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クリスタルボア


薬草はざっくりこの辺という情報しか手に入らない。そもそも自生した植物を採取するのだから、仕方がないことだ。


簡単に整備された道からはずれ、道なき道を進んだ先で拓けた場所にたどり着いた。


正面に見えた大きな木の根元に、小さな白い花が咲いているのを見て、乙葉は安堵のため息をついた。


ビオラのような白い花が今日の依頼の薬草である。この花を乾燥させて煎じると二日酔いに効く薬が完成する。


冒険者たちの中には依頼が達成されると打ち上げだとしこたま飲むやつも多いため、よく売れる薬の一つのようだ。


茎から摘み取りできた束を紐で結んで、そのままアイテムボックスへと放り込む。

あまり取りすぎると次が生えなくなるため、ある程度摘み取ると乙葉は終了と立ち上がった。


心地の良い風が、髪を撫でる。モンスターが出ない場所であれば昼寝がしたくなるような場所だ。


「さて、お仕事終了。帰ろうか小雪」


乙葉が薬草採取している間、傍らで眠っていた小雪が頭を上げる。ツヤツヤの毛並みを整えるように乙葉が頭を撫でると、小雪は気持ちよさそうに目を閉じた。


無事に本日の仕事は終了だ。昼食は森を抜けて帰り道にある草原で食べようと考え、歩き出した乙葉の足が早々に止まる。


甲高い悲鳴が聞こえたのだ、声からして女性。楽しそうなものでは、もちろんない。命の危機を感じたときに発するそれだった。


「どっちから聞えた??」


小雪の方を向くと、聞こえた方角へと鼻先を向ける。確実にヤバいものと遭遇し逃げているであろう声。そんな場所に自分が赴いて対処できるだろうか。


「いや、でもギルドに帰って助けを呼んでたら間に合わないかも」


ドクリ、ドクリと心臓の鼓動がやけにはっきりと感じられる。絶えず聞こえる悲鳴と判断を急かされるような焦りに、目を泳がせる乙葉の体に小雪は自身の体を擦り寄せた。


まるで、「僕がいるから大丈夫だよ、行こう」と言っているようだ。


「小雪急いで行こう」


腹をくくり、走り出そうとする乙葉に小雪が待ったをかける。なんだと乙葉が振り返ると身を低くさせ乗れと合図を送った。


「重かったらごめんね!!」


小雪の背に急いで乗ると、凄まじい速さで小雪が森の中を駆け出した。

しっかりと小雪の毛を持っていないと振り落とされそうだ。


木々の間を走り、大きな岩を駆け上り、なんの躊躇もなくその頂から飛び降りる。

早く向かわなければとは言ったが、これではこちらの寿命が先に尽きてしまいそうだ。


岩から飛び降りた先に、悲鳴の主とその原因はいた。格好からして冒険者のようだ。浮遊感に耐えながら、しっかりと情報を得ようと乙葉は目を開いて様子をうかがった。


確認できたのは四人の人間と、大きなイノシシだった。


「小雪、あのモンスターの動きを止めて!!」


心得たとばかりに小雪が一鳴きすると、魔法陣が複数展開しイノシシと冒険者の間に鋭い氷柱が突き刺さる。


イノシシは予期せぬ攻撃に、動きを止めた。


「あれ、確かクリスタルボア」


地に降り立った乙葉は、イノシシの姿を見て顔を引きつらせた。

クリスタルボアは何度も依頼ボードで見かけたことがあり覚えている。依頼の推薦ランクはCランクだ。


突然の援護に驚いた様子の冒険者たちの方へ振り返る。メンバーは全員女性のようでうち一人は重症の怪我を負っているようだ。


「そちらはクリスタルボアの討伐でこかれた方ですか??」


怪我人を庇いながらクリスタルボアと対峙していた冒険者のうちの一人が首を激しく左右に振った。


「私達は薬草採取に来ました。全員Eランクです」


私より上のランクの人じゃん!!そんな人たちが対処できないやつ私無理だよ!!と乙葉の心中は穏やかではなかった。


乙葉が状況確認をしている間、クリスタルボアは小雪が相手をしていた。ファイヤーボアの時とは違い、クリスタルボアは体が硬いためか少し苦戦しているようだ。


「とりあえず、ここから逃げてください。ポーションなどありますのでこれをどうぞ」


いつもすぐに取り出せる場所に仕舞っているポーションなどを渡すとすぐに逃げるように指示をする。

きっと自分たちがチョロチョロしている方が小雪が全力で動けないと判断したのだ。


小雪の攻撃は決定的なダメージをクリスタルボアにあたえていないようだった。まったくダメージがないかと言うとそうではないが、このままでは長引きそうだ。


クリスタルボアは白い毛並みのイノシシ型のモンスター。

一番の特徴は、真っ赤な鉱石のような牙で、この牙は加工されアクセサリーへと姿を変える。そこからクリスタルボアと言う名前がついている。


それほど危険なモンスターでないとされ、冒険者の推薦ランクはCと設定されているが、このモンスターの皮膚は非常に硬くCランク冒険者でも手こずる場合があると乙葉は受付のニナから聞いたことがあった。


そして、このモンスターの弱点も。


「小雪!クリスタルボアは攻撃する前に大きく口を開ける癖がある!そこを狙って攻撃して!」


クリスタルボアはオーロラのような光線を口からだす。これに当たると危険なのだが、この攻撃をするときに大きく口を開け静止する癖があるのだ。

そして、どれほど頑丈な体をしていても口の中まで頑丈ではない。クリスタルボアの弱点は口の中だ。


口を開け静止すると言っても一瞬のことだ。しかし、素早く動くことのできる小雪ならばその一瞬でもあれば問題ない。


クリスタルボアがバタリと倒れ、それを確認した小雪が爽快に乙葉の元へと駆け戻ってくる。


「よしよし!!良い子ね小雪」


小雪をわしゃわしゃと撫でながら、乙葉は酷い脱力感が全身を襲っていた。おそらく安心からのものだ。


彼女は本来ならクリスタルボアの弱点など知らなかった。

依頼ボートにクリスタルボアの依頼がたくさんあり、それをなんとなくニナに聞いていたことが今回の勝利に繋がったはずだ。


過去の私グッジョブと乙葉は過去の自分にサムズアップした。



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