空蝉
進級して1ヶ月も経たない頃、薛名は担任の暁に想いを寄せていた。
そして担任の教師、暁もまた、薛名に同じ感情を抱いていた。
そんなある日の授業前である。
渡り廊下。開いた窓の隙間から暖かい風が頬を撫でた。
春の訪れを感じさせる気候は重い眠気を誘った。
目は半分程閉じられて、まるで気力を感じない。
今自分は「気怠げ」の見本の様な状態だろう。
「随分と眠そうですね。次、私の授業なんですけど、寝ないで下さいね?(笑)」
からかう様にそう言ってきたのは担任の教師。暁。
「寝てたら起こして下さい……って…暁先生もかなり眠そうですけど…?」
目の下の隈が目立っていて、寝不足だと見て取れる。
「いえいえ、全然眠くな…ふぁ〜ぁ…いですよ…」
欠伸をしながら言われても説得力が欠ける。
「んじゃ、俺は先に教室行ってますよ。」
「えぇ。では後で。」
そんな会話をして、それぞれその場を後にした。
薛名との距離が近すぎるのでは?と、自問。
薛名にとって自分は関わりやすい教師。離れる必要は無い。と、自答。
そんな自分に呆れながら溜息を漏らした。
「薛名は…私を何だと思っているのでしょう…」
こんな愚問に悩むことは無い。そう、自分は…
「ただの…教師か…」と、苦笑。
ぼーっと足元だけを見つめて教室へ向かう。
自分に向けられたあの教師の態度は、きっとどの生徒にも見せているもので。
「クッソ…」
あの教師に特別執着している自分に腹が立つ。
どうせあの教師にとって自分は1生徒でしか無いのだろう。
そう思うとキツく胸が締め付けられる。
恐らく、この得体の知れない感情を振り切らなければ、快く卒業できないだろう。
ならば、
「卒業までに…」
事が進んでくれたら…と。
「暁先生…」
「呼びました?」
「おぉぅッ!!?」
耳元で話しかけられ思わず変な声が出た。
単純に驚いたのもあるが、求めていた声が急に聞こえてきたのだ。二重の意味で心臓に悪い。
「そんな驚きますか…フフッ…」
確信犯はニコニコしながら続けた。
「私の名前を呟いてたので、何か御用でもあるのかと思ったのですが…?」
「…先生の顔が…ふと浮かんだんですよ。」
暁のことを考えていたのは確かだ。包み隠さず遠回しに伝えた。
暁はその言葉に少し驚いたような表情を見せた。
だがすぐににっこり笑ってまた口を開く。
「私のことを考えてたんですか。で、何かわかりました?私のこと。」
「いや…何も……。」
暁については何も知らないしわからない。
「でも…自分の事が…わかった気がします…。」
自分が暁に得体の知れない特別な感情を抱いていること。
自分にとって暁の隣は居心地が良いこと。
それが解って、ほんの少しモヤが晴れた気がした。
「それは良かった。」
笑顔を崩さず、トーンも明るく、感情の曇を悟られないように。
薛名が何か見つけることが出来たなら、自分の求めている回答など要らない。
「…では教室入りましょうか。ほらチャイム鳴りますよ。」
「あ、あぁ、はい。」
薛名、暁の埋まらない空白は空蝉の如く。
故にすれ違い、願いが叶わない方へと運ばれて行く。
この空白が互いに埋められたなら、埋められる立場に在ったなら…。
小説初投稿です。
今後も連載続けて行くつもりなのでご感想等々寄せて頂けると嬉しいです。
まだ語彙力の無さのせいで表現しきれていない所もありますが…これから書いていく中で改善されていくと思うので次のお話もぜひ読んで頂けると幸いです。