ブリキット王国前編
しじみ達が辿り着いたのは草木の生い茂った、川の流れる草原だった。
「そういえば道化師さんは七日間って言ってたけど何したらいいんだろう」
「さて……その辺の人に話しかけてみたら良いのではないですか?」
「じゃあ川沿いに歩いてこうか」
そんなこんなで歩いていくと小さな橋があった。橋の上には若い男が立っていた。
「……話しかけてみようか」
「頑張ってください」
しじみは恐る恐る近づくと男に話掛けた。
「あのぅ……ここは何処でしょうか」
「ここ?ここはブリキット王国だよ」
「ブリキット王国?」
「知らないのかい?この辺では一番大きな国さ。ブリキット人が住んでいる国さ。特に城下町は人で賑わっていてね、僕も行こうと思っていたんだ」
「ブリキット人?」
「そう、ブリキット人。みんなブリキでできている人達さ」
「ブリキでですか!凄いですね!」
「そうなんだ。皆いい人たちだよ」
「そうなんですか。そういえばお兄さんは何をしている人なんですか?」
「僕かい?僕はしがない傭兵さ。君は何をしているんだい?」
「私は……旅をしています」
「君がかい?その割には手ぶらだね」
「あ、はい。信じてもらえないかもしれないんですけど、実は別の世界から来たんです」
しじみは正直に答えた。男は笑って答えた。
「別の世界からか。それは面白いね」
男はからからと笑った。ひとしきり笑った後しじみに向き直って言った。
「僕はライアン。君達は?」
「私はしじみです。こちらは鎧さんです」
「身なりだけでなく名前も不思議だなぁ。どうだい、折角だから一緒に城下町に行かないかい?」
「はい!よろしくお願いします。鎧さん、いいよね?」
「勿論。私からもよろしくお願いします」
という事で三人で城下町へと向かう事になった。
三人で歩きながら、ライアンは聞いた 。
「君たちは何処から来たんだい?」
「ええと、遠くから来ました」
「遠くって言うとルドラの方とか?」
「……そんな感じです」
「訳アリって事かな。だったら余り詮索はしないよ」
「すいません……ライアンさんは何処からいらしたんですか」
「僕は城下町生まれさ。三年前に傭兵稼業を始めてね。今はお城の方に雇われているのさ。あっそろそろ着くよ」
ライアンの指さす方へ眼を向けると大きな城壁が見えてきた。しじみは感嘆の声を上げた。
「凄い!大きいですね!」
「そうだろう。城壁の中も凄く広いんだ」
「わあ、楽しみです!」
一行は城にたどり着いた。橋を渡り、城下町に入った。
町は賑わっていた。所かしこに商店が並び人々に活気があった。
人の山の中にブリキでできた人達がちらほら見えた。
「いろんな人がいますね。ブリキの人がブリキット人なんですか?」
「その人たちがブリキット人さ。皆明るく良い人ばかりだよ」
「やあ、ライアン。今日もいいリンゴ入っているよ、見ていきなよ」
「ライアン!うちのパンはどうだい」
「……ライアンさんって有名人なんですね」
「そんなことは無いさ」
そんなライアンの謙虚な言葉にパン屋のおばさんが言った。
「何言ってんだい、ライアンが居なきゃブリキットは盗賊共に潰されていたよ」
「そうさ、ライアンはブリキットの英雄だよ」
「皆勘弁してくれ。俺はしがない傭兵さ。さあしじみ、こっちに行こう」
しじみの手を引き、ライアンは歩みを進めた。
「どこに行くんですか」
「王様の所さ。見回りの報告をしに行くんだよ」
ライアンの後を付いて行くと王宮にたどり着いた。
憲兵が槍を持ち直しライアンを迎えた。
扉を潜ると正面に広いエントランスホールが広がっていた。
中央の階段を上り大きな扉の前に立った。
扉が開くと、正面の奥に玉座があり、ブリキの王が座っていた。
隣にはブリキの女王が立っていた。
ライアンは王の前に膝をついたので、しじみと鎧も真似て膝をついた。王は口を開いた。
「見回りご苦労だった。ところでそこの二人は何者かね」
「旅の者みたいです」
「旅の者とな。ライアンが気に居るならば良い者たちなのだろう何処からきたのかね」
王の質問にしじみは答えた
「私はしじみって言います、こちらは鎧さん。実は別の世界から来たのです」
「別の世界?それはまた珍妙な事を言う」
「彼女の言っていることは恐らく本当です。なぜならブリキットを全く知りませんでしたから」
ライアンが言った。王は髭を撫でた。
「なるほどそれは確かに別の世界から来た可能性はあるな。してこの世界に何をしに来たのかい?」
「えっと、それは私も分からないんです。ただ七日間この世界に居ればいいみたいなんですけど」
「七日か。なら王宮に寝泊まりするといい。広いだけで部屋は余っているからな」
「そんな、申し訳ないですよ」
「構わん構わん。遠慮はするな。ライアンもこの城を根城にしとるのじゃ。遠慮せずライアンの隣の部屋で七日過ごすがよい」
有無を言わさぬ一言だった。結局しじみ達は王宮に寝泊まりすることになった。