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冬から春へ

 ちら、ほら。

 ちら、ほら。


 あ、雪だ。



 どーりで寒いと思ったら……。









 秋から冬に移り変わりはじめ。

 うっすらと積もった山間の駅。

 さすがに都会と違いますなあ。




 寒い!


 待合室にストーブが入る。ほわわ、あったかーい。

 しかし猫君、相変わらず定位置。君寒くないの?

 一緒に待合であったまろうよ。


 するとぶいっ、と横を向かれた。あれ?






 鼻を真っ赤にしたお客さんたち。手袋越しにトラ君を撫でていく。

 トラ君、何をするでもなく、黄金色のおめめをくりくりさせてお客さんたちを見送る。


 と、そんなお客さんたちの中に、見たことがあるような女性が。

 

 あ、ひょっとして、トラ君が終電まで粘ってた時に映ってた人ですか?

 

「そうです」


 時刻は朝6時。早いんですねえ。

 

「ちょっと街の方に仕事に行ってるので」

 

 女性はなんか恥ずかしそうに言うと、持っていたバックの中から、何かフカフカのを取り出した。


 なんですかそれ。


「この子が寒くないようにマフラーつくってきたんですよ」


 え?

 猫にマフラー?


 女性はトラ君をそれでくるむと、行ってくるねと手をふった。

 トラ君、にぉおんと小さく鳴いた。





 ところで、駅員さん。

 見かけはすごく若い。ハンサムさん。


 失礼ですが、お年は……。


「今年で27になります」


 あ。やっぱり若い。


 何でも話を聞くと、つい最近まで街の方で勤務されていたそうで、

 ここに来たのは3年くらいまえなんだって。


 その時からトラ君いたんですか?


 すると駅員さん苦笑した。

「前の人からの引継ぎみたいな感じです」 

 

 猫の引き継ぎとはこれまた珍しい。


 ってちょっと待って。と言うことはトラ君が先輩?


「そうゆうことになりますね」

 駅員さんはそう言ってトラ君を撫でた。

 トラ君のひげが、なんかエッヘンって感じに見えたのは気のせいだろう。




 


 桜の木から沢山葉っぱが落ちて、駅のホームまで風に吹かれて運ばれてくる。

 掃除が大変……と思ったら駅員さん、せっせせっせと箒でっ。


 ホームのあちこちに落ち葉の山が。

 

 ん?

 あ、いた。

 落ち葉の山の向こうに同系色の耳がっっ。


 猫って動くものが好きらしいからきっと、駅員さんの箒につられてやってきたんだね。

 今もほら、こうして駅員さんの掃除の手伝い……基、邪魔してる。

 こらこら、邪魔だからいつものとこに行ってと駅員さん。

 するとトラ君、せっかく集めた落ち葉に突進!

 落ち葉に埋もれてしまった。あらあら。


 するとその上から駅員さん、落ち葉をドドッと。

 にゃあ、とトラ君。なにするんだニャって感じ。


 まーまー、茶色の肉球に落ち葉くっつけちゃって。

 てかあれ?ひっつき虫までくっ付いてる。


 それと格闘中のトラ君。こっちの腕にくっ付いて

 あっちの腕にくっ付いて。


 一人猫ダンス踊ってたら、駅員さんが苦笑いして取ってあげてた。やれやれ。






 もーすっかり木々も丸裸。

 でも、その中では、春への準備で忙しい。

 雪は多分、そんな木々たちへの、ちょっと休憩して良いよって合図なんだろう。



 本格的な冬到来ーっっっっっっっっ。



 ちなみにこの地方はイイ温泉が出るそうで、

 冬本番になるとまた忙しくなる。

 プラットホームはちょっと油断すると雪が吹きこんで積もる。

 真っ白な中に茶色のトラ君。とても誌的だけど、危ない。


 てか猫ってあったかいこたつとか好きなんじゃなかった?

 トラ君が特別なんだろうか……ううむ。


 ん?何かトラ君が反応した……なんだろう。

 肉球の足跡付けてホームを探索。


 トラ君が反応したのは、キラキラ光る何か校章みたいなの。

 学生さんたちが落としたのかな?


 よく見つけたねトラ君。

 

 

「時々、お手柄なことしてくれるんですよ」と駅員さん。


 へえー、そうなんだ。賢い。

 

 その代わり、雪を散らかしてくれますけどねと言って駅員さんは笑った。







 冬もどんどん深まって、

 なんか今年一番の寒さとか。


 猫君は何処にと思ったら、駅員室に。

 

 さすがに、寒いからと中にいれたのだそう。


 でもトラ君外にでたがってる……あら。


 いつもの指定席には、あの女性がくれたマフラーが。

 でもトラ君、あれだけじゃ寒いよ。ここにいたら?



 どうしてそんなにあそこの席に拘るんでしょうね。


「たぶん、僕のためだと思うんですよ」


 え?どういうことですか?


 すると駅員さんはなんか照れたようにうつむいた。


 なんだろう。謎だ。







 どんどん季節は進んで、お正月も間近。

 師走がやってきた。

 お師匠さんも走る。だから師走。だから何と言われても困るけど。


 猫君も忙しい……い?

 確かに。

 駅員さんの邪魔をするのに忙しい。



 ちなみに、正月も休みなしなんだそう。


「書き入れ時ですからね」と駅員さん。


 


 やがてやってきた大晦日。

 故郷に帰ってきた人々で駅はにぎわった。

 トラ君の姿を見るのが久しぶりの人も多かったみたい。


 元気にしてたー?と撫でたり抱っこしたり。



 やがて今年最後の電車がホームに滑り込んできた。


 降りてくるのは、あの女性。

 

 ――おつかれさまです。大みそかまでお仕事大変でしたね。


「はい」

 

 トラ君がやってきた。女性の前を先導するように歩く。( ー`дー´)キリッとした顔で。


 ――それにしても、毎日こんな時間まで大変ですね。


 というと、それも今年までなんだって。

 何でも結婚されるとか。


 ――それはおめでとうございます。お相手はどんな方なんですか?


 すると彼女は少し頬を染めて、駅員室を指さした。


 え?

 あ、そうなんだ……!

 そうなんだ……


 それでトラ君ずっとこの人を待ってたんだ……。







 すぐに年が明ける。

 まだまだ寒いように見えるけど、冬の寒さは峠をこす。


 雪が湿ってきて、山間の川に綺麗な水を与える。


 春がもうじき……と思っていたら。




 トラ君が来なくなったと駅員さん。


 なんかあったんですかね?


「うーん、こればっかりは分かんないですね」

 

 因みに来なくなってからもう1週間近くになるんだって。

 これは心配だな。

 もしかしたら食べられちゃったとか?!

 

 せっかく冬が終わってあったかくなってきたのにっっっ


 

 


 それからトラ君はしばらくやってこなかった。

 お客さんも心配。そりゃするよね。

 

 トラ君がいなくなって、待合の窓口は見えやすくなったけど、なんか物足りない。


 駅員さんも心なしか落ち込んでいるようなっっっ



 そんな間も季節は廻り、

 やがて燕がやってきた……ああ、トラ君、君の大好きな燕だよ……


 ねえ、駅員さん、て窓口を見たら……あれ?


 茶色の姿がっっっ


 トラ君―もどっきてたくれたのか―って


 あれ?君、なんか小さくない?

 トラ君もう少し大きかったような……


 と思ったら……

 足元に子猫が。

 その後ろにトラ君が。



 そか。

 子づくりしていたのか!(ヲイ)


 トラ君の後ろには、同じトラ猫の姿。

 ご夫婦で出勤ですか。


 


 テチテチと歩くトラ君の後ろから、子猫が行儀よくついて来る。

 そんな横を駅員さんが歩く。


 もしかしたら、もう少ししたら。

 駅員さんの子供達と一緒に歩く姿が見られるかもね。



 





 山間の単線の駅。

 ここに毎日やってくるトラ猫がいる。

 そんな日常が、ここにある。


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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで一気読みして来ましたが、雰囲気が良い作品ですね。 トラ君が可愛いです。
[良い点]  2周してきました。    5部を読んでから最初に戻ると、また、違う楽しみ方ができました。    トラ君、とっても可愛いです!(*´∀`)  トラ君と会うことができてよかったです!  読…
[一言] テチテチと歩くトラ君。 久しぶりに読めて感無量です("⌒∇⌒") 駅猫はやはり名作ですね(^ω^) 自分がなろうへ来て、猫好きとなったきっかけの作品たち。その推し作品なので、また読めてとて…
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