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忘却の彼方  作者: 志具真
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一章7

目の前に広がるのは白と黒の世界


一人の女性が悲しげな表情で何かを語りかけてくる


(これは・・・あの時見た・・・)


やはり何を言っているのか聞こえない。

「君は・・・君は一体誰なんだ!」

こちらが何を言っても相手には聞こえないのだろう。

初めと同じで相手が変化を見せる様子は一切ない。

目の前の女性が目を瞑る。すると世界が一変した。


ここはどこかの一室だろうか、今度は男性が椅子に座っていた。

ニヤニヤと笑いながらこちらに何かを語りかけている。

しかし最初の女性と同じで何を言っているのか聞こえない。


(これは夢・・なのか・・)


何も聞こえないのだが目を離すことができない。

ずっと笑いながら何かを話していた男性の表情に変化がでた。

急に真面目な顔になり、一言呟くと顔を俯かせた。

それから静止した世界。玲慈は手を伸ばし椅子に座っている男性に触れようとした。

その時、目の前の世界は真っ暗になり、意識はそこで途切れた。



目を覚ますと、そこは見慣れぬ天井。横を見るとスヤスヤと寝息をたてている霞がいる。

(そっか・・・そういえば学校にいるんだっけ)

衝撃の日より一夜明けた朝。周りを見ると皆まだ寝ているのか物音一つしない。


(あれは一体なんなんだ・・・、俺はどうしちまったんだ)

言い知れぬ不安が胸を過ぎる。気分を変えるために一旦部屋から抜け出した。


廊下を静かに歩き玄関に辿り着いた。そこには机などが山積みにされ、入り口を塞いでいた。


昨日、話が終わった後、提案通り1階の探索が始まった。玲慈の予想通り警備員用の裏口は開いたが他の場所は開くことがなく、2階、3階と探索を続けたが異常は見られなかった。


一旦裏口の鍵を閉め、男性陣は玄関の封鎖、女性陣は裏口のすぐ近くにある職員室と宿直室に寝床を作った。宿直室には教員の夜食だろうか、お菓子類や非常食がいくつか残っていた。


すべての作業が終わる頃には日が傾き落ちかかっていた。

シャッターが下りているせいか、明かりは非常灯のみ、かろうじて警備室、宿直室に置いてあった懐中電灯を見つけそれを明かりにして宿直室に集まっていた。


全員集まっただろうか、確認を取ろうとしたその時、パチッという音が聞こえ明かりが灯りだした。部屋にいた皆は音の発生源に顔を向ける。するとそこには玲慈が立っていた。

「あ、いや・・・非常灯が点いてるから、もしかしたら点くかと思って・・・」

急に向けられた視線に戸惑いながら答える玲慈。

「もしかしたらって、お前何か知っててやったんじゃねぇのか?」

銀による鋭い指摘が入る。

「え?あ、うんまぁ・・・ここってさ、太陽光発電機、ソーラーパネルが付いてるんだよね。非常灯の電気もそこからきてるのかなぁ、って思ってさ」

またまた意外な設備が玲慈の口から語られる。

「玲慈・・・他にもあるなら今のうちに言っておけ」

銀の半ば呆れているようである。

「他っていっても、俺だって全部が全部覚えてるわけじゃないしさ、また思い出したら話すよ」

と言って座りだす玲慈。

「とりあえず明るくなったし、いいじゃない。ご飯っていうには物足りないけど我慢してね」

場の空気を変えるように陽子は食べ物を差し出す。


皆無言のまま食事を済ます。

食べ終わる頃合を見計らっていたのか銀が皆に話しかける。

「今日はもう休もうか、他に何をするにも明日からにしようじゃねぇか」

そう言って就寝の準備を始めた。


「玲慈、直葉」

呼ばれる声に振り返る2人。

「疲れてるとこワリィんだけどよ、一応ワシら3人で見張りをしようかと思う。大丈夫だとは思うが念のため、な」

2人は特に反対することもなく了承する。

「だったら最初は俺がやるよ。まだ全然寝れそうもないしさ」

時刻は7時。大概の人は確かに寝れそうもない時間であろう。

「わかった、直葉もそれでいいか?」

「僕は構いませんよ」

「だったら玲慈、11時になったらワシを起こしてくれ。直葉は3時になったら起こす。7時になったらワシと玲慈を起こしてくれ。1人4時間っつーのは辛いと思うがなんとか頑張ってくれ」





宿直室に一人佇む玲慈。見張りといっても外の状況を窺えないため、特にやることもなく物音に気を配る程度だった。そんな中、玲慈は今日起こったことを思い出していた。

(まったく何がなんだかわかんないや・・・あの化け物のことも、あの女の人のことも・・・)

光の柱を見たときに頭の中に流れた映像。悲しそうな女性の顔を忘れられない。だが玲慈はその女性のことを知らないのだ。

(もしかして・・・記憶がないことに何か関係してるのかな)

あれこれ考えているとコンコンと戸を叩く音が聞こえた。


「誰?」


戸が開きそこには霞が立っていた。


「霞、どうしたの?」

「玲、ちょっと話さない?」

霞の提案に頷く。

玲慈の隣に腰を下ろし、俯いたまま黙っている。やがて消え入るような声で話し出す。


「ねぇ玲、私達これからどうなっちゃうんだろうね・・・」

「どうなる・・・か。俺さ、ちょっと前までの記憶がないわけじゃん」

唐突に語り始める。

「記憶がないってさ、実はすっごい気持ち悪いんだよね、自分が自分じゃないみたいでさ。だから俺は記憶が戻るまでは意地でも生き残ってやる。気持ち悪いままで死ねるかってんだ。大丈夫、俺達は助かるさ。そのために出来ることをやるって決めたんだしね」

「霞のことは俺が守る。だから安心してよ」

玲慈の言葉に瞳を潤ませる。

「玲・・・、うん、わかったよ。玲のこと信じるわ」

多少は安心できたのか先程までより顔色がよい。

「だけど無茶はしないでね?またいなくなったりしたら私・・・」

玲慈はつい最近まで行方不明だったのだ。やはり不安の色は完全に取り払うことはできない。

「大丈夫。もういなくなったりしないさ」

「うん・・・そうよね、いきなり変なこと言ってごめんね。それじゃあもう寝るね、お休み」

「あぁ、お休み」


霞が戻ると静寂の時間が再び始まる。


(大丈夫、そう・・・大丈夫に決まってるさ)

不安を打ち消すように自分に強く言い聞かせる。


それから時間まで特に変わったこともなく、11時になったため銀と交代するために職員室へと行き起こす。


銀は熟睡していたのか、ふぁ〜っと欠伸をしていた。

周りを見ると、中々寝付けないのか布団がもぞもぞと動いている。

こんな状況でも熟睡できる銀の神経の太さはさすがと言うべきか。

しかし時刻は11時。緊張による疲労感に睡魔が襲ってくる時刻であろう。

(さすがに疲れたな・・・もう・・・)

部屋が暗いことと、布団に入ったことにより緊張感が途切れたのか、玲慈はすぐに深い眠りについていた。



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