海辺にて
見渡す限り海だった。
奇麗な砂浜の海辺でしじみぼんやりと海を眺めていた。
がさり、と音がした。振り向くと人影があった。
しじみの心臓が一瞬ドキリとした。
人影は島を散策していた鎧だった。
草をかき分けて出てきながら鎧は言った
「駄目ですね。ここには人は一人もいませんでした。ライオネルは?」
しじみはそっかと答えると海の方に指をさした。
水面から巨大な魚がしぶきを上げて飛び上がってきた。
背にはライオネルが乗っていた。
ざぶんと魚は水に潜って行った。
暫くするとさっきの魚を抱えたライオネルが海から上がって来た。
「今日の晩飯を捕まえたぞ」
そう言うとライオネルはどさりと魚を置いた。
「食べられるのかな……」
「お前が食わんなら俺が全部喰う。鎧の方はどうだったんだ」
「こちらは水場を見つけましたがそれだけです。この島は恐らく人一人いませんね」
「そうか。では俺は今から寝床を造るとするか。しじみ、お前には必要だろう?」
「私はマントがあるから大丈夫だよ」
「そうはいくまい。曲がりなりにも貴様は我が主なのだ。変なところで死なれては困る。幸い木は豊富に生えている。小屋ぐらいなら容易に作れるだろう」
「ありがとうライオネルさん。無理はしないでね?」
「この俺に無理な事などあるものか。今に見ていろ。立派な小屋を建ててやる」
しじみの言葉に火が付いたらしい。ライオネルは勢いよく木々をなぎ倒していった。
「私は水を汲んできましょう」
「あ、じゃあ私も一緒に行くよ」
「いえ、しじみは休んでいてください」
「私も何かしたいの。だから水汲みを手伝うよ」
頑として譲らないという目だった。鎧は仕方なく折れた。
「分かりました。では我々も木を切り倒して水を入れる器を作りましょう」
そう言うと鎧は手刀で太い木を切り倒した。
斬り落とした丸太をくりぬいて大きな器と小さな器を作った。
そして小さな器をしじみに渡した。
準備が整うと二人は森の中にあしを運んだ。
水場はすぐそこにあった。
水を汲んで戻ると、既に小屋が半分ほど出来上がっていた。
それからはあっという間だった。
小屋は完成ししじみとライオネルは取った魚を鎧の炎で焼いて食べた。
夜は浜辺に寝そべって星を眺めていた。
「そういえばこうやって星を眺めるなんて久ぶりだな」
しじみがぼんやり空を眺めながら言った。
「お前らは今までどんな旅を続けてきたんだ?」
ライオネルが空を眺めながら聞いた。しじみが答えた。
「旅にきっかけは私の世界が魔神に襲われたからなんだ」
「魔神に?それはなんでだ」
「分からないよ。けど魔神を止めるためにこの旅を始めたんだ」
「そうなのか。ガキンチョが何で旅してんのかと思ったらそんな理由だったのか」
「うん。それでね、最初の世界はブリキの人と普通の人が一緒に暮らすいい国だったんだよ。けど盗賊が
ちょっかいをかけていてね、鎧さんが盗賊をやっつけて国を救ったんだよ」
「俺らの世界でのやり取りとあまり変わらんな」
ライオネルの揶揄にしじみは笑った。
「そうかも。次に行った世界は迷宮の中でねすごく大変だったんだ」
「しじみが腕を斬ってくれといったときは流石に驚きましたよ」
「だからおめえの腕、片方義手なのか」
「うん。それとそこで魔法のマントを拾ったんだよ」
「そのマントが無ければ俺が負けることも無かった訳だ」
ライオネルが口をとがらせて言った。
「次の世界は機械人の人たちの街に行ったんだよ。そこで義手をもらったんだ。」
「随分奇妙な義手だよな、それ」
「それからその世界で人形同士の戦いを見たんだ」
「人形同士の戦い?それは見てみたいな」
「それからライオネルの世界に行ったんだよ」
「随分と忙しい旅だったんだな」
「うん……けどねえ……会う人皆優しくてね……」
しじみは話している途中で眠ってしまったらしい。
寝息を立てていた。立ち上がりしじみを抱えようとした鎧にライオネルは聞いた。
「お前は何でしじみにくっついて旅を始めたんだ?」
「……しじみの為です。それが私の全てです。何か問題がありますか?」
「……いや無いな」
「万が一危害を加えるなら貴方でも容赦はしません。覚えておいてください」
あいよとライオネルは返した。鎧は獅子の頭を一瞥すると小屋の中へと入って行った。
「しじみのために、ね」
ライオネルの独白は波の音にかき消された。
それから七日間。何事も無く時間は進み、しじみ達は次の世界に消えて行った。