竜王女と眷属は世界を征服する
「よし! 言いたいことは言ってやった!」
「妾は恥ずかしい・・・」
「まぁ、可愛いのは本当だからいいじゃん」
「主様にそう言われるのは嬉しいけど」
「あー・・・イチャイチャしてるところ悪いんだけど、逃げた方がいいかも」
「どうして?」
「帝国の兵が来ちゃうから。・・・もう遅かったか」
ガシャガシャと鎧の音が無数にする。周りを物騒な兵士が取り囲んでしまった。なんだこいつら。いや、帝国の兵とか言ってたか。
「姫様。迎えに来ました。その奴隷どもから離れて下さい」
「え? 姫?」
「言うの忘れてたわね。私の名前はレイリア=ニヴルヘイム。現帝国の王の娘なの。よろしくね」
「マジかよ・・・」
「それで? これはどういうつもりなのかしら? 帝国兵をこんなに引き連れて何をするつもり?」
「竜王女を捕えよとの王からの命令です。国にとって大きな力になるとの見方だと思われます」
「なるほど。兵器として竜王女を支配しようということね」
「はい」
「父上らしいわね。けど、それだけは私が許さないわ」
「し、しかし、姫様、王の命令は絶対です。それを破るなど」
「そうねぇ・・・無理に連れて行っても竜の力によって帝国に多大なる被害が出る。それは国にとって大きな損害となる。とでも言えば大丈夫でしょう」
「は、はぁ・・・」
「とにかく、私はこの娘を兵器として使おうなどということは一切認めません」
「・・・王の命令にはこうもありました。抵抗や阻止しようとする者がいる場合は、いかなる者でも断罪に処してもよいと。
すいませんが姫様。竜王女を守るというのであれば、戦わせて頂きます」
「私と戦う? たかだか少将如きが私と? あなたこの軍に入ってどれくらい?」
「3年と少しですが」
「なるほど。知らないってことね。通りで父上が無理そうな命令をするはずだわ。きっと学ばせたかったのかしら」
「戦闘態勢に入った状態での隙は命取りですよ」
帝国兵の一人がレイリアに斬りかかる。考え事をしていたので、隙だらけだ。このままだと斬りつけられる・・・!
「大丈夫だ、主様。あやつはあんな程度は死なない」
「え?」
竜王女の言う通り、レイリアにその剣が当たることは無かった。それどころか斬りつけられた瞬間に横から思い切り殴っていた。
「おいおい。姫って言う割に脳筋仕様な感じだな」
「失礼ね。私はこれでもか弱い乙女なのよ」
「どこがだよ・・・。あの兵士、闘技場の壁まで思い切り吹っ飛んでじゃねぇか。しかも、後ろにいた兵士全員を巻き込んで」
「最近の兵士は鍛え方が足りないみたいね」
そういう問題では無い現状に俺は唖然とするしか無かった。あまりにも強力な一撃。どうなってるんだよ。
「ガハハハ!! さすがは姫様。我が弟子の無礼お許し下さい」
「あら、バスクード大将も来てたの? なら、何で止めなかったのよ」
「いえ、少しは本当の強さという物に触れさせてやりたいと思いましてな。姫様の力をお借りしたという訳です」
「相変わらず意地悪いわね」
「いえいえ。これも師として必要な事なのですよ。己を律することを知ることも必要なのです」
「バスクードらしいわ」
大柄な男が兵士の中から現れてレイリアと談笑を始めた。凄い威圧感のおっさんだな。かなり強いと予想した。
「主様の予想通り。あの男はかなり強い。あやつほどではないが、秘めた力を見るに同等ぐらいと思ってもいいだろう」
「そんなになのか」
「なるほど。こちらのお嬢さんが竜王女ですか。このような可愛いお嬢さんを兵器にするのは確かにいただけませんな。
分かりました。私から姫の伝言通り報告しておきましょう」
「助かるわ」
「こちらも姫に迷惑を掛けた身ですのでこれぐらいは当然のことです。さぁ、行くぞ! 帝国に帰還だ」
バスクードと呼ばれた男は帝国の兵を引き連れてこの場を後にした。壁に飛ばされた兵だけがその場に残っている。こいつも連れて帰ってやれよ・・・。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫でしょう。かなり力加減をしたから死んでるなんてことはないはずよ」
「はずなのか」
倒れていた兵が呻き声をあげた。良かった。命はちゃんとあるな。
「くっ・・・。まさか姫様がこれほどの力を持っているとは思いませんでした」
「姫だからって温室育ちだと思った? 帝国の王である父上の子どもたち―――私を含めて5人の兄弟は帝国でも屈指の実力者なのよ」
「そんなになのか?」
「ええ。兄達はみんな国を治めているけれど、一人で1つの国の兵力と戦えるわ。私は弱い方よ」
「国レベルの強さかよ」
「まぁ、竜王女に掛かれば世界を滅ぼすことも出来るでしょうけど」
「妾は世界なんか滅ぼさないぞ。理由が無いからな」
「うーん・・・うーん・・・」
「主様どうした? トイレか?」
「いや、違う。ってかよくそんなネタ知ってるな。なぁ、帝国は兵器を手に入れたいみたいだけど、何でなんだ?」
「・・・竜に対抗するため」
「竜? 竜王女以外にもいるのか?」
「ええ。私たち帝国が支配している世界の外側にはまだ見たことが無い世界が広がっている。少しずつ領土を拡大しているけれど、時間が掛かっているの。
そして、外側―――外界の支配者は竜王なのよ」
「竜王? ん? こちらは?」
「竜王女」
「外界の支配者は?」
「竜王」
「・・・つまり、この竜王女は相当偉いってこと?」
「そう言ってるじゃない」
「マジ?」
「マジだぞ主様。妾の上には竜王がいるだけだからな」
「そうだったのか・・・。うーん・・・」
「主様どうした?」
「うし! 俺は、その竜王って奴に会いに行かないといけなくなった」
「はぁ!? 意味が分かってるの? 竜王は外界を支配する支配者。つまり、私たち人類では太刀打ち出来ない存在なのよ。
だからこそ、竜王に勝てる兵器を模索しているの。分かる?」
「その前提が間違ってるんだって。向こうは外界の支配者。だったら、こっちも偉い身分なら話し合いでも出来るんじゃね?」
「偉い身分なら話し合いって・・・」
「妾がいるからそれほどの身分なら話し合いは出来るだろう」
「それほどまでに会って何をしたいの?」
「竜王女を下さいって。要するに結婚を認めて下さい的な?」
「竜と人間の結婚!? 何もかもが前代未聞だわ。それで? どれだけの身分になって話し合いに臨む気なの?」
「そりゃ、もちろん、帝国の支配者」
この日から俺と竜王女の旅が始まった。竜王女と結婚するために! 俺は、この世界を征服する!
「竜王女―――いや、アーデルハイト=スカーレット。俺は、君の眷属となって世界を征服する。そして、いつか隣に並び立てるようになる。
だから、俺と旅をしてくれますか?」
「喜んで」