機械の人形使い
しじみ達はまた変な国に来ていた。
そこは機械人形達の国だった。
とりあえず歩き出すととある一団とであった。
彼らは人形作りの職人たちだった。生身の人間は珍しいからとしじみ達は一団に招き入れられた。
「ムルドさん達は何処に行くんですか」
ふくよかな機械人のムルドが、体を揺らして答えた。
「デカイの街に行くのさ」
「デカイの街?」
「デカイを知らないなんてやっぱり異世界から来たんだねぇ。デカイは人がたくさん集まる街さ。そこで祭りがあるんだけどね、祭りの中で人形を戦わせる大会があるのさ。それに参加するためにデカイに行くんだ」
「人形を戦わせるんですか!それは凄そうですね!」
「そうだろう、凄いのさ」
何かを調整しながらムルドは答えた。
「出来た。しじみ左手を出してごらん」
「え……どうして……」
「あたしの目はごまかせないよ。あんた左手ないんだろう。あたしが義手を作ったげるよ」
「……けど私お金が」
「楽しい旅の話のお礼さ。さあ腕を出してごらん」
しじみは言われたとおりにマントをよけて腕を出した。
しじみの腕は肘から先が欠損していた。
断面は不思議なことに治癒されていた。おかげで血は通っているらしかった。
「これが不思議なマントの効果かい。まるで治療されたようだね」
「はい。このマントのおかげで痛みもないんです」
「普通の人間なら死んでる怪我だよ。あんたも運が良いね。そら、
出来た」
「もう出来上がったんですか!?」
「人形のパーツを使ったからね。動かしてみな」
言われた通りにしじみは義手を動かしてみた。失った肘から先が自由に動いた。
しじみは嬉しくなって涙を流した。
「どうしたんだい、何か痛かったかい!?」
「違うんです。もう動かせないと思ってたから嬉しくて。本当にありがとうございます」
「なに、いいってことさ。ほら泣くのをやめな。もう少しで街につくよ」
しじみは涙をぬぐってムルドの指す方へと向いた。そこには大きな街があった。
街は活気に満ち溢れていた。
祭りがあるからだろうそこらかしこに垂れ幕が下がっていたり、装飾が施されていた。機械人もたくさんいた。
しじみは感嘆の声を上げた。
「凄いですね!」
「確かに、人が大勢いますね」
「そうだろう。これがデカイの街さ。あたしは人形大会の受付に行ってくるよ。ヨーグー、しじみちゃんをよろしくね」
あいよと痩身の機械人のヨーグーが答えた。
「よろしくお願いします、ヨーグーさん」
「おう、折角の祭りだ。何か見ていくかい」
「いいんですか?」
「構わんさ。ムルドにも君の事を頼まれているからな、リック、人形の調整、頼んだぜ」
「了解っす。しじみちゃんも楽しんできてね」
しじみは言われたように祭りを楽しんだ。
人間用の食べ物は余りなかったので堪能できなかったが、射的やボール救いなどを楽しんだ。
そんなこんなであっという間に夜になった。
夜はムルドたちと街の外に張ったテントで過ごした。周りもテントでいっぱいだった。
「あのテントは皆人形大会の人たちなんですか?」
「そうだよ、たくさんいるだろう。皆ライバルさ」
「ようムルド今回も出るんだな」
大柄の機械人が話掛けてきた。ムルドはニヤリと笑い答えた。
「デック久しぶりだね。やっぱりあんたも出るんかい」
「当然だ。今回も優勝するのは俺の人形さ」
「今回優勝をもらうのはうちの人形だよ。今に見てな」
デックは大笑いしながら言った。
「言うのは簡単だぜ。当日あかっぱじをかかないように気を付けな」
大笑いしながらデックは去って行った。
「あの人はライバルさんなんですか?」
「そうだね。あいつは態度はデカイが繊細で強い人形をを造る男さ。気を抜けない相手さね。さあ明日は早いよ。テントに戻って眠るとしよう」
大会当日。しじみはムルドたち一緒に会場に入っていた。
ムルドたちの人形は順調に勝ち進んでいった。
そして決勝戦。相手は昨晩であったデックの人形だった。
「どうやらここまで来たようだな。だが勝つのは俺の人形さ」
「言ってな。今年はうちの人形が勝つよ!」
開始のブザーが鳴った。
ムルドの人形は一気に距離を詰めて腕から生やした刃でデックの人形に斬りかかった。
デックの人形は両手のハンマーを振るい、迎撃した。
双方の人形は互角だった。
しじみは大きな声で応援した。生まれて初めて、こんなにも大きな声を出していた。
決着は一瞬だった。
デックの人形がムルドの人形の右腕を砕いた。
ムルドの人形はそれに臆せず、上方へ跳躍しデックの人形の頭を切裂いた。
デックの人形は倒れ動かなくなった。
ムルドの人形の勝利だった。
ムルドは喜びしじみを抱えて放った。
それからはあっという間だった。ムルド達は表彰された。
デックはムルドに言った。
「来年は俺が勝つぜ」
ムルドはにっかりと笑って答えた。
「寂しくなるね」
七日目。ムルドはしじみの頭を撫でていった。リックは涙を流していた。
「長い間お世話になりました。あと腕を付けてくれて本当にありがとうございました」
しじみは頭を下げた。ムルドはまたしじみの頭を撫でた。
そして時は来た。しじみの体が霧の様に消えて行った。
しじみ達が居なくなった後、ムルドは鼻を啜りながら言った。
「あの子たちは勝利の女神だね」
ヨーグーとリックは黙って頷いた。