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9話

「大丈夫だね」

「えぇ、お陰様で。ありがとう、アーサー」

「どういたしまして」


研究は順調だ。

データも揃い、遺伝子の保管も万全、孵化ももうすぐ。

今は追跡中のアカウミガメの行動データを纏めている。


「…ねぇ、アーサー」

「なんだい?」

「初期の行動ルートを辿りたいのよ」

「あぁ、潜る?」

「出来れば」


アーサーが開いた行動追跡ルートを確認する。

範囲はおおよそ31万km。

その内、私達施設側の人間が調査してないポイントを伝える。

調査メインはここ。


「OK、すぐ許可が出るよ」


申請しとく、とアーサー。


「ただミカ、ここは駄目」


と、指をさされたポイントは私が重要視するポイントの1つだった。

この島から割と近くてやりやすいはずなのに。


「ルイの最新データを昨日見たんだけど、あと3年でこのあたりの海底火山活動が活発になるって」

「火山?」

「死火山だったはずなんだけど、ここ数年の火山性地震の発生と海水温度の変化が出てる。早いと1年以内という予測も出てるね」

「…そうなの」


明日にはさらに詳細な予測が出るようだ。

ルイが研究してだしてるデータならまず間違いがない。

でも、これを逃せば3年以上も待つことになる?

今緊急でないとことが証明されてるなら、すぐにでも取り掛かれば問題ないはずだし、ルイの結果が出るまでに終わらせてしまえばいいのでは…。


「ミカ、駄目だからね」

「…なんで念を押すのよ」


呆れたように私を見て小さく息をつくアーサー。

やれやれと言った具合に肩をあげる。


「ミカのことだから、2・3年後にくるなら今は大丈夫、とか言いそうかなって」

「……」

「潜るのは機械にさせて海面でデータとるだけにする、とか」

「……」


ぐうの音も出ない。

アーサーの言う通りだからだ。

今行けるなら行ってもいいでしょう、みたいなことを言うと大体周りはひくのよね…なんで皆チャンスに飛びつかないんだろうって逆に聞きたいぐらいよ。


「……許可出たら伝える。こっちのデータに目を通しておいて」

「わかったわ…」

「僕は舟と人員おさえてくるから」

「えぇ、お願い」

「うん」


研究と言えど組織、それなりのルールがあるけど。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


「けど!」


夜明け前の早朝。

私はアーサーの言うことを反故にして小型ボートで海へ出た。

もちろん一番近場の駄目と言われた例の場所。

ほんのデータ1つとれればいい。

背負ったリュックの中には小型マシン。

データのバックアップ用に腕時計型のハードも持ってきた。

ブレスレットの記憶機能もあるから、だいぶ慎重な手筈になってる。

とはいえ、ブレスレットのGPS通知機能をオフにしてるから、アーサーたちが起き始めたら気づかれる。

最も、場所が特定されてる方が補足されるのが早いからオフにしてるわけなんだけど。

危なければブレスレットから警報アラートが通知されるし、この距離ならすぐ戻れる。


「…よし」


目標地点に到達。

海水中の微生物数や種類、海水温度や流れを測定する。


「…少しプランクトン数が少ないかしら」


今年は潮流の蛇行はなかったはず……海水温度も高いけれど、それでこのプランクトン数の減少率は出るだろうか。


次は電磁波や地場について調べようと思った、その時。

海面なのに縦に大きく揺れた。


「!?」


次にブレスレットから警戒アラート。

内容は。


「え?!」


海水温度やらなんやら…あらゆる数値にエラー値がでてくる。

また揺れる。今度は大きなうねりを伴っている。


「…いけない」


アラートはまだ鳴り続けている。

すでに予測から起きたことを告げたアラートになっていた。


「火山活動…!」


早すぎる。

早くても1年以内の予測のはずだった。

しかもこんな直近で予測がアラートで出るのもおかしい。

ルイの研究と予測なら昨日の時点でわかっててもいい予測だったはずだ。

急いでボートのモーターを稼働して方向転換、大きなうねりを掻い潜りながら島へ方向を定める。


「!」


潮を浴びながらもボートは耐えている。

これならなんとかなりそう。

戻れてしまえばこちらのものだ。

その一瞬の油断。

うねりに乗り上げて、ボートは大きく傾いた。


「うそ」


ゆっくりと見えた。

身体が傾いて水面へ落ちていく。

気づけば朝が近いのか空と海面が少し明るくなってきている。

そして視界が濁る。

そこで生きてる速さが戻ってきて我に返った。


「……っ!」


荒れる海中へ放り出され、なんとか海面に顔を出す。

と、遠くで見える海面から出ている噴煙。


「……うそでしょ」


そんな大規模な噴火が起こるデータなんてなかった。

ルイの言う噴火だって、前々から見てたデータでは中規模が関の山だったのに。

また大きく揺れる。

水の中を通して噴火の音が聞こえた。

大きなうねりがまた私の目の前に押し寄せてくる。


「ミカ!」


聞き覚えのある声に、うなりから目を逸らして見ると、小型船とアーサーが見えた。

同時に水を被る。

少し飲んだけど、私はまた海面に顔を出すことが出来た。


「アーサー、やめろ!」


彼の名を呼ぼうとした時、私の目の前はまたしてもうねりので遮られた。

最後の一瞬、アーサーが飛び込むのが見えた。


「ミカ!」


息を継いで、海面に顔を出せたのはアーサーのおかげだった。

海面へ引っ張り上げられ、船へ乗り上げられる。

私はただアーサーにされるがままだった。

何回かのうねりに飲み込まれたので、登れる力がなかったから。


「アーサー、ミカ、無事か?!」


いくらか飲んでしまった海水に咳込んでいると、先輩の声が上から聞こえ目線を上げた。

舵をとっているのは先輩だったか。


「……私、は、大丈夫です…!」


アーサー、と声をかける。

髪が顔にかかり俯いているので表情がわからないけど、息が上がってることだけは分かった。


「…アーサー…?」


手を肩にかけようとしたら、それをすり抜ける。

水と鈍い音をたてて彼は倒れた。

同時に火山活動の緊急アラートにまじって、彼のバイタル変化に対するアラートが鳴った。


「……え?」

「アーサー?ミカ?どうした?!」

「………アーサー…?」

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