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6話

生きているアカウミガメについては、バイタルチェックから細胞保管までできる限りのことをして海に戻す。

その際チップを埋め込むし、カメラをつける。

最も自身の細胞と同程度の大きさだから本体に負担はない。


これからは行動という点から生物の観察を続ける。

通常の記録ではアカウミガメは海流に乗って太平洋を横断してるとある。

それが絶滅したと言われる現在も同じなのか、現存しているのなら他個体との接触があるのか、さまざまな面での確認と記録がとれる…それだけで私はこの急遽発生した研究が楽しみで仕方なかった。


卵は自然に近い状態で孵化するものと、完全に永年保管するものに分けて、他のチームに任せてある。

こちらは自然と同じ条件で孵化させるから、それなりに時間がかかるだろうが、そこは致し方ない。

本体とこの卵から摂取した遺伝子情報も保管と培養が進められている。


大量に打ち上げられた魚も、生き死にに関わらずすべて研究中だ。

その多くが私の研究室に保管するわけだけど、こちらに関してはアカウミガメと違って時間との勝負だ。

なにせ腐敗が早い。

生きてた個体については対処できても、そうでない個体については回収した時点で腐敗が進んでるものも多数あった。

腐敗をほぼ止めることはできても、すでに腐敗していれば意味がない。

現段階で、腐敗した魚に外傷はなかった。


あの時、あの砂浜から海にかけての解析では鯨等の大型捕食類はいなかったし、鳥類もまたしかり。

私が目視で確認できたのは海面を跳ねる鰯だけだ。

鰯以外に何種類打ち上げられたのか、打ち上げられた鰯の総数も知りたいけど、海岸線にいる担当からまだ確定の連絡はない。


機械のアナウンスに内容を確認する。

土壌と海水についての解析…すべてにおいて通常通りで異常は見られない。

ここ数日に付近を船が航行した記録もないし、潜水艦も同じく。

あったのは、予測と違ったスコールだけ。


「……気象の方を同時並行にするとスケジュールが厳しいかしら…」


今行っていた解析に区切りがつく、すぐにデータを保管、施設内の必要部署に送付し、次のに取り掛かる前に一息つこうか悩んだ矢先に、施設の個人アナウンスが入った。


「ミカ?」

「施設長?いかがしました?」

「区切りのいいところで私の所へ来てくれるか。今回の件で話がある」

「わかりました」


丁度良かった。

時間が空いたことを伝え、私は施設長室へ向かった。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


「失礼します……アーサー?」

「やぁ」


施設長の部屋には、施設長以外にアーサーがいた。

なんだろうと思うも、アーサーの隣に案内され移動する。


「アカウミガメと大量の魚の打ち上げについてだが」

「はい」

「えぇ」

「メイン研究をミカ、アカウミガメの生体の動向についてはルイを主としたチーム、孵化についてはサイードを主としたチームにやってもらっている」

「はい」

「今回はイレギュラーなことが多い。先程、各国会議でこの話題を出してもらった所、増々の研究をという言葉の支援と、この研究に対しての金銭的な支援が主要3国から得られることになった」

「凄いですね」

「あぁ、そこでこの研究を今ある研究の中で最重要項目とし、ミカとアーサーで組んでメイン研究をしてほしい」


それでアーサーが呼ばれていたのか。

主要3国の中には当然、アーサーの母国であるイギリスが名を連ねているだろうから、尚更。

それにアーサーは優秀だ。

呼ばれるのも当然のこと。

私としても大歓迎だ。

気象からのアプローチを図りたかったのもあったし、他チームとの連携に加え、自身である程度の研究は続けないといけない。

さすがに1人では厳しいかなと思っていたところだったから。


「アーサーはどうなの?」

「勿論OKさ。大歓迎だね」


後で早速気象の面での解析をお願いしてみよう。

その前にスケジューリングとプランニングを再検討もしないとかしら。


「2人がOKなら問題ないな。引き続き頼む。研究に際して必要なものがあれば私に直接来てくれてもかまわない」

「ありがとうございます」


基本、この施設の研究は発見した者が受け持つ。

施設長から了承を得ないといけないけど、大概私達の研究は通る。

今回みたく見た限りでわかる発見もあれば、多くの解析データから次の研究を見つけることもある。

今現在でのデータについて全てアーサーに送ること、簡単な内容と、今後について話しながら、研究室に戻る所で、彼がいたく嬉しそうにしているのを見てとれた。


「アーサー、上機嫌ね」


今にも歌いだしそうなぐらいだと思う。

冗談抜きだ、こんなに機嫌のいいアーサーもそう見ない。


「そりゃそうだよ。ミカと研究出来るなんて」

「…そういえば、連携はあってもチームを組むのは初めてね」

「難しい研究ではあるけど、ミカとなら大丈夫だって思えるよ」

「光栄だわ」


彼の喜びように思わずこちらも笑顔になる。

アーサーは初めて会った時から大人びてて…実際大人になっても穏やかで冷静な大人だけど、たまにルイのように真っ直ぐ気持ちを出してる姿をこうして見ると、つい可愛いなと思ってしまう。

本人には言わないけど。

言えば、また調子に乗っておかしな行動をとることが目に見えているから。

仕事の面ではこうも頼りがいがあるのに、この個人の性質として軽薄なのはどうしたものか。


「よろしくね、アーサー」

「あぁ、よろしく」


私と彼のツーマンセルが始まった。

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