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激弱冒険者に大量ゴブリン討伐は厳しい



なぜ空はこれほどまでに快晴なのに、自分の心は曇天なのだろうか。遠い目をした乙葉は、フリスビーを投げた。


北門から出てすぐの草原で、乙葉は小雪とともに遊んでいた。いつもなら薬草採取をしている時間だが、今日はそれどころではないのでお休みすることにした。


フリスビーは町を散策していたときに買った品で、魔獣用に丈夫に作られている。


小雪は普段影の中でジッとしていることも多いので、ストレス発散のための遊びだ。

ポーンと勢いよく飛ばしたフリスビーを、小雪は夢中になって追いかけている。平和な光景だ。


「それにしても、ランクが上がったのは予想外だった」


クリスタルボアの討伐は基本何人かで寄ってたかって討伐する事が多いため、単独で倒したことが大きかったようだ。

いや倒したの私じゃねーよ!?と心の叫びは、誰にも届かない。


一応と依頼ボートを見てみたが、やはりEランクまで行くと討伐系の依頼が増え比例するように薬草採取の依頼はかなり減っていた。


ゴブリン討伐ですって奥さん、そんなの絶対に無理じゃございませんこと奥さん。冗談半分に一人二役演じ、重いため息をこぼす。


フリスビーを咥えて帰ってきた小雪の頭を撫で、再びフリスビーを投げた。


どうしよう。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




Eランクに昇級(不本意)した乙葉がまず行ったのは、自身の身体能力がどれほどなのか調べること。

今更では??という意見が四方八方から飛んできそうだ。おだまりあそばせ。


言い訳をするならば、現在までなんとかなっていたし、俺って今どのくらい強いんだろう!!知りてぇ!!とどこぞの少年漫画の主人公よろしく強敵に突っ込んだりもしなかったわけで。

ようは、そんなこと考えもしてなかったのだ。うっかりうっかり。


町には冒険者たちが己の拳や剣の腕を試すための闘技場のようなものがある。

といっても客席のある大型の闘技場ではなく、どちらかと言うと道場のようなこじんまりとした場所だ。


この世界にやってくる前の乙葉の身体能力は、お世辞にも良いとは言えなかった。中高と文化部に所属し、体育の時は息を殺して時間が経つのを待っていたような子だ。いろいろとお察しいただけるだろう。


しかし、ここは異世界。もしかしたらと希望が少しあった。内に秘めていた才能が開花し、超最強のモブみたいなのになれたら良いななんて本当の夢物語である。


結果ボロクソにやられた。


剣術、体術ともにミジンコレベルだった。

では、魔術はどうだろうかと試してみた。森の中でファイヤーボールと叫んでみた。結果恥ずかしい思いをしただけで何も出なかった。


ここまでやってみて乙葉は察した。自身がクソ雑魚であると。


「なんの才能もないのは、笑う」


攻撃は小雪に全任せになりそうな未来が見えた。しかし、すべて任せるのも気が引ける。

そこで乙葉が次にとった行動は冒険者ギルドにある書物保管庫で、冒険者が閲覧可能な書物に片っ端から目を通すことだった。


前回のクリスタルボア討伐のとき、急所知っててよかったと心底乙葉は思っていた。どんな戦いでも、情報を多く持っている方に勝機は傾くものだ。


モンスターの名前、特性、そして急所。冒険者ギルドに置かれた本にはありとあらゆるモンスターの情報が記されている。これを覚え、指示をすることで小雪がスムーズに戦えると気がついたのだ。


ワタシ、クソザコ、チガウ。ヤレバデキルコ。


Gランクのときにコツコツ貯めたお金を先払いしているためこの先一ヶ月ほど、食と住の心配はいらない。

保管庫にあるガタガタと揺れる椅子に座り、少し薄暗い室内で大量の情報を脳みそをに叩き込んでいった。


そして、その脳に叩き込まれた情報が功を奏するのはそれからちょうど一ヶ月後である。


そろそろお金を稼がねばと、少し重い腰をあげた乙葉は初めましての冒険者たちと肩を並べていた。初の複数人での討伐依頼だ。


ちなみに彼女が選んだ依頼ではない。ギルドマスターエルダーから頼まれて仕方なく受けた依頼なのだ。


ことの発端は、ゴブリンの巣穴の発見だった。場所は町からそう遠くない森の中で、数件だが被害も出ていた。

旅人や行商人も利用する道にもゴブリンが出没し始め、冒険者ギルドが討伐部隊を組むことになったのだ。


通常のゴブリン討伐の推薦ランクは、Fランク以上。しかし巣穴討伐に関してはEランク以上と決められている。そのためEランク以上の冒険者が複数人必要になったのだ。

それはわかる、わかるけど!!でも!!と乙葉は頭をわしゃわしゃとかき回した。


「こんなこと言うのは恥ずかしいですけど、そんな羞恥心を捨てても叫ばせてもらいます!!私ゴブリンを倒せるほど強くないです!!激弱なんです絶対無理!!」 


ゴブリン討伐は比較的よくある依頼だが、巣穴が発見され討伐部隊が組まれるのは稀である。そして、死亡者も多いことでも有名だ。


ミジンコレベルの強さしかないのに、そんな場所行けるか!!強い人に頼んでくれ!!が乙葉の主張である。


今まで自身が(おこな)ってきた事とその結果。非常に情けないが、全力で伝えるしかなかった。いかに自分が弱くこの依頼を受けるべきではないか。


「うんうん、わかるよ。大変だと思うけど頑張ってほしい」


「全然伝わってない。あの耳は飾りなのか??」


しかし残念なことに、恥ずかしい発表をしただけで結果は変わらなかった。


「じゃ、頼んだよ」


優しそうな見た目とは思えないほど無慈悲である。乙葉は泣く泣く折れるしかなかった。彼はロザクローの冒険者ギルドを統べる長。一冒険者である乙葉はあまり強くも断れないのである。


ということがあり、現在討伐部隊が巣穴のそばで作戦会議を行っていた。いや、もはや会議というかこれは。


「では、正面から突破で問題ないな」


今回部隊を率いる隊長の男に、周りにいる冒険者が力強く頷く。


「おう!!やってやろうぜ!!」 


「あぁ!!ゴブリンなんて怖くねーしな!!」


それがさも当たり前のように巣穴の正面から叩き込むという決断になった。乙葉はこの脳筋たちの中で、痛む頭を抑えた。


まてまてまて。



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