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レイリア姫

「帝国を潰すことに私が賛同すると思っているの?」

「別に賛同して貰わなくても構わないさ。俺たちは勝手に行くだけだ」

「ふぅん・・・。力が無い。アーデルだけが強いだけの状況でよくそんなに強がりが言えたわね。あなた自身が力無いことを分かっているの?」

「分かってる。だから、強くなる。これから強くなる」

 強い決意からスカーレットと旅することを決めたんだ。なら、強くならなくてどうする? この体の元の持ち主は強かった。この闘技場で無敗と言われるほどに。

 だけど、世界では分からない。だったら簡単だ。今以上に強くなればいい。

「言葉だけではなく結果で見せなさい」

 レイリアは一瞬で俺との距離を詰めると、攻撃に打って出る。

「がはっ! 速すぎだろ。どうなってるんだよ」

「魔力による肉体強化。それを極限まで鍛えれば、私のようにか弱くても、ここまで強くなれるのよ」

「魔力? そんなチート技聞いたことないぞ」

「武芸会で最強を誇っていたあなたならと思ったけど、期待外れのようね」

 レイリアは再び攻勢に出ようとするが、スカーレットによって攻撃は阻止される。

「妾の前で主様への狼藉を許すと思うか?」

「思わないわ。けど、アーデルも考えるべきよ。彼がやろうとしていることの無謀さを。分かっているの? 帝国に楯突く存在はたくさんいる。

 けど、誰もがそれを成し遂げられていない。なぜなら、帝国が強大過ぎるから」

「帝国が強いのはよく知っている。なら、妾が戦えばいいだけだ」

「アーデルが戦って勝ってどうなるの?」

「何?」

「恐らくアーデルが命を賭して戦えば帝国を落とせるかもしれないわね。けど、その後にどうするの? 彼が王として君臨しても力が伴わない。

 そうなった時に竜王はどうするかしら?」

「・・・この世界を滅ぼす」

 スカーレットの言う通り、力が無い者が支配者になれば竜王は滅ぼしに来るだろう。現時点では、帝国の王と4人の息子によって手出しをさせない状況になっているだけ。

 その均衡が崩れたらどうなるのか・・・。

「自分勝手な理由でこの国の人々を巻き込むことを許しはしません。個人の都合で世界を征服していいはずが無いのです」

「・・・そうだな。けど、お前はこの世界の全てが正しいって思うのか?」

「どういうことですか?」

「俺は、この世界についてよく分からない。けど、この体の持ち主であるグレンの記憶が教えてくれている。世界が歪んでいるなことを」

「何を言っているのかサッパリ分かりません」

「奴隷と貴族。その関係が正しいのかって聞いてるんだよ」

「・・・正しいのかどうかと言えば分かりません。ですが、この世界の人間ではないあなたに何が分かるのですか?」

「気付いてたのか?」

「恐らくはといった感じでしたが。やはりそうでしたか。グレンとは違った雰囲気を感じていました。身体はそうでも中は違うのだろうなと。

 なら余計にこの世界に関わることを止めなさい。あなたは部外者なのだから」

 重く鋭い一撃が再び俺を襲い始める。この世界の住人でない俺が出しゃばること自体が間違い。確かにそうだな。この世界のことを知らないのに俺が何かをしようってのがいけない。俺はこのまま死んだ方がいいんだろう。

「止めろと言っている!」

「くっ・・・! なぜ邪魔をするのですか! あなたも分かるはずです。彼はこの世界の―――」

「知っている。知っているさ。主様がこの世界の住人では無いことを」

「なら、なぜ!」

「妾がこの世界に呼んだんだ。主様に会いたい一心で」

「な、何を言って・・・」

「妾のことを強く想い、片時も忘れないそんな主様。誰が好かずにいられる? 誰が恋をするなと言える? そう思って強く願い続けたことで叶った。

 主様は妾の夫となる男。ならば、主様のために戦うこともいとわない!」

「狂ってる・・・。狂っています! そんな愛だの恋だので国を滅ぼそうというのですか!? それに巻き込まれる国民はどうなるというのですか!!」

「奴隷と貴族という括りで国民を別けている国が何を言っている!」

「なっ!?」

「国民を想うのならなぜ貴族と奴隷なんていう制度を取っているんだ? なぜ、自由を夢見る若者が出てくるんだ?

 このグレンという男も自由を夢見た若者だったんじゃないのか!?」

「・・・うるさい。うるさいうるさいうるさいーーー!!」

 突然の怒りに俺とスカーレットは驚く。さっきまで冷静だったのにグレンの名前を出したら冷静さを失った?

「グレンの何が分かるというのですか? 突然、グレンとは違う人間になったと言われて私はどうすればいいのですか?

 私が―――私がどれだけグレンを愛していたのかも知らずにグレンを語らないで下さい!!」

「そんなにもグレンのことが・・・」

「そうです。愛していました。最初はただの奴隷として見ていただけでしたが、少しずつ惹かれていった自分がいたのです。

 だけど、身分が大きく違う。だからこそ、この武芸会で優勝して欲しかった。なのに・・・」

「武芸会か。本当にそれでグレンとやらが自由になるのか?」

「本当です。この大会は由緒正しい大会なのですから」

「ならば聞くが、グレンとやらはこの大会にいつから参加しているのだ? フィリアスという貴族が本当にあのグレンを解放するとは思えないがな」

「何を事実にそんなことを言っているのですか!?」

「グレンが完全無敗だからだよ」

「それがどうし―――」

「見世物としては素晴らしいと思わないか?」

 見世物。実際に奴隷であるグレンが戦う様子を観客が見てどう思うのか。恐らく、笑っている。奴隷がどれだけ努力をしても這い上がれないことを知っているから。

 だから、その努力を見て観客は笑ってるんだ。その結果、グレンの試合は観客数が桁違いになっている。

「ほらどうした? 反論してみたらどうだ? お前も気付いていたんだろう? この世界は残酷だということを。

 どれだけ取り繕っても無駄だ。世界は腐ってる」

「だからどうしたと言うのです!! 私が愛したグレンはもういない・・・」

「グレンは生きている」

「何を根拠に!」

「主様とグレンが入れ替わっただけならば、生きている。この世界にいるグレンが消えて主様だけが来るなんてことはあり得ない。

 だからこそ、生きているのだ」

 スカーレットの言葉に最初は信じられないといった表情をしていたレイリアは徐々に頭を働かせて答えにたどり着き、スカーレットの言葉の意味を知る。

 消えたと思われたグレンが生きている。その事実でレイリアは泣き崩れてしまった。

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