二章〜光の柱〜
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二章は玲慈視点でお送りします
「僕が先頭を歩きますから皆さんは後ろから着いて来て下さい」
俺達は直葉の言葉に頷く。これから外で何が起こるか分からない不安からか皆顔色は優れていない。異形の化け物とまともに戦えるのは直葉だけで俺も手には刀を持っているがはっきりといって戦力になるとは思えない。青龍刀は銀に返したから俺の持っている刀は備前なんたら・・・さっき銘柄は聞いたんだけど覚えてないから刀と呼ぼう。直葉が持っていた二振りのうち一本を俺が持っている。真剣はおろか木刀や竹刀すら握ったことのないんだけど何故だろう、白刃を見ていると妙に落ち着いてしまう。これが日本刀の美しさというものなのだろうか?右手に力を入れてぎゅっと柄を握り締める。目を瞑ると懐かしいと感じてしまう。俺の記憶がないことと何か関係があるのだろうか。空白の一年を過ごした俺には答えをしる由などなかった。
化け物に注意しながら歩いていると違和感を覚える。日頃聞こえる生活騒音が一切しないのだ。人の声や車の音。俺達は無音の世界をゆっくりと歩いている。初めに学校に向かった時のように化け物の奇襲を警戒して進む速度はかなり遅く、僅か数キロ先にあるスーパーまで辿り着くのに一時間以上は掛かりそうだ。
これから向かう先はこの辺りに唯一あるスーパーでそれほど大きくはないんだけど、品揃えは確かで価格も安いと評判の店だ。しかし今向かうにしては距離があるため安全とは言えない。むしろ品揃えは悪くてももっと近くを当たるべき。都会にはコンビニが蔓延している現代ではもっと近くにコンビニがあってもいいんだけどこの辺一帯にコンビニは一軒も無かった。校長が大のコンビニ嫌いと噂されていたけど、まさかそれが原因なのか?相変わらず謎が深まる校長だ・・・。
どれ位時間が経ったのか、緊迫した空気に耐え切れなくなった原田さんが小さな声で問いかけてきた。
「まだ着かないのかい?」
大き目のリュックを両手で抱きしめるように持ち、心なしか少し震えている。外に出るだけでも恐怖なのに更に土地勘も無く、目的地までの距離も分からなければ疲労も恐怖も倍増する。目的地の場所を知っているのは俺と八島の二人だけ。俺は八島を見るが相変わらずな能面ぶりで我関せずといった雰囲気だ。辺りの警戒を解く訳にはいかないけど土地勘の無い人間に答えないのも疲労を溜める原因となるから一言重要なポイントだけを告げる。
「このペースなら後30分もしない間に着くと思う」
そんなに、と後ろから溜息に似た言葉が発せられる。その気持ちは分かるけど焦って急いでも危険度が増すだけ。俺と直葉はゆっくりとしたペースを変えずに目的地へと向かっていた。
「やっと着いたか」
今度は俺が溜息に似た言葉で目的地に辿り着いたことを告げる。一時間以上も神経を張り巡らせながら歩くことがこんなに疲れるなんて・・・だけどこれで終わりじゃない。食材を確保した後も同じ道を警戒しながら帰るとなると本当に気が滅入る。・・・駄目だ、こんな考えをしてたら最後まで持ちそうもないな。俺は気持ちを切り替えるために直葉に話しかけ、中の様子を探ろうと提案した。中に入ったがそこは実はモンスターハウスでした、なんて笑えないからな。全てを説明するまでもなく俺の意図を読み取った直葉は頷き原田さんと八島に物陰に隠れるよう伝え、先ほど以上に警戒を強め中へと向かった。
店内は暗く、電気は非常灯の明かりだけだった。なるべく足音を立てない動きで中に不審な音や影がないかを探る。本来であれば時間をかけてゆっくりと探るのが一番だが、外で二人を待たせているためそうも言ってられない。入り口付近だけを丹念に探り、手近にあった缶詰の封を開け中身を出し、空の缶を前に投げ捨てる。弧を描きながら空中を進んでいく空き缶を俺はじっと眺めていた。空き缶が床に辿り着いた瞬間、カーンカンカンと大きな音が店内を木霊した。
俺達のすぐ後ろには出口がある。仮に多くの化け物がいたとしても逃げ道は確保してある。少なければ戦う選択肢もある。大丈夫、なんとかなる。そうは思っても緊張と恐怖が体を廻り、手には汗が滲んでいる。大丈夫だ、大丈夫だ。俺は自分に言い聞かせ前をじっと見据えていた。
「・・・問題ないようですね」
直葉の言葉にふっと肩の力が抜けた感覚を覚えた。時間にして凡そ一分、だけど俺には一時間にも匹敵する時間に思えていた。額に滲んでいた汗を拭い、外の二人を呼びに外へ向かった。
俺達は固まりながら缶詰やレトルト食品をかき集めていた。生鮮食品や冷凍食品は既に痛んでいる可能性があるため除外していた。なるべく音と立てないように気をつけ、リュックの中身が一杯になり戻ろうかと思った矢先、異変が生じた。
ガガッ ガガガガガガガッ
「! 地震か!?」
大きな揺れと共にガシャンと陳列棚が倒れる音が聞こえる。尻餅をついた俺は致命傷を避けるため頭を抱え地震が収まるまで待っていた。揺れが収まり辺りを見回すと先ほどまで以上に荒れた状態となっていて、いくら強度が保たれている建物とはいえ、倒壊の危険が0ではないため急いで外に出ることにした。
俺が外に出たのは最後で何故か三人は出口の前で立ち尽くしていた。三人とも同じ方向を向いていて何かを見ているようだった。何をしているんだ!と内心悪態を吐いたが直ぐに答えが分かった。俺も同じ方向を見るとそこには―
「あ・・・あれは・・・」
俺の目に飛び込んできたのは大きな光の柱。地震の直後に発生した謎の光。そして俺はまた・・・意識を奪われた。
何度見ても変わらぬ白と黒の世界。悲しい表情をした謎の女性。でも今回は彼女はいかなった。今俺が見ているのは一人の男性と思われる人の背中。そして彼は化け物と戦っていた。
両手で剣を持ち、化け物の猛攻を避けながら戦っている。何故だか俺はその戦いに魅入っていた。彼が化け物と戦っている数は一や二ではない。パッと見ただけでも二桁はいると思う。中には一つ目や最初に見た化け物も混じっていて、爬虫類の顔をした人型や二足歩行の豚といった色々な種類の化け物と激しい戦闘を繰り広げていた。どんな角度で攻撃を加えても、回避しても彼の背中から視点が変わらない。この光景を必死に思い出そうとするが、脳は決して答えを出してくれない。見覚えの無い背中を見ながらもあることに気がついた。
右、左、次も左・・・。彼の行動を目で追うと不思議と彼の次の行動が分かる。これに気付いてから一度も次の行動にハズレがなかった。何なんだよ・・・と思いながらも戦いから目が離せない。! 危ない!と思った直後、彼の横から槍が伸びてきた。死角に放たれた凶刃を彼は剣先を当てることにより槍の重心をずらし切り傷は作ったが致命傷は回避していた。一旦距離を取り、槍を持っている二足歩行の豚と対峙する。豚は醜悪な顔で見ているこっちの気分が悪くなってくる。雄叫びを上げるように口を開き、槍を突き出しながら一直線に向かってきた。彼は構えを取り豚に向かおうとしたとき、豚の顔に一本の矢が突き刺さっていた。豚は力なく倒れ、彼は振り向くことなく次の化け物に向かっていった。
全ての化け物を退治すると彼の動きは止まり、後ろを振り向こうとする。―お前は誰なんだ―期待と不安が入り混じった感情が胸に溢れ彼の顔を確認しようとしたとき、俺の意識は現実へと戻された。
ひっそり更新してみました。
次回の更新は不明な状態ですが、またポツリと更新してると思います。