一章5
これから向かう学校は「私立新名東小学校」
玲慈と霞の通っていた小学校である。
玲慈達が小学校へ上がる直前に出来たばかりの新設校であり、耐震強度もしっかりしていて今回の地震でも倒壊していることはないだろうと話した。
それならば余計に人が集まっている可能性が高いな、と銀は考える。
しかし、学校へ向かう途中、獣どころか人一人も出会うことがなかった。
無理に急いで獣から奇襲でもされ怪我だけならまだしも、死んでしまったら元も子もないとのことで、ゆっくりと辺りを警戒しながら進んでいった。
そうであるにも関わらず誰一人として見かけなかったのは、異質な空間をさらに異常にしていく。無論、死体はいくつも見つけたのだが。
一歩一歩、細心の注意を払い辺りを見回すがやはり人の姿は見られかった。
こりゃ、まいったねぇ〜。という銀の呟き。学校へ向かう途中、獣や生き残りの人との遭遇があると予測していた銀。事態は思った以上に更に深刻なのかもしれない、と考えを改めた。
学校へ着くと銀は目の前の光景に驚愕した。
「これが・・・小学校だとぉ?」
見た目にわかる真新しい校舎。一階の窓ガラスがあると思われる場所にはすべてシャッターが下ろされていて、中の様子は覗えない。
「この学校ってちょっと変わってて・・・創設者の理事長が「時代の最先端を走る学校を作るぞ!」って言って色んな設備をつけちゃったみたいで」
「俺が知ってる中では、まぁ見れば分かるな、緊急時に作動させることができる窓を隠すシャッター、オートロックの玄関、IDを持たない人が校舎に入った場合に鳴る警報機、噂じゃ理事長しか知らない秘密の部屋まであるとか・・・」
普通に考えればありえない機能まで付けられている小学校。今の状況とはまた違った異質感が漂う。
「っておい、オートロックの玄関って、ワシら中に入れるのか?」
至極当然のことを質問する銀。
「あ、うん。警備員用の裏口はオートロックじゃないから、そこからなら入れるかな。開いてなければあそこだけはシャッターも下りない場所だから、窓を割ってでも入ればいいさ」
特に問題はないとして、とりあえず辺りを警戒しながら玄関に近寄る4人。
銀の心配事も杞憂に終わったのか、玄関には鍵が掛かっておらず簡単に中に入ることができた。
静寂の校舎内。4人は隊列をとって校舎の探索を始めた。
まず先頭に直葉。最も危険な役目であり、緊急の判断を要することがあるために直葉が自ら買ってでたのである。
次に玲慈。直葉の補佐的な役目であるが危険なことに変わりない。青龍刀を構えすぐに動けるように辺りを見回している。
本来、青龍刀は銀の所有物であるのだが、銀に返そうとした際に「ワシが持つより兄ちゃんが持ってるほうがいいだろ。それでしっかり嬢ちゃんを守ったれ」と言われ玲慈が持つことになったのだ。ちなみにその後「それに、ワシにはコレがあるからな」と拳銃を顔の横へ持っていき、ニヤリと笑った顔を見た玲慈は背筋が凍ったとか凍らなかったとか・・・。
3番目に霞。非戦闘員である霞はとりあえず辺りを見回し、変わった所がないかを探す役。銀に前の状況を伝える役もやっている。
最後尾に銀。拳銃を構え主に後ろに警戒をする役。後ろから襲われることは滅多にないのだが警戒するに越したことはない、とのことで何度も後ろを確認しながら前に進む。
コンッコンッコンッ
校舎の中には4人の足音しか響かない。部屋を一つ一つ回り中を確認して次の部屋へ、と繰り返している。
未だ生存者が見つからないことと、他の人がいれば聞こえるであろう物音もしないことから、ここには人がいないのでは?という考えが生まれてきた。
どれだけの部屋を回っただろうか、何事も起こらずに少し緊張感が解けてきたであろうその時
ガタッ
一気に緊張感が高まる。直葉と玲慈は刀を構え、音が聞こえた部屋の前に立つ。
銀は辺りを警戒し、問題ないと告げる。中からはもう物音一つ聞こえない。
直葉と玲慈は互いに顔を見合わせ頷き扉に手をかける。
一気に扉を開け中へと入り刀を構える。
部屋の中は薄暗く、音の発生源が何であるか確認できない。
「誰かいるのか?」
玲慈が確認のため声に出してみると女性の声が返ってきた。
「誰?助けに来てくれたの!?」
そこには数人の男女が固まり寄り添っていた。