一章8
「玲慈さん」
昨日のことを思い出していた玲慈に呼び声が掛かる。
声のした方向に振り返ると直葉が立っていた。
「おはようございます。ですけど、時間まではまだありますよ?」
只今の時刻は6時。7時に起こしてもらう予定だったのだが自分から起きてしまったのだ。
「いや、目が覚めちゃってさ、ちょっとその辺を歩いてたんだけど・・・あぁ、ごめん、見張り中なんだから足音なんて聞こえたら不安になるよな」
自分の軽率な行動に反省する玲慈。
「いえ、扉が開く音がしたので誰か起きたってことは分かっていましたし、見張りといっても特にすることもないですから」
そうは言いながらも、延べ3時間は一人で神経を集中させていたのだ、さすがに疲れの色が見える。
「大丈夫か?俺が見張りしておくから少し休んだほうがいいよ」
「いえ、大丈夫ですよ。それより、少しお話をしませんか?」
宿直室に座り真面目な面持で話す2人。
「玲慈さんは今回のこと、どう考えていますか?」
「どう、って?」
「そうですね・・・例えばあの化け物はどこから来たとか」
「そうだなぁ・・・アレが出てきたのは地震の後ってのは間違いないだろ?」
コクリと頷く直葉。
「だったら地震と・・・関係がありそうなのはあの光の柱だな」
「光の柱?なんですかそれは?」
何のことか理解できない直葉。
「え?見てないのか?地震のすぐ後に光の柱があっただろ」
「すみません、僕は見てないですね」
あれ?と思ったが話を進めることにした。
「まぁいいか、光の柱は地震の直後にあったんだ、だから化け物と地震と光の柱、この3つは関係があると思う。だけど・・・それ以上の事は分かんないな」
あまりに情報が不足しているため、今以上のことは判断できなかった。
「ただ他にも化け物はいるってことは確かだな。俺は実際に見てるわけだし。直葉はあの一つ目意外は見てないのか?」
「一つ目って・・・まぁ確かにそうですけど・・・、あ、はい、僕は他の化け物は見てないですね」
「俺が見たのは、昨日も話したけど人より一回り以上はでかい化け物だった。アレと戦うとなると・・・正直厳しいと思う」
「そうですね、それほど大きい相手だと力もかなりのものでしょうし、十分に気を付けないといけませんね」
ある程度話がまとまると、別の話へと切り替えた。
「今度は俺が聞いていいか?」
「ええ、いいですよ」
「俺達と会う前に一つ目と戦ったりしてたのか?」
「一つ目でもう決定なんですね・・・はい、そうですね・・・3、4回は戦ったと思いますが」
「それなのに怪我もしてないのか。直葉って神崎流剣術っていったっけ、その師範代なんだよな?そのさ、なんか戦うコツってなんかあるのか?」
「コツ、ですか」
「うん、なんか直葉を見てると隙がないっていうのかな、動きも滑らかな感じがしたし、怪我もしてなかったから、なんかコツがあるのかなって」
「玲慈さんは何か武道を学んだりしてますか?」
「いや、俺はそういったことは全く・・・」
キョトンとした表情をする直葉。
「それにしては随分と良い目をしてますね、まさか素人の方がそこまで感じ取れるなんて。それに、僕が着く前は玲慈さんがあの・・・一つ目と戦っていたんですよね?」
「あぁ、そうだけど」
「武道の心得もない人があの化け物達に立ち向かうことは凄いことですよ。普通は怖くて逃げることも難しいんですから」
「あの時は無我夢中だったから」
急に褒められて恥ずかしかったのか、俯きながら頭を掻いている。
「玲慈さんにはきっと武道の才能があるんですね、っとそういえばコツでしたね」
本題に戻ったためか、顔を上げ直葉の言葉を待つ。
「コツ、ってことではないんですけど、あの一つ目の特性といいますか。アレが動物だとすれば、獲物を狩る時の手段なんでしょうけど、大概飛びかかってくるんですよ」
玲慈は自分が押し倒された時の光景を思い出した。
「ですから相手が飛びかかった直後に体を左右どちらかに動かすんです。空中で移動はできませんから、自然と相手がくる位置がわかる、というわけです」
「なるほど・・・でも飛んだ後に動くんなら、危なくないか?」
「もちろん危険ですが、飛びかかる前にこちらが動いてしまっては相手は動いたほうに向かってくるでしょう」
「安全に倒す手段はそうそうないってことか」
「そうなりますね・・・外に出る以上何度か遭遇することにはなると思いますが、無茶はしないで下さいね、僕が相手にしますから」
「だからって直葉一人に押し付けるわけにはいかないだろ?俺だって戦わなきゃ」
「ですけど・・・」
「皆で生き残ろう、誰一人欠けることなくさ。俺にどこまで出来るかわかんないけどさ、それでも生き残る為に戦うんだ」
「・・・そうですね、皆さんで危機を乗り越えましょう」
生き残る為。今だ孤立無援。信じるは己が力と仲間達。
これから起こる危険な日々に2人は、いや、皆は立ち向かうのだ。
「それにしても、無茶するなって・・・俺ってそんなに危なそうなのかな」
昨日、霞にも同じことを言わていたので、ふと考えてしまう。
「え?」
「いや、なんでもないさ」
昨日の出来事など知らぬ直葉に玲慈は苦笑を向けるのであった。