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2話

「ミカ!」


あぁ、次かと思う。

毎朝、この2人だけはかならず挨拶をしに来る。

同期で、学生時代からの腐れ縁って、どこまで続く縁のなのかしら。


「おはよう、ミカ!」

「お早う、ルイ」


彼はフランス人ハーフ。

アーサーと同じく、色々な国の血は入ってるようだけど。

私からすると、彼はフランス人と言うよりイタリア人の帰来があるような気もするし、アメリカ人の質もあるような気がする。

あくまで主観だけど。


「ねーミカ、今度の休み遊びに行こうよ」


どこまでもこの2人は言うことが同じ。

見えないとこで気が合ってる。

当人同士、仲が悪いわけではないけど、とびきりいいわけでもないって感じかしら。

学生時代はよく3人でいたわけだし。


「遠慮するわ。明日スコールで外調査出来ないのよ。だから今度の休みで外調査するわ」

「えぇ!?休みの日に仕事するわけ?!」


日本人はおかしいよと派手にリアクションをとる。

もちろんその分休みは別でもらうけど、周囲の人間から見ると私は仕事しすぎらしい。

数百年前の私の故郷の労働状況を見たら卒倒するでしょうね。

眠らない帰らないなんて当たり前の会社もあった。

あぁ、そういう点では1000年前はどの国でも同じような過酷な労働状況だったから、知識としては知っていそうね。

そういう歴史の流れがあるからこそ、今の就労状況が確立されてるわけなんだけど。


「それにルイ、この島はレジャー施設ではないのよ」


遊ぶ場所がないでしょう。

いいところで、海で泳ぐか山を登るかぐらいかしら。

けど、どちらを選んでも私は遊びより調査を意識してしまう。

私にとって島すべてが研究対象、外に出れば調査するのが基本。

それに私にとって仕事は1番のリラクゼーション。

これを昔はなんて言ったかしら。

中毒者とか揶揄した言葉があったわね。


「俺はミカと一緒にいたいんだけど」

「そう」

「…俺、真剣だよ?」

「知ってる」


納得いかなそうなルイ。

まぁ、確かにアーサーといい、ルイといい話半分なところはあるかも。

学生時代からそう毎日言われ続けられたら、慣れてしまって話半分になるって思うのだけど。

本気なのか冗談なのか私にはあの頃からわからない。


「俺の一途な愛が伝わらない…」


壁に頭寄せて悲しそうに俯くルイ。

いつもの所作なので慣れてしまったが、彼はこういった姿で多くの女性を虜にしてきたらしい。

なんでも庇護欲がどうとか。

私にはよくわからないけど、こうしたルイの所作はパフォーマンスだ。

それがモテる要因であるというのも不思議なもの。

アーサーの見た目と、ルイのパフォーマンス…どちらもどちらか。


「ルイ、いい加減チームに戻った方がいいわよ」


最も、ルイはどのチームにいてもチームの中にいることが少ない。

放浪癖があるようで一所に留まれないようだ。

興味のあるものにすぐに飛び込めるのは素晴らしいけど。

アーサーの時と違って私に直接お願いは来ないけど、それでも捜索の時は私にも声がかかる…というか施設内全員に声がかかる。

同期と言うだけでは彼は探しきれない。

実際、私が同期だからといって、アーサーにルイに声をかけて注意を促したところで、彼らが行動を改めるにはそれ相応の時間が必要だろう。

実際、研究に支障が大きくでてない以上、まだ咎めるには難しい面もある。

2人は優秀で施設内ではトップを誇る結果を出しているから尚更に。


「わかったよ、そしたら次はランチだね!」


アーサーと同じことを言って去っていくルイ。

もちろん確約されたものではないのはアーサーと同じ。

やれやれと言った具合に1つ息をつく。

いつまでたっても子供のような2人だ。

普段ならそんな長くない道のりに時間がかかる。

そんなものだと踏んでいつもより早く出てる私も彼らに甘いんだろう。


「おはよう、ミカ」

「お早うございます」


自身の研究室の扉を開けると先客がいた。

今、チームを組んでいるサイード、学生時代での先輩にあたる。

1度しかゼミで組んだことがなかったけど、彼もアーサーやルイと同じく才ある学生として注目を集めていた。

ゼミで組んだ時もその博識ぶりに驚いたと同時に尊敬した。

もちろん今も一緒に仕事をしててもそう思う。


「あの2人と仲がいいね」

「え、見てたんですか?」


なら、助けてくださいと言うと彼は微笑むだけだ。

なんとも読めない顔。

彼は私と同じ純民族だ。

アラブ系のようで、しかも王族直系らしい。

お伽噺の住人のようなステータスだけど、全て事実。

彼はいつか国へ戻り王位を継ぐらしいけど、それまでは勉学や社会知識を身に着けるために国の外に出てるとか。

私はたまたま日本という国の純民族という立ち位置にいるけど、彼の場合は徹底して純民族であることを選び続けた末の立ち位置だ。

それを考えると彼の人生はますます小説のような話だ。


「2人の王子様が可哀想だね」

「本物の王子様に言われたくないでしょう」


小さく笑って彼は纏めた資料を私に渡した。

未だ紙媒体の資料もあるけど、メインはデータだ。

デバイスを起動して中身を見ればすでにこちらにデータがきていた。

紙媒体の文化も残っているし、機械という文化も残っている。

最も、機械文化はさらに洗練されたのだろう。

昔は箱のような重いものを使っていたけど、今は生まれた時から私たちの体の中に組み込まれている。

投影するのはどこでもできる。

空中にデータを表示することも可能だ。

数百年前から試みていたものだから、これでも発展具合としては遅い。

まぁ実際こうして対面して仕事をしている時点で人はある程度の所から発展することと維持されることで細分化されていくのだろう。

いくら便利になっても人と人との関わりをなくすことは出来なかったということか。


「後は外調査があれば目処がつくね」

「有難うございます」

「では私は行くよ」

「はい」


私とチームを組んでいるkレは今他に7つぐらいチームのメンバーになっている。

アーサーもルイも複数持っているけど、サイードは多い方。

というのも、優秀かつ2人のようになかなか来ないとか放浪癖とかない分、お呼ばれされやすいというとこもある。

私の今回の研究は今度の調査で一区切りしそうで、また新しい調査を開始する。

私は基本1つの研究を担当するようにお願いをしているし、その方が成果も出ることが証明されている。


「さて」


サイードが出ていって、研究室に1人。

窓の外を見れば快晴。

雲1つない青空。

アーサーの言うスコールがくるまで、24時間をとうにきっている。


今年は例年になく暑いらしい。

海水面の温度も高い。

偏西風もいつもよりやや南寄り、蛇行も頻繁。

気象面でおかしいことはここ数百年の中では日常だ。

今はそれをほぼ予測できるシステムがあるけど、この気象面も改善していかないことには人類はなかなか生き抜くことが難しいだろう。

いくらブレスレット1つで自身の周辺気温等の環境を制御できても、大本が解決しないことには。


この時代、人間1人につき1つ世界が指定するブレスレット着用が義務付けられている。

それなしでは生きられないというのが真実でもあるのだけど。

これをつけることにより、暑さ寒さを自身の周り1mぐらいなら調整できてしまう。

だから常に薄手の長袖…白衣を着てちょうどいい程度の環境を毎日体感できる。

つけてないと自動的にエラーが伝わり、施設内の皆に伝わってしまうから、私は少しだけ細工して5分外せるようにしてる。

1人の時、このブレスレットを外して、直接熱や太陽の光を味わいたいから。


季節は夏だ。

うだるような熱気が私達を襲う季節。

私は研究室の窓を開けてバルコニーへ出た。

わざとその暑さを感じたくて外に出る。

そんな長くはいられないけど。

調節される日差しや温度を感じる。

じんわり汗が出てくるこの感じ。


「……暑いわね」


時間が経ちすぎると警戒音もなるし、施設の面子に外してるっていう情報が届いてしまうから、本当に僅かな時間しか外せないけど、私はたまにこうして夏を味わっている。

さぁ、研究を続けよう。

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