冬
山間の田舎。単線の駅。
そこに毎日やってくる一匹のトラ猫がいる。
「やあ、また来たのかい?」
駅員さんが声をかける。
猫君、茶色の尻尾をふりふりさせつつ、駅員さんの足の間をすり抜けて……どこ行くの?と思ったら。
受け付けの前に座った。あら。
駅員さん、掃除をすませてやってくる。猫君を窓口からどかす。でもまた、元に戻る。
お客さんたちが、トラ君の耳の間からのぞきこむ。
お金を出すときや、切符を受け取る時に耳に触れると、しかめっ面をするトラ君。
そんなトラ君をお客さんがいってくるねとナデナデ。
そんなお客さんにトラ君、尻尾で答える。行ってらっしゃい。
雪が降りだした。
なにせ山間。降りだすとすぐ積もっちゃう。
お客さんが滑らないようにと、せっせと駅員さん雪かき。
えーっと、トラ君は……と。
あ、いたいた。駅員さんの後ろにいる。何をするつもりなんだろう。
と思ったら……
駅員さんが集めた雪に猫パンチ!
あー、トラ君、そんなことしちゃだめじゃない。
駅員さんがやってきて、トラ君をコートの中に押し込んだ。
駅員さんのコートの襟の中から、茶色の耳がのそのそ。
あったかいのか、目をつぶりだす猫君。
もしかして、ここに入れてほしくていたずらしてた?
ぷしゅー、と電車が到着する。
駅員さん、改札に向かう。トラ君はどうするんですか?
すると駅員さん、苦笑して言った。
「このまんま仕事します」
何でも降ろしてもまた入ってくるんだとか。
えー、そうなんだ。試しにやってみてください。
いいですよって言って駅員さん、トラ君を降ろした。するとぴょん!と駅員さんのコートの中の入り込んだ。
お客さんが改札にやってくる。
いつもこの駅を使ってる人は慣れてて、なんとも言わないけど、
多分観光客さんたちかな。
カワイイー、って撫でてた。
ネコ君、満足そうに目が糸目になった。
さて、そんな猫君だが、駅員さんが駅員室にいる時は、やっぱ窓口に座ってんだよね。
うーん、
駅員さんのことが、好きなのかな。
すると駅員さん、苦笑いして言った。そうでもないですよと。
「時々、だっこするとシャーされるんですよ」
えっ?シャーって、爪立ててくるんですか?
すると駅員さん笑って頷いた。
まとわりついたりシャーしたり忙しいな君。
そんなトラ君だけど、
何時までここで粘ってんですか?って聞いたら、終電までなんだって。
えええええーって言ったら、動画見せてくれた。
駅に終電が到着すると、トラ君、いそいそって感じでホームへ。
真っ白い雪に、肉球の足跡付けて誰かをお出迎え。
電車から一人の女性が降りてくる。
トラ君、その人にスリスリスリ。
まっててくれたんだー、って言ってその人、トラ君を抱っこした。トラ君大人しく抱っこされてる。
これはかなり仲が良いと見た。
女性はトラ君を窓口の処に置くと、じゃあねと言って去ってった。誰かが迎えに来たのか車のライトが見える。
へー、すごい、なんかほんと、駅員さんばりの仕事してんじゃん。
そのあと、トラ君はいなくなってたんだけど……
――この猫君、どこに住んでるんですかね? 飼い猫かな?
「いやー、飼い猫じゃないと思いますよ」
駅員さんの話では、このあたりは古い木の祠みたいなのが多く、
多分そこで寝泊りしてるんじゃないかってこと。
そうなんだ。
寒いから、風邪引かないようにね。トラ君。
どさ、と雪が枝から落ちてきた。
そうそう、夕べ湿った雪が沢山降ったんだ。
枝がキラキラしてる。つぼみが見える。
春がもうすぐそこまでやってきてる。