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3/5

 桜の木がすっかり緑になって、霧みたいな雨が降ってる。


 夏の暑さはまだやって来ず、少しひんやり。



 えっと、トラ君は……

 いつもの場所に、タオルが敷いてあった。

 しかし本人、もとい、猫がいない。


 ホームかな?


 げこ、げこ、とカエルの鳴き声が聞こえてくる。トラ君……

 あ、いた。

 ぺたん、とお腹を付けて寝っ転がってる。多分ひんやりして気持ちいいんだろうな。


 その上をツバメが低空飛行。



 雨はまだまだ続きそう。











 雨合羽を着た学生さんたち。


 挨拶すると、はにかみながら返してくれた。


 雨だと大変だろうなあ。ここまで来るの。

 

 電車を待つ間、学生さんたち、脱いだ合羽をバシバシ水切り。

 それが窓口にでーんと座ってる猫君にパラパラ。

 迷惑そーにプルプルって顔降ってる。耳がぴくぴくしてる。


 猫ちゃん、行ってくるねーと学生さんたち。トラ君尻尾を振ってそれにこたえる。





 さぁぁぁぁぁぁぁ……と霧雨みたいなのが。

 山間の木々に深い霧みたいなのがかかってる。

 それが凄く厳かに見える。あの深い木々の間に何があるんだろう。


 トラ君は相変わらず定位置で、視線を駅の外に向けていた。

 駅員さんが敷いてくれたタオルに、さり気に猫の模様が入ってる。駅員さん、お茶目な人だなぁ。


 しかしさっきから猫君、熱心に外を見ているが、誰もいないよ?

 昼間、この駅はほとんど無人になる。駅員さん、この時とばかりに仕事を片付ける。

 待合室も誰もいないし……。


 猫君の視線を追うと、どうやら外の地面を見てるよう。

 なんなんだろう。


 ん?なんだの緑色の小さいのは……

 すごく小さいのが沢山跳ねてる。あれなに?


「あれ、カエルなんですよ」

 駅員さんが教えてくれた。

 え?カエル?


 でも緑色の滴にしか見えない……と思ったら、駅の構内に入ってきた。

 トラ君、警戒してるのかイカ耳な上に目がまんまるになってる。おいおい。


 駅員さんの話だと、この季節、時々こうゆうことが起きるのだそうだ。


 ――踏んづけちゃったりしません?


「まあ、うっかりそうゆうことはありますね」


 と言う駅員さんの靴に、カエルがぴょんと乗っかった。







 と楽しいハプニングとともに梅雨も明けて、

 ようやく夏到来!



 じーう、じーう、ミーンミンミンミーンとセミの大合唱!

 うわー、アブラゼミだ。暑くなるぞぉ。


 

 駅員さんの仕事も夏は増える。

 待合室のクーラーが壊れたり、切符の販売機の処にハチが巣をつくっちゃったり。

 そのたびにてんてこ舞い。

 で、相棒のトラ君はと言うと、なんと駅員さんの背中に乗っかってる!

 

 ――暑くないですか?


「暑いですよ」

 

 そりゃそーだ。毛皮だもんね。

 トラ君、おりたげなさい、駅員さん可哀想だろ。

 駅員さんも時々降ろすんだけど、でもすぐ追いかけてきて登ってくる……おいおい。

 駅員さんの制服のズボンに足引っ掛けて登ってくる。アイタタタタと駅員さん。


 トラ君、君も暑いだろう。何でそんなに引っ付いてんの?






 それにしても暑い。

 山間の駅だからまだ都会よりはマシなのかな。でもあつーい。

 で、夏となると観光シーズン。

 春とは別の意味でのお客さんが増える。このへんは谷川も綺麗だから、川遊びに来るんだよね。


 いいなあ。私も泳ぎたい

 夏ならではだよねー。綺麗な渓流でひと泳ぎ。


 ところでトラ君、夏になってからずーっとご機嫌斜めのような気がするのだが……。

 

「こいつ、夏が苦手なんですよ」


 駅員さんがなぜか意地悪そうな笑みを浮かべて言うんだけど……。

 


 やっぱ暑いからか。わかる。あつそーな毛皮しょってるもんね。


 すると駅員さん、違うんですよとまた笑って言った。

 

 うーん、ワカンナイ。なんのことやら。


 


 ( ゜д゜)ハッ!


 まさかのカナヅチとか?!

 と言ったらトラ君、ぎろっと睨んできた……ゴメンゴメン。






 

 それにしてもトラ君、ずっと駅員さんにべったり。

 なんで?

 

 でも駅の外のロータリーに、大きな木があるんだけど、そこ掃除に行くときだけは着いて行かないんだよね……。


 入り口でお座りして待ってる。

 

 そんなトラ君を駅員さん、よいしょと抱きかかえてロータリーの掃除に……と思ったら、


 トラ君、にゃにゃにゃともがいて駅員さんのホールドから脱出!

 ダッシュで構内に戻ってきた!


 あれ?これは……。


「こいつ、セミが苦手なんです」

 

 あ!


 その木はセミの住処になってて、もー、凄い音がするんだけど、

 もちろん駅の中にも飛んでくるんだけど。


 それで駅員さんにしがみついてたのか……君……。


 カエルといい、セミと言い、夏は君にとって災難な季節だな……。





 


 アブラゼミから、オイシイツクツクに変わるころ、学生さんたちの姿で駅はまた賑やかになった。

 心なしか、風もさらっと乾いてきたような。

 トラ君、まん丸の肉球を伸ばして、いつもの定位置でお昼寝。


 オシイツクツクに変わったら、夏ももう終わり。

 山の木々が色づき始める。



 実りの秋がやってくる。




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― 新着の感想 ―
[良い点] あ、ツクツクボウシの別称なのですね! にゃふふヽ(=´▽`=)ノ
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