砂礫の戦い
いくらあたりを見回して見ても砂だらけで太陽が身を焼いていた。
しじみ達がこの世界に来てから二日たっていた。
歩けども歩けども砂だった。
マントのおかげである程度は抑えられていたが、さすがに二日飲まず食わずの状況は、しじみを限界へといざなっていた。
そんなときである。
視界の果てに水場が見えたのだ。しじみと鎧は慌てて駆けよった。
それは幻では無かった。しじみは水を掬って飲んだ。
まるで天国の様だった。
喉の渇きは癒された。そんなときだった。
砂が大きく盛り上がり中から山のように巨大なサソリが現れた。
瞬時に鎧はしじみをかばうようにたった。
瞬間。サソリは炎と轟音を立て吹き飛んでいった。
鎧がやったわけでは無かった。そこには一人の男が立っていた。
男は狼男だった。
「大丈夫か」
男は言った。しじみは大丈夫だと答えた。男はロウガと名乗った。
「私はしじみです。こちらは鎧さん」
「なるほど名前は分かった。だが君たちは何故こんなところに?」
「私達は別の世界から来たんです。この世界で七日間過ごさないといけなくて」
「なるほど珍妙だな。良かったら近くの村に来ないか?」
しじみにとってこれほど良い提案を受け入れない理由が無かった。
言葉に甘えてしじみ達はロウガの村へと向かった。
ロウガの村は一言で言うと寂れていた。
人はまばらで皆生気が無かった。なぜなのかとしじみはロウガに聞いた。
「ライオネルの仕業だ」
「ライオネル?」
「自分を最強だと称している男だ。奴を頭目としたチンピラたちがこの村の作物を奪っていくんだ。来るたんびに俺が撃退しているんだが……」
「そんなひどいことを……鎧さん……」
しじみは鎧の方を見て言った。鎧はこくりと頷いた。
「ロウガさん……私達にも手伝わせてください」
「君達が……?」
「私は何もできないけれど、鎧さんなら何とか出来るはずです」
「しかし……いいのか?」
「構わない。私はしじみに従うだけだ」
「済まない……助かるよ。今日は休んで明日奴らのアジトに向かうとしよう」
しじみと鎧は頷いた。質素なものだったがしじみは二日ぶりに食事にありつけた。
三日目。しじみ達は既にライオネル達のねぐらにたどり着いていた。
アジトの前に立つと見張りの二人の男たちが近づいてきた。
門番だろう。男たちは頭が豚だった。
藁を掻くための大きなフォークをしじみ達に突き付けて言った。
「お前らここがどこか――」
男の言葉の途中でロウガと鎧はそれぞれ門番を殴り倒していた。ロウガは門を開けて叫んだ。
「出てこいライオネル!今日こそ年貢の納め時だ!」
ロウガの言葉に奥から男が現れた。男の頭は獅子だった。吠えるように男は叫んだ。
「人の家に現れて随分不躾だな、ロウガよ!また俺に倒されに来たのか!それともそっちの弱そうな助っ人を得て舞い上がっているのか!」
「ライオネル!もう弱者から奪うのをやめろ!」
「断る!止めたければ俺を倒してみろ!二人掛かりでも構わんぞ!」
「ならば行くぞ!鎧さん、よろしくお願いします!」
そう言うとロウガは炎を纏い、ライオネルは雷を纏った。
最初に動いたのはライオネルだった。
ロウガへと一気に距離を詰め右拳を腹に向けて放った。
ロウガは身をねじり、辛くもその一撃を躱し、反撃の右拳を放った。
同時に鎧が右の蹴りをライオネルへと放った。
ライオネルは身をねじりながら跳躍し、ロウガと鎧の腹をそれぞれ拳とかかとで打ち据えた。
鎧は吹き飛ばされて、ロウガはその場で耐えた。
それが良くなかった。ライオネルは雷を纏った手刀を放ち、ロウガの腹部を貫いた。
そしてロウガを蹴りつけ、刺さった腕を抜き取った。しじみが悲鳴を上げた。
「ふん、所詮はこの程度よ。ロウガ、ここで死ねい!」
ライオネルは足を振り上げた。
振り下ろされた足がロウガの頭を潰すよりも速く、鎧がロウガを抱え離脱した。
「しじみ、マントをロウガへ」
シジミは言われるがまま、ロウガに癒しのマントを被せた。腹からの出血は止まった。
鎧はライオネルに向き直り構えた。
ライオネルが笑いながら言った。
「珍妙な鎧よ、もしや貴様一人で俺に立ち向かうつもりか?」
「その通りですが問題があるのですか」
「悪いことは言わん、貴様では役者不足よ。先ほど、相対した時点で判らなかったか?」
「どうやら戯言がお得意みたいですね。どうしても私と戦いたくないみたいですね」
「いいだろう。死を望むならその通りにしてやろう!」
鎧はライオネルに猛火の渦を放った。
ライオネルは片手で振り払った。
その隙に鎧は一気に距離を詰め、右手に炎を纏わせて手刀を放った。
ライオネルは身をよじり拳を放ったが、鎧が左手で逸らし空を切った。
鎧はライオネルの体を掴み、投げ飛ばした。
ライオネルは回転しながら放電し、鎧の足元に稲妻を放ち鎧からの追撃を防いだ。
猛獣は岩を蹴り一気に鎧に詰め寄りそのままの勢いで蹴りを放った。
鎧は腕を交差して防いだが、吹き飛ばされて壁にぶつかった。
ライオネルはその隙を逃さなかった。雷撃を放ち鎧に当てた。鎧の体が仰け反りそのまま倒れた。
「どうした。口ほどにもないな」
とどめをさす為、ライオネルは鎧の方へ歩みを進めた。
それを遮るようにしじみが両手を開いて遮った。
「どけ、小娘。貴様も死にたいのか?」
しじみは答えなかった。震えながら立ち続けた。ライオネルは笑って言った。
「よかろう。ならば貴様から殺してやろう」
「駄目ですしじみ、そこをどけてください」
鎧がしじみにいった。それでもしじみはよけなかった。
「待て!ライオネル!俺が相手だ!」
ライオネルは声のする方へ向いた。そこには胸に穴をあけたロウガが立っていた。
「ロウガさん!動いちゃだめだよ!」
しじみは叫んだ。ライオネルは笑いながら言った。
「一度死んだ奴に何が出来る。貴様はそこで見ていろ」
「断る!俺はお前を死んでも倒す!」
そう言うとロウガはライオネルへ一気に距離を詰め、炎を放った。
ライオネルは放電し炎を受け止めた。
「やはり死人の攻撃だな。この程度で俺を倒せるものか!」
「二人掛かりならばどうですか?」
ロウガの炎に鎧は自身の炎を重ねた。
強まった炎はライオネルの稲妻を吹き飛ばし、彼自身を焼き飛ばした。
炎に包まれたライオネルは壁を突き抜けて吹き飛び倒れた。ロウガはライオネルに近づいて言った。
「終わりライオネル。貴様の負けだ」
「まだ俺は死んでないぞロウガ。敗者には死を与えろ」
ライオネルの言葉にロウガは頷いた。ロウガは拳を振り落とした。
拳はライオネルの頭を砕くことなく、地面を穿った。
「死を与えるかどうかは勝者が決めることだ。いずれまた戦おう、ライオネル」
ライオネルは空を見上げて、何も言わなかった。
しじみ達は村に戻りライオネルの恐怖政治が終わったことを告げた。
村人たちは大いに喜び、ライオネルの部下たちと共に宴を開いた宴は三日三晩続いた。
しじみの元へ意外な人物が現れた。ライオネルだった。ライオネルは口を開いた。
「貴様らは旅を続けているらしいな」
「あ、はい、そうです……」
「ならば俺を連れて行け」
しじみはその言葉に思わずきょとんとしてしまった。
「お前らの旅に付いて行けば修行になる。だから連れていけ」
ライオネルの言葉に鎧が口を挟んだ。
「貴方は信用ならない。そんなこと認めるわけにはいかない」
「……鎧さん、だったら」
しじみはそう言うと体から『本』を取り出した
「これで契約すればいいんじゃないかな?」
「しかし……」
「鎧さん……お願い……」
「……分かりました。契約をすればしじみに手は出せないでしょう」
そうしてライオネルはしじみの『本』に触れた光があふれて消えた」
「……これでいいのか?」
「多分大丈夫だと思います」
こうしてライオネルが旅の一行に加わった。
次の日。しじみ達は次の世界へと旅立って行った。
ロウガはそれを見送った後、空を眺めた。空は相変わらず青かった。