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13話

「…ミカ、僕は君が好きだ。このままでもいいなんて思った時もあった。でも違うんだ。僕は君の傍にいたいし、傍にいてほしい。一緒に研究を続けたい」

「……」

「……なによりミカの気持ちが欲しいんだ。今度こそ、誤魔化さず応えてほしい」

「……」


答えに窮した。

アーサーはいつも私に気を使ってか、好きだと言っても私逃げ道をくれていた。

今日は違う。

誤魔化さずに応えてほしいと言われた。

突然言われたわけじゃない、ずっと私が見てこないようにしてただけ。

だから今その時を迎えたら応える事が出来ると思ってた。

実際は右往左往してるだけ、自分がどうしたいかをいつものように冷静に考えることが出来ていない。


アーサーが私を好きだと。

ずっと一緒に研究していくんじゃないかと思ってた所はあったかもしれない。

そこに甘えていた。

どうすれば…そもそも人を特別好きになるってどういう…いいえ知ってはいる、でもそれを今アーサーにあるかを考えて応えるって…それに応えたら私はアーサーとその先今までと違った関わりになるということ…逃げることが出来ない、何故私は決められないの、簡単な事のはずなのに。


「え、ミカ!?」

「……」


考えすぎて熱が出ると言う逸話があるけど、あながち嘘じゃないかもしれない。

私は考えすぎてその場で意識を飛ばした。

一瞬ではあったけど。


「……ミカ?」

「………!」

「大丈夫?」


なんてこと。

アーサーから告白受けて倒れるなんて。

馬鹿だわ、恥ずかしすぎる。

抱きしめられるとか告白されるとかそれも十分恥ずかしいけど、自分の失態の方がはるかに恥ずかしい。


「あ、ごめんなさい、アーサー!私倒れて」

「いや、大丈夫」


と、笑いをこらえている。

今回ばかりは何も言えないけど、ひとまず怒っておこう。


「ちょっと…」

「はは、ごめんって」

「……もう、私真剣に考えてるのに」

「……あぁそれね。いいよ、いらない」

「え?」

「返事。やっぱりいらない」

「ちょっと待って、それじゃ」

「いいんだ」


伏し目がちにアーサーが呟く。

私が倒れることとは関係なく、勝手に自分の気持ちの答えを貰おうなんて我儘なんだと。


「待って、アーサー」

「送るよ、ミカ」

「アーサー」

「また考えると意識飛ぶよ?」

「!……こんな時にからかわないで!」

「僕がいいって言ってるんだ。さあ」


強い語調で押し通される。

今、なんて言えばいいかは確かにわからない。

そしてまた私はアーサーに甘えている。

わかっていながらも、私は彼に送られ、彼に微笑みかけてもらって別れるんだ。

そんなの嫌とわかっているのに。



* * * * *  * * * * * * * * * * * * * * * *



「ミカ?」

「………」

「ミーカー?」

「………」

「ねぇ、何があったの?」

「私が話しかけても同じでね」

「…もー!ミーカー!ミカってば!!」

「!…あ、ごめんなさい……あれ、ルイに…サイードまで…」

「何度も呼んだよ!」

「…それは…ごめんなさい。ちょっと、その」


研究に没頭して現実逃避してるのはよくないことだと分かっていたけど、ここまで集中できてないなんて。

能率は落ちる、ケアレスは増える、そしてルイやサイードが来ても気づけない。

思っていた以上にぼろぼろだわ。

データ編集でも機械的にやってようと思ってたけど、手は動いたけど効率が悪い。

サイードがそんな私を見て僅かに眉根を寄せて困っている。

紙ベースでの資料をいくらかとデータの転送をしてもらい、彼は穏やかに私を労わった。


「ミカ、後でゆっくり確認してくれればいい」

「……はい」

「あぁ、魚の打ち上げの」

「磁波とガスだ。鰯の海面上昇も同じもので説明がつく。初期分析で感知出来なかった原因も一緒にしてある」

「あ、それそれ。こっちの海底火山の噴火のやつも一緒によろしく!」

「そちらも纏まりましたか。海底火山の噴火が予測値と違ったのは何が原因で?」

「海底地表の隆起の測定ミス。地質が違っていたんだよ」

「………」


とても興味深い話…いつもなら被りついてでも詳しい話を聴いておきたいのに、今はそんな気持ちになれなかった。

データはすべてもらえるわけだから後で確認するしかない。

とにもかくにも、仕事の時間はきちんと仕事をしないと。


「ミカ、コーヒーでも飲む?」

「……えぇ、そうね」


サイードは別研究も並行しているからか、すぐに研究室を後にした。

残ったルイがコーヒーを2人分入れて、片方を私にくれ、もう片方を持ったまま対面に座った。


「ミカ、元気ない?」

「そうね…ちょっとやらかしちゃって」


昨日の事を思い出す。

返事すら出来ないまま気を失って倒れるなんていい年した大人がなんて失態かしら。


「失敗なんて俺いつもだよ?」


ミカは昔から完璧求めるよね、とルイ。

そう言われてみればそうかもしれない。


「俺たちの研究なんて完璧なのどこにもないのに」

「…それも、そう…ね」

「そうだよ。機械だって人だって100%以上整ってるわけないじゃん」

「…そうね」


わからない部分を研究する、不透明な部分が出たら再研究なんて当たり前、どこにも完成されたものがない。

当たり前のようにやっていた続いていくもの。

なのに私は自分の事は違っていた。

冷静で研究熱心で…アーサーの言葉を借りるならクールでスマートであろうとし続けていた。

そうでないと。


「……あ」

「ん?」


そうでないといけないと思っていたのは、私が常にアーサーの隣を胸を張っていられるようにと考えたからだ。

優秀な人の隣に立てる人間でありたかった。

それはつまり随分前から彼の事を考えていたことになる。


「研究してる時みたく無茶しちゃえば?」

「え?」

「ミカって研究ってなると、なりふりかまわないじゃん。ださいなんて言われても気にしてないし」

「…形振り」

「うん。でもその方が人っぽくていいよ」

「人っぽいって…」

「うーん、人間臭い?」


ひどい言い様。

私が機械みたいだと言われてるようで、ちょっと拗ねるとルイは格好つけてるより魅力的ってこと!と慌てて言葉を変えて叫んだ。

まぁ概ねその通りね。


「…そう……私、やっと人間になれたの」

「えー、そこ拾わないでよ」

「……いいえ、それでいいのよ」

「はい?」

「私、初めて人になったんだわ」


人としての気持ち。

ずっと前から決まっていたのに、いざ目の前にするとたくさんの不純物が交錯して見えなかった。

恥ずかしいとか、清く正しい私じゃないからとか関係ない。

不完全だから私。

アーサーが好きな私は格好悪いしださいとこもあるけど、それでいいのね。


「ミカ?」

「ありがとう、ルイ」


助かったわと伝え、私は今決めたやるべきことを成し得に動いた。

ルイは笑って私を見送った。

まずは地盤を固めてから、その次にアーサーに会いに行けばいい。

アポイントをとればすぐに時間をとってくれたのは施設長。

会えば穏やかな顔をして私を迎えてくれた。


「施設長、お時間よろしいですか」

「あぁ、かまわないよ」


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


やるだけのことはやって、私はアーサーを探した。

彼が普段いそうな場所にはおらず、研究の引継ぎも早々に済ませていた。

まだ日があるのに仕事が早い。

にしても、時間が余ったら行きそうな場所に軒並みいないっていうのは不思議な感じ。

この時間なら外に出てることはないだろう。

こういう時に、ブレスレットでアクセスして彼を呼び出せばいよいのだろうけど、そういうのは無粋な気がした。

なので自分の足で探す。

とはいっても施設内は広さに限りがある。

思い浮かぶ場所を虱潰しにあたっていけば、彼に行く着くのは明白だった。


彼は自身の研究室にいた。

物や研究データは転送すればいいだけで実質異動の準備なんて必要ないから、研究室で物の整理なんてしてないのだろうけど、彼も彼なりに思うところがあって1人になってるのかもしれない。


「アーサー、今いいかしら?」

「……かまわないよ」


電気を消しているとはいえ、月が登っているから研究室内はよく見えた。

元々応えると言っていたからか、彼は私が来たことに驚いてはいなかった。

でも少し悲しそうに微笑んでいる。


「アーサー、貴方珍しい顔してるわ」

「そう?」

「もっと嬉しそうにしてていいと思うけど」

「え?」


だって私の返事を待っていたんでしょう。

そういうと、彼は小さく頷いた。



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