序章5
「ゆ、行方不明!?」
あの後自分に起こったことを聞いた玲慈は驚きを隠せなかった。
「ちょ、ちょっとまってくれ、俺が行方不明って・・・ありえないって。だって1年だろ?俺なんも覚えてないんだけど・・・」
あまりの唐突な内容にどうしたものかと考える。
「玲君、それでも本当なのよ。先生が言うには一種の記憶障害だろうって、もしかしたら何か怖いことがあって記憶を閉ざしてる可能性もあるって・・・」
「怖いことって・・・ん〜・・・、あ、今日って何日?」
何か思い当たる節でもあるのか、日付を確認する。
「今日は4月14日だよ」
「14日っていったら・・・母さん達とおじさん達が旅行に行った日じゃ?」
「それは去年のことよ、玲君」
途端に玲慈の表情が固まる。
「きょ、去年のこと!?嘘だろ?」
玲慈自身は納得のできない顔をしているが2人の話を聞いていると嘘をついているとは思えない。実際に玲慈が思い出せる最後の出来事といえば、両親が旅行へ行き、霞と一緒に行ったファミリーレストランでのことぐらい。事実その日から確かに1年経っているのだ。
「でも、なんで何も思い出せないんだろうなぁ」
話を聞いてから何か思い出そうと必死だが一向に何かを思い出す気配すらない。
「別にいいじゃない、玲が無事だったんだし無理に思い出すこともないよ」
また何か思い出せないかなと考えていると霞が横から心配そうな顔を向ける。
「それに今は体を治すことを考えなきゃね!」
と元気な声で言うが
「俺、別に治すとこないと思うんだけど・・・」
軽いツッコミが入る。
「そ、そっか、だったらもう大丈夫だね!」
何が大丈夫なのかも分からないが、若干頬を赤く染めた霞が挙動不審な行動にはしる。その光景が可笑しくて思わず頬が緩んでしまった。
「な、なにニヤニヤしてんのよ」
「い、いや、別になんでもないよ」
顔を見られるのが恥ずかしかったのか俯きながら言い訳をする玲慈。
「そういえば退院っていつなの?すぐにでもできるのかな?」
霞の言葉にふっと顔をあげる
「そういや俺何も聞いてないな、母さん何か聞いてる?」
2人のやり取りをただ微笑みながら見ていた風香に尋ねる。
「たしか、さっきしてもらった軽い検査じゃなくて、もっとちゃんとした検査があるって言ってたから、数日は入院するんじゃないかしら?今お父さんが詳しくお話を聞いてるから後で分かると思うわよ」
そう言って時計を見る。
「もうこんな時間・・・今日はもうお休みなさい、お話はまた明日にするといいわ」
時刻は3時、風香が残ると言い、和也と霞は一度帰宅してまた朝に来ることになった。