一章4
玲慈は死を覚悟した。
迫り来る死の鼓動に自身の力では何一つ抗うことができない。
しかし、そこへ一人の少年が現れる。
「大丈夫ですか?」
落ち着いた口調とは裏腹に目の前は酷い光景だ。
獣の横顔を一突きにする刀。そこから滴る獣の血。幼顔の少年がした行動とは思えない。
玲慈の返事を聞く前に少年は残りの1匹を見る。
手に持っていた刀を離し、腰に下げていたもう一本の刀を手に取り、最後の獣に向かっていった。
銀はその少年の行動を見ていたので、またかと思い銃撃を止めた。一応危険になった時のために狙いを定めることまでは止めはしなかったのだが。
直葉はここに辿り着く前にも何度か戦闘を行っていた。
故に最早1匹の獣など恐るるに足らぬ相手となっている。
数度の戦闘で相手の行動を読み、立ち振る舞えるようになっていた。これは直葉の持つ天性の才能があって成せる技であろう。
獣は直葉の只ならぬ雰囲気を感じ、野生の本能に従い、背を向けて逃げようとした。
が、銀の放った銃弾により逃げることも叶わず絶命したのである。
直葉は玲慈に元に行き、獣から刀を抜いて、血を掃い鞘にしまう。
辺りを見回すが他の生存者の気配はない。
「大丈夫ですか?」
最初と同じ落ち着いた口調で玲慈に尋ねる。
「あ・・・うん、大丈夫」
まだ死の恐怖が抜けきらないのか、呂律がうまく回っていない。
「今はもうアレの気配はありませんが、安全とは言えないでしょう。どこかへ隠れるか移動するかしたほうがいいですよ」
それでは、と最後に言い移動しようとする直葉。
「ちょ、ちょっと待って、君はどこへ行こうっていうんだ?」
すぐに移動しようとした直葉へ制止の声も兼ねて玲慈が尋ねる。
「僕は他に逃げ遅れてる人がいないか探して助け出します」
これがただの自然災害であったならば100点満点の答えであろう。しかし今は謎の化け物までいるのだ。
「助けるっていったって、危ないだろ!」
逃げている最中に遭遇してしまったなら仕方のないことなのだが、自分からアレが徘徊してるかもしれない街中を探し回るなど正気とは思えない。
「それでも僕は行かなきゃいけないんです」
そう言って直葉は振り返り行こうとしたその時、再び大きな地震が起こる。
「うわっ」
「きゃっ」
最初の地震よりも更に強い揺れ。その容赦ない自然の猛威は脆弱な人間に対して恐怖の象徴でしかなかったのだ。
揺れが収まり辺りを見渡すと先程まで見ていた光景とは変わっていた。
陥没した道路、倒壊した家々、瓦礫の山。
その凄惨な光景に言葉を失う4人。
そんな中、直葉が立ち上がり行動を移そうとする。
「ちょっと待ちな、少年」
銀が直葉の肩を掴み、現在の状況を語り始めた。
「さっきと今じゃ状況が違いすぎるぜ。他の人を探すっていってもどうやって探す気だ?適当に走り回ってたんじゃ少年もいつかは殺られちまうぜ。それに他の人を探すんだったら、もうちょっと考えようぜ」
ニヤリと銀が表情を変える。
「あの化け物共がどうやって出てきかたも、どこにいるのかもわかんねぇが、あれだけの規模の地震だ。大概の奴らは家に閉じこもっていたかも知れねぇが、今の地震で殆どの奴らは外に出るだろうな。見りゃわかるさ、自分の隣の家が崩れてたらそりゃ自分の家も、ってな」
「外だって安全じゃないんですよ!だったら急いで他の人を探さないと」
早く行動を移したいのか直葉が銀に食って掛かる。
「だぁ〜もう少年、人の話は最後まで聞けや」
話はこれで終わりではないと告げる。
「逃げるってもどこに逃げる?こんな時に人が集まりやすい場所、っつったらわかるか?」
銀の一言一言をしっかりと考え霞が答えを出す。
「人の集まりやすい場所・・・。あ、学校・・?」
「その通りだ嬢ちゃん。いいか少年、いるかいないか分からん連中を探すよりは、人が集まっていそうな場所に行ったほうが助けるっつーことに関してはできるんじゃねぇのか?」
銀の説明を聞き、考えるような仕草を見せる直葉。
「たしかにそうかもしれませんが・・・」
「それに」
直葉の言葉を遮り銀が言葉を繋ぐ。
「ワシとしても少年に一緒に居てもらったほうが助かるんだがな?」
真面目に話していたのだが、意味ある含み笑いを直葉に向ける銀。
「兄ちゃん達も助かるよなぁ?」
玲慈と霞にも同意を求めるようにこちらを振り向く。
「え・・?・・・はい」
「あぁ、そうですね」
2人の同意の声を聞いた直葉は俯き考えている。
しばしの沈黙。直葉が答えを出したのか口を開き始めた。
「わかりました、それでは一緒に学校へ行きましょう」
思惑通りの結果になったためか、銀はニヤリと笑い玲慈達に確認をとる。
「兄ちゃん達、学校へ行くことになったがそれでいいよな?」
こんな状況で異論など出せるはずもなく、4人は学校へ行くことが決まった。