ、大剣を携えた大男の比率が多いのか。素人でも首を傾げる構成だ。
そもそも細く複雑な作りをしている巣穴に、正面から突っ込めば中の構造をよく知っているゴブリンが有利になるのは誰でもわかるはずだ。
だが、なんの対策もされることなく毎度のこと正面突破、正面突破、正面突破である。
この世界の人達はゴブリンは激弱モンスターという認識が根付いているため、どうしても正面からでいいっしょ??という甘い考えになるのかもしれない。
しかしだ、過去の討伐を見聞きしてそろそろ人類は進化するべきだ。
「私に考えがあります。ただ、これが成功する可能性は100%ではありません。ですが、正面突破するより怪我人も死者も減るはずです」
「一応聞こう、君はギルドマスターの紹介でメンバーになった数少ない冒険者だからな」
リーダーの男が腕組みをしつつ頷いた。周りにいた冒険者たちは、ギルドマスター直々に??と乙葉を見る。その視線は、ただの好奇心だったり、嫉妬心のようなものだったり、どれにしても居心地は悪い。
「まずゴブリンの巣穴には緊急時の脱出用の抜け穴があります。それを塞いでいきましょう。土属性魔法や火属性魔法、風属性魔法が得意な方はどのくらいいますか??」
順番に得意な属性を聞き、集まる冒険者を流れるように見ると数人が手を上げていた。それをみた乙葉は頷いた。これなら大丈夫そうだ。
ゴブリンは襲撃に備えた緊急脱出ようの抜け穴を用意する習性がある。逃げる前に倒せばいいとそのことを知っていながら過去の冒険者たちは抜け穴を放置した。
その結果、入り口から入った冒険者たちの背後からゴブリンが襲うという構図が完成してしまうわけだ。
冒険者たちは、かなりプライドの高い人が多い。過去にそのような出来事があったとしても、俺らなら大丈夫!という謎の自信があるのだ。
命を前にして、そんなクソくらいなプライド捨ててしまえ!は乙葉の意見である。
乙葉の作戦はこうだ。
複数ある抜け穴を一つだけ残し、あとはすべて塞ぐ。残しておいた抜け穴から火魔法で洞窟内に攻撃。ゴブリンは火に弱いため、入り口から外へ逃げ出してくる。
巣穴は薄暗く狭い洞窟だ。入ってしまえばゴブリンとの戦いは苦戦する。だったら入らなければいい。
「外に逃げ出して来たら、そこからはその大きな剣を存分に振るってください。今回の洞窟は比較的小さいのでこの作戦が効果的と思われます」
「ちょっといいだろうか」
音羽の作戦をあらかた聞いたリーダーの男は、おずおずと手を上げてみせた。
「はい、なんでしょうか」
「火属性魔法で攻撃とは言っていたが、どれだけこの洞窟が小さいものだからと言って中からゴブリンが逃げ出てくるほど威力のある魔法は俺達じゃ使えないぞ」
他の冒険者たちもそのことを思っていたのか、うんうんと頷いている。
「それなら大丈夫です」
乙葉は火属性魔法と風属性魔法を併用して一種の火炎放射のようにして、巣穴からゴブリンを押し出そうとしていた。
そのように説明すると、リーダーの男は了解の意を示すように頷く。
「では、その作戦で行こう」
「お、おい、いいのかよ⁉こんなちんちくりんな女の作戦にのっちまって!!!!」
近くにいた冒険者の一人が、焦ったように声を上げる。ぽっとでの女の作戦にのるなど!!という意見はごもっともなので、乙葉は何も言えず成り行きを見守る。
「いや、彼女の言ったとおりゴブリンの巣穴討伐は毎回多くの死者を出している。死者や怪我人が少しでも減る作戦があるのであれば、やってみる価値はあるはずだ」
「いや、しかし」
しばらく話し合いは続いた。乙葉は話しに加わるとややこしくなるだろうと話し合いに参加することなく、小雪を撫でつつ話がまとまるのを待つ。
結果乙葉の作戦が採用され、作戦が早々に開始された。
まず行ったのは、抜け穴を見つける事。抜け穴は全部で5つ存在した。すべて小雪がゴブリンの匂いを元に見つけ出し、そこをゴブリンに悟られないように慎重に土魔法で塞いでいく。
残した抜け穴は、一番大きなものにしていた。せっかく炎の威力をあげようとしているのに、狭い小さな抜け穴だと威力が半減してしまうし、それこそゴブリンに悟られる危険性があったからだ。
残された抜け穴の前に、火属性魔法の得意な冒険者と風属性魔法が得意な冒険者が立つ。洞窟の入口前の冒険者達に合図を送り、二人に魔法を存分にふるってもらった。
放たれた炎が風をまとって威力を増してく、火炎放射のように凄まじい炎が抜け穴から洞窟内へと侵入していくのを見て、ここまでは順調だなと安堵する。
炎を見たゴブリンたちは、パニックになるはずだ。彼らは炎が嫌いなのだから。そして、緊急脱出の抜け穴から脱出ができないと考えた彼らが向かう先は、入り口だ。
しばらくすると洞窟の入り口の方が騒がしくなり始め、筋肉ムキムキの冒険者たちが自慢の大剣を振るっているのだろうと想像した。
小雪には、魔法を使い頑張ってくれている冒険者達が背後から襲われないように目を光らせてもらっている。
そんな中、激弱な乙葉は静かにひっそりと空気とかしていた。
いや、無理だから激弱を舐めないでくれ。だから討伐とかしたくなかった!!え?この剣?これは装飾品の一つです!!!!と誰にでもなく言い訳を並べる。
すべてが終わったあと巣穴を確認し、ゴブリンの殲滅を確認。
こうして今回の巣穴討伐はゴブリンを殲滅、軽症者数名、死者0人という異例の結果を残し幕を閉じた。




