第一章 Turn 1 :大魔術師アールヴィント、勇者を召喚(契約のもと移送)する
◇Opening:平和の終焉◇
セデレイト王国国王トランガイスは、旧弊を打破し、貴族を抑えつけつつその権利を少しずつ削り、王都や各地の都市民を味方につけて停滞した大陸の再生を図ろうとしていた。文武に優れた国王の前に立ちはだかったのは、北部のユグーリ地方に突如出現した魔軍であった。魔王出現前にこれを叩くべしと、決戦を挑み、見事魔将軍ゲビリドを討ち取った国王だったが、不治の呪いを受けてしまう。国王不予の報は大陸を駆け巡り、不満を抱えた貴族たちは離反を始めた。
一方そのころ、大魔術師アールヴィントは勇者候補(兼助手)を探すべく、ふらっと日本に訪れていた。
そして出会う
空腹で死にかけた
くたびれた中年男性に……
■第一章 Turn 1 :大魔術師アールヴィント、勇者を召喚(契約のもと移送)する
◇Event:???:勇者召喚◇
「ああ……腹減ったなぁ……」
人生は、ちょいとした切っ掛けで転がり落ちるもの。
生活は段々と苦しくなり、貯金も尽きた。
中途半端な経歴しかない俺が就ける仕事もなく、もう色々と頑張る元気も理由もない。摩耗しただけの心。
ただ空腹だけはつらかった。
半分は自業自得とはいえ、悪いことは何もしてない俺がこんな目に遭うのは理不尽だと思っても、やるべきこともやっていたわけではなかったなと諦観する。もとより、人間として生きるには向いてなかったのかもしれない。
ああ、ひと月くらいすれば、誰かが腐乱した俺を発見するのだろう……
ピンポーン
来客……出る気もない。
最近は勧誘ぐらいしか来ない。
ピンポーン
出ないって。
ピンポーン
出る気がないってわかってるだろ
さっさと次行ってくれ
ピンポンピンポンピンポーン
一体なんなんだ?
あまりにしつこい。
だが俺ももう動き気力も意思もない……
ガチャリ
鍵が開く音。
閉め忘れていただろうか。
だが、開いていたとしても入ってくるとは非常識な。
泥棒か?
トットットットと軽い音とともに忍び寄る。
ガラガラと安物の引き戸を開く音。
人の気配。
「あらあらあらぁ~。こぉーんなところで半死体ですかぁ~?」
女性が、一人。覗き込むように俺を見ている。
奇矯な格好。
魔術師気取りか。
コスプレか。
変な勧誘か。
はたまた幻覚か。
美少女、といえば美少女のはずだが、言葉にできない異様さが付きまとっている。邪気というべきか。恐怖というべきか。
あるいは死神のたぐいかもしれない。
「おやおやおやぁ~?逃げないんですかぁ~?逃げないんですねぇ~。こぉーーんなにもリグの思念が臨界なのに。それとも逃げられないんですかねぇ~。」
「……騒がしい。さっさと帰れ。」
「あらあらあらぁ~。喋りましたか。喋りましたね?いいですねぇ~。わざと抑えてないのにその反応、最高ですねぇ~。気に入りましたよ半死人。いや~、苦節3日、とうとうイイ感じがイイ感じですねぇ~。」
静まるどころか、更に騒がしくなる。
どうしたものか。
せめてこのまま眠るように静かに……と思っていたが、どうもそうはいかない。
「用件はなんだ。もう腹も減ってるし眠いんだよ。さっさと済ませてくれ。」
声を出すのも億劫だが、早々と終わらせたい。
「いいですねーいいですね~。もう最高ですねぇ~。おなかが空いてお話しできないということであればぁ、これがありますよぉ~。大魔術師アールヴィント様がそこらへんの1日くらいの観察と思考の末にそこらへんのスーパーで買ってきた秘薬……甘酒ですっ。」
薄汚れた小さな部屋
奇妙な少女
握りしめられたパック入りの甘酒(ストロー付き)
理解力と体力の限界を試された俺は、とりあえずその甘酒を飲むことにした。
◇
「で、話とはなんでしょうかね?」
とりあえず空腹も収まり、頭が少しは働くようになったので、話をする体制に入る。
……座っただけだが。
「そうですねぇ~。何から話しましょうかねぇ~。とりあえずこの契約書にサインをお願いできますかねぇ~。」
ポンと、どこからともなく紙と羽ペンが現れる。
中性紙とも藁半紙とも違う……まさか羊皮紙か?
「説明無しにサインする馬鹿が居るか……」
「ですよねぇ~。やっぱりそうですよねぇ~。ま、端的に言ってしまえば、助手が欲しかったんですよ~。これがもう、ほんと、みんなリグの思念にあてられて逃げちゃうんですよ~。いやぁ、ちゃんと一生懸命抑えてるんですよ?でもでも、やっぱ時々漏れちゃうんでしょねぇ~。なんてことで方々探し回った挙句にこぉ~~んな遠いところまで来てしまったんですねぇ~。条件は衣食住の保障と週休3日。あとはそこそこちゃんとした給料がでますよ~。どうどう?いい条件でしょ?職場がちょ~~~~~~っと遠いんで、二度とここへは戻れないと思いますけどねぇ~。」
なるほど。
契約書にも大体同じことは書いてある。
相変わらず意味不明だが、ここで腐乱死体になるよりは、あるいは意味があるのかもしれない。
「……いいですよ。契約しましょう。」
「あらあらあらぁ~。いいんですか?いいんですね?ほんとにいいんですね???契約成立ってことで早く早くサインを……ミカゲ・ユウ……なかなかイイ名前してますねぇ~。それでは一名様ごあんなーい。」
こうして、俺は大魔術師アールヴィントの助手となった。
待ち受ける過酷を知らないままに……
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※SYSTEM※
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・大魔術師アールヴィントが勇者を召喚しました
・魔軍がグールネイ鉱山を占拠しました