「キラキラしたものを身に着けると大吉!~おみくじから~」
『キラキラしたものを身に着けると大吉!』
私はとあるおみくじサイトのこの結果に、ハテ? と首を傾げた。
コーヒーの香りがふわりと立ち昇る食卓を前にして、考え込んでしまった。
(キラキラしたもの……。キラキラしたモノ……。物か)
私は占いを信じる方だ。
朝のこの忙しい時間のひと時は、いつもこのおみくじサイトの結果を気にして出掛けていた。
狭い一人暮らしの部屋を見回す。
キラキラした物って何だろう。
単純に考えれば宝石だ。
が、生憎そんな高価なものは持ち合わせていない。
ビーズ……ならどうだろろう?
ビーズのアクセサリーなら、好きで結構持っている。
今度は鏡の前に異動して、引き出しを開ける。
すると、突然、デジャヴ感が私を襲う。
(前にも、こんなこと、同じことをしていたような……)
朧げな記憶をたどってみると、確かに、同じことを子どもの頃、していたような気がする。
あれは、何歳の時だったろうか。
そう……確か小学生の頃だった気がする。
私はしばし過去の記憶の中へと、タイムスリップしていた。
その頃も確か、占いにハマっていた。
本、雑誌あらゆるものを読み漁っていた。
そうしたある時、引いたおみくじか何かに、『キラキラしたものを身に着けると大吉』と書いてあった気がする。
当時の私も必死に考えた。
キラキラしたものって何だろう?
宝石?
ビーズ?
考えに考えても、それくらいしか思いつかなかった。
(キラキラいた物って……って本当は何かな?)
私は試しにお母さんに聞いてみた。
「宝石かしら」
お母さんは、家事の手を忙しそうに動かしながら答えてくれた。
お姉ちゃんに聞いてみた。
「ネイルかなー」
お姉ちゃんはキラキラの綺麗な爪を見ながら答えた。
お兄ちゃんに聞いてみた。
「ステージのライト」
バンド活動に参加していた当時の兄はこう答えてくれた。
お父さんにも聞いてみた。
「思い出かな……」
お父さんは、新聞を読んでいた手を止めて、お母さんの方を見ながら優しい声で答えてくれた。
小学校に行っても、友だちに聞いてみたりもした。
みんな、似たような答えばかりだった。
私は、隣の席の男子にも聞いてみた。
「お前の……え、笑顔!」
その男の子は、そう言うと、ダーッと廊下を走って行ってしまった。
残された私は、ポカーンとしてから、頬がだんだん赤くなるのが分かった。
その日、学校から帰ってから私は鏡の前に立って、引き出しを意味もなく開けたり閉めたりしながらこう思った。
宝石は持ってない。
お姉ちゃんみたいなキラキラなネイルはまだ私には早い。
お兄ちゃんのステージのライトは、そもそも身に着けられない。
でも、お父さんの言う思い出と……あの子が言ってくれた笑顔なら、私持ってる!
じゃあ、今日の私は大吉だったかも!
私は、鏡に向かってにっこりと笑った。
「そういえば、そんなことあったっけ」
私はあの頃の事を思い出し、微笑んだ。
大人になった今、頑張れば宝石も手に入れられるかもしれない。
ネイルは、もうしているけれどあの頃のお姉ちゃんのようなド派手な物は、あまり趣味じゃない。
人前に出ることが苦手な私には、お兄ちゃんのようなステージのライトは無理だ。
でも、と私はあの頃みたいに鏡に向かって笑った。
思い出ならたくさん作ってきたし、これからも作れる。
そして、笑顔なら、今でもこうやって自然と浮かぶ。
携帯のLINEが鳴った。
彼からだった。
あの隣の席の男の子は、今では私の大切な人だ。
そろそろ出かけなきゃ。
引き出しに、ビーズのアクセサリーを慌てて仕舞うと私はおみくじのことを思い出した。
「キラキラしたもの……笑顔かな、私の」
今日は、それを身につけて行こう。
私は、晴れ晴れと笑った。
読んで下さり、ありがとうございました。
ちなみに作者のわたしは、占いは半々に信じる方です。