一章9
直葉との話も区切りがつき、時刻を見れば7時になりそうだったので銀を起こしに行った。
「銀、起きろ、時間だぞ」
他の人がまだ寝ているであろうため、小声で起こそうとする。
しかし、銀はまったく起きる気配がない。
「ったく・・・銀、起きろ」
次は体をゆさゆさ揺らしながら起こそうとした。
体がピクッと動いた直後
「っ・・・!」
急に布団を剥いで起き上がった銀は銃口を顔の前に突きつけた。
「・・・んだよ玲慈か、驚かせるんじゃねぇよ」
ふぁ〜っと欠伸をして廊下に出ようとする。
扉の前で立ち止まり玲慈のいる方向へ振り向くと顎でこちらへ来いと合図し、そのまま出て行く。
今だ固まったまま動かない玲慈は元に戻るまで、しばしの時間を要したのであった。
「銀!危ないじゃないか!」
直葉と銀のいる宿直室に入ると玲慈は怒鳴りつけた。
「声がでけぇよ、他の連中はまだ寝てるんだ、もうちょっと静かにしろや」
原因を作った銀が制止の声を掛ける。
「・・・!」
納得のいかない玲慈は今だ不機嫌だ。
「わりぃわりぃ、また寝込みを襲われ・・・っとまぁいい。すまんかったな、もうしねぇよ」
本心から悪いと思ったのか頭を軽く下げ素直に謝る。前半の内容はものすごく気になるが追求しようとはしない2人。
「まぁ玲慈さん、銀さんも悪気があったわけじゃないんですから、許してあげて下さい」
直葉による仲裁が入る。
「わかったよ、銀、怒鳴りつけて悪かった」
「いや悪いのはワシだ、玲慈が謝る筋合いはねぇさ」
緊迫した空気は最早なくなり3人は話を始めた。
「とりあえず今日することを話そうかと思うんだが、っとお客さんだ」
扉に背を向けていた玲慈と直葉は振り返る。するとそこには霞が立っていた。
「あの、皆も起きたみたいだから呼びに来たんだけど」
「おう、わかったよ。それじゃあ向こうで話そうか」
宿直室を後にし、隣の職員室に入った4人。
銀は部屋を見回し全員いるか確認した。
「さて、全員揃ってるな。起きてすぐでわりぃんだが、今日のやることを話す」
「昨日考えたんだがな、玲慈、直葉、原田、八島の4人で食料を探してきて欲しい。生存者を探すってのも考えたんだが、まずはワシらが生き残らにゃならん。だから今日は食料をメインに探してきてくれ」
さっそく反論する拓郎。
「僕達4人って、自分だけ安全な場所にいるつもりなのか!?」
「まぁ最もな意見だな」
冷静な反応をする。
「ワシはここの警護と、とりあえず校舎で調べたいことがあるからそれをしようと思う。場合によっちゃ、ここだって安全とはいえん、誰かは残らんとな」
「だったら僕が・・・」
「御前さん、化け物が出てきたら戦えるのか?嬢ちゃん達を守れるのか?無理なんだったら直葉たちと行っとけ。2人なら御前さんを守ってくれるだろう」
守ることなどもちろん、戦うことすらできそうもない拓郎は反論ができない。
「銀さん、調べたいことって?」
霞が気になったのか尋ねる。
「ここはソーラーパネルがあるってんならその電気が今も溜まってるはずだ。宿直室、職員室、警備員室、それといくつかの教室は電気がついただろう?だが他の教室はつかなかった。このことから制御操作盤による一区間を除いた電気の遮断が強制的に行われていると思っとる。校舎内のどこかに制御操作盤があるはず。ワシはそれを探して他に電気を使ってできることがないか見ておきたい。しかもあの地震だ、下手すりゃ一部がイカレちまってるかもしれん。急に電気が点かねぇ、ってなっても嫌だしな、点検も兼ねてだな」
素人同然の他の人達は何を言っているのかいまいち理解できていない。
「そんなことできるの?」
「仕事柄、な?」
どんな仕事?と聞きたいが、その内容が恐ろしそうなので聞くことなどできなかった。
「もちろん嬢ちゃん達にもやってもらいたい事はある。ワシら全員が生き残るには皆で協力しなきゃいかん。意見があるならもちろん言ってもらって構わん。皆で生き残ろうじゃないか」
銀の演説を聞き、しぶしぶだった拓郎が納得したのか、わかったよ、と呟いた。
「それじゃあ頼んだぜ」
4人による食料探しが決まったのである。
「玲慈」
銀に呼ばれ立ち止まる。
「無茶はするなよ、危ないと感じたらすぐに逃げろよ」
3人目の忠告。さすがにもう慣れたのか素直に頷く。
「あぁ、わかってる。銀も、皆のこと頼んだよ」
任せとけ、と胸を叩く。
「玲、気をつけてね。ちゃんと・・・帰ってきてね」
やはり不安なのだろう、霞が玲慈に寄り添う。
「大丈夫だって。直葉もいるんだし、危なくなる前にすぐに逃げるよ」
「うん。直葉君、玲のことお願いします」
直葉に向かって頭を下げる。
「はい、任せて下さい」
安心できる優しい笑み。直葉の心が表れているようである。
「それじゃあ行くよ。原田さん、八島君、俺と直葉で前を歩くから遠くに離れずに着いて来て」
裏口から4人が外に出る。
この先一体何が起こるのだろうか。不安を胸に抱え、それでも彼らは前に進むしかなかった。