四十九日を超えて
しじみが目を開けるとそこは砂の上だった。
どうやらまたサーカスのテントに戻ってきたらしい。
鎧とライオネル、道化師も側にいた。
「さあしじみちゃん儀式の最後っすよ。『本』を掲げてください」
「……私は儀式を放棄します」
しじみの言葉に道化師はお道化て答えた。
「ここまで来たのに辞めちゃうんですか?ほんとに良いんですか?」
「はい、私は儀式をやめます。今まで出会った人たちに酷い目にあってほしくないから、だからやめます」
しじみの答えに鎧は炎を纏い言った。
「しじみ……そうはさせません。貴方には儀式を完遂してもらいます」
「鎧さん……どうしてもやめてくれないんだね……ライオネルさん!私に力を貸してください!
「おうよ、俺はお前の子分だからな。なんでもいう事聞いてやるぜ。それに鎧には借りがあるからなぁ」
「ライオネル……貴方如きが本気の私に勝てるとでも?」
「勝つさ今度はな」
鎧とライオネルはお互いに構えて対峙した。
双方一気に距離を詰め間合いに入った。
ライオネルの右拳と鎧の左拳がぶつかり合い、衝撃波が発生ししじみが吹き飛ばされたが道化師が受け止めた。
鎧の手刀を躱しライオネルは拳を叩き込んだ。
ライオネルの蹴りを回避し鎧は手刀でライオネルを穿った。
拳と手刀、蹴りとが交差し嵐を生んだ。
そして双方距離を取った。鎧は炎を纏い、ライオネルは稲妻を纏いそれぞれ放った。
稲妻と炎が激突し上方へと渦巻き天幕を焼き飛ばした。
そしてしじみは炎に飛び込んだ。
鎧もライオネルも道化師も驚愕した。
しじみは炎に包まれた。鎧が掛けよった。
「しじみ!何故こんなバカな事を!」
「私が死なないと鎧さんは止まらないと思って……」
「馬鹿な事を!私は貴方に生きていてほしくて」
「ごめんね鎧さん。メアさんこれで儀式は失敗ですよね……?」
「ええ、しじみちゃんが死んでしまったら儀式は終わりです」
「そっか……良かった。ライオネルさん……道連れにしてごめんなさい」
「気にするな。俺はどうせ既に一度死んだ身よ。それにお前の子分だからな。死ぬときもついていくさ」
ライオネルはカラカラと笑いながら言った。
しじみは鎧にの瞳を向いた。
「……最初に死んだときは、こんなに怖く無かったのに、今は凄く怖よ。本当は死にたくない。……死にたくないよ……」
二月しじみは皮肉にもようやく自分の望みを自身で理解した。
彼女は生を渇望していたのだ。
しかし炎は無情にも燃え上がり、しじみは焼けて、絶命した。
ライオネルは霧の様に消えて行った。
残ったのは炎を抱いた鎧と道化師だけだった。
道化師はくるりと回って言った。
「これで二人きりになっちゃったっすね」
「……私はどうすればよかったのだ。これからどうすればいいのか……」
「それは分かりませんよ。そういうのは自分で決めるんですよ。彼女の様にね」
そう言うと宙をくるりと回って、道化師は消えた。
血の様に赤い空の元、そこには魔神だけが残った。
二月しじみはマンションの屋上に居た。
金網越しに下を眺めた。下には小さく人々が歩いているのが見えた。
自分はなぜこんな所に居るのだろう。
階段に戻り、学校へ向かった。
学校へ向かう途中、山岸少年に会った。しじみは手を上げた。
「おはよう、山岸君!」
「……おう」
そう言うと山岸少年は足早にかけて行った。
しじみも歩みを進めた。
なぜか心に勇気の炎がともっていた。
人生はまだまだ長い。
これから何が起ころうとも歩き続けることをしじみは決心した。
「これで良かったんですか?」
道化師はくるりと宙がえりをして言った。
「あぁ、これで良かったんだ」
鎧は答えた。次の瞬間、鎧と道化師は霞の様に消えて行った。




