もう一人のグレン
どこにでもいる高校生が売りの俺。家に帰ってから課題を終わらせてハマっているソシャゲに没頭する。最近始めたソシャゲが異様に面白くて毎日やっている。
「昔やってたオンゲって感じがして面白いんだよなー。時間掛ければ強くなるから学生にとって有利になるのもいいよな」
パソコン版も展開されているので、快適にやれるパソコン版で動画を見ながらやる。なんて至福の時間だ。勉強も終わっているからこそ、この時間があるな。
「レアドロップ率悪すぎだろ。何戦もやってるのに1個も落ちない・・・。はぁ、このキャラが欲しくてずっとやってるのに。
どうすれば出るんだ?」
最高レアリティであるSSRのキャラは基本的にガチャのみだけでの入手手段だが、ゲーム内のイベントで特定のアイテムを集めることで手に入れることも出来る。
そして、イベントオンリーだった入手手段が恒常になったのはいいんだが・・・。1ヵ月以上やってるのに一切アイテムが落ちない。
「ドロップ率悪いとか運が悪いとかレベルじゃないだろ。むしろ未実装レベルなの疑うわ。けど、SNS上だとアイテムは手に入れた報告があるから本当なんだろうけど。
いつになったらこの竜王女は手に入れることが出来るんだろう。このキャラが実装されたからやり始めたのにな」
今日もひたすらにクエストを周回し続ける。やってもやっても出ないアイテム。いつしかクリア回数が5桁を超えて6桁になりそうだった。
「やば。俺どんだけこのクエストクリアしたんだよ。キャラ欲し過ぎでしょ。まぁ、可愛いし綺麗なキャラだから当然か。
他の友達に聞いてもこのキャラ見たことがないって人が多いけど」
このゲームをやっている学校の友達やSNS上の友達に聞いてもこのキャラを図鑑で見たことが無いと言う。確かにキャラ数が異常なまでに多いこのゲームだったら知らないキャラもいる。
けど、最初期に実装されていたはずのこのキャラを見たことが無いなんてことあるのかな。
「早く手に入れたいな・・・」
俺は、クエストを周回しながら考え事をする。だが、学校での疲れもあって次第に眠気が襲ってくる。今日も出ないのかな・・・。
「あ、アイテムが・・・出た・・・」
そこで、俺の意識は途切れた。眠気に勝てなかった。まぁ、明日やればいいだけだしいいか。目的のアイテムは手に入ったしな。
『アイテムの入手を確認しました。本ゲームプログロムの裏コードから該当の鍵を発動。ゲートへのアクセスを確認。オールクリア。ゲート開放します。
それでは、よい旅を。Good Luck!』
「―――い!」
なんだ? うるさいなー。目覚ましも鳴ってないからまだ起きる時間じゃねぇだろ。もう少し寝かせてくれよ。
「おい! 起きろ!」
「うわ!」
思い切り蹴られて俺は叩き起きた。何が起きた? 親だったらこんな起こし方絶対にしないはずだ。そう思って周りと見渡すと、知らない部屋で知らないオッサンがいた。
「あ、あんた誰だ?」
「あぁ? お前のお目付け役だろうが。急に忘れるなんてボケたか?」
「あ、いや、そういう訳じゃないんだが」
「ふん。だったら支度しな。今日はお前の100勝目を賭けた大事な試合だ。負けるんじゃねぇぞ! 俺は何だかんだ言って応援してるんだからよ」
「あ、ありがとう」
何が何やら分からないまま防具のような物を付けられて武器を握っている。何がどうなってるんだ? 俺は昨日、ゲームをやりながら寝たはずだ。それなのに急に知らない場所にいる。
試合だっけか。何の試合なんだ? この防具と武器から良くない試合だってことは分かるが・・・。
「行ってこい! 完全無敗の男 グレン! 今日の相手はカインって奴だが、ド素人だ。戦闘経験の差を見せてやってこい!」
「グレン・・・? 俺の名前は紅 煉でグレンじゃないんだが・・・。それに、カイン? どこか聞いたことがある名前だ。けど、思い出せない」
全てが謎に包まれたまま、俺は闘技場の舞台へと出た。周囲には満員の観客がいて、怒号、声援など様々な声が発せられている。
うるせぇ。一体何人いるんだ?
『さて、お集りの皆様。本日のメインがやってまいりました! 先に舞台へと立ったのは、完全無敗を誇る武芸会のニュースター、グレン!
彼が武芸会へと参加したのはおよそ1年前になります。それから彼の躍進は留まることを知りませんでした! 何と! 今まで、全ての試合を勝ってきたのです!
運? イカサマ? 八百長? ノンノン! 武芸会ではそんな物を使用することは死を意味します! つまり、彼の実力なのです!
そして、今宵、その無敗のルーキーに挑むのは、武芸会初参戦のカイン! 大丈夫か~? 大丈夫なのか~!? グレンを相手にこのカインがどんな戦いをするのか楽しみにしましょう!!』
「凄いアナウンスだな」
「ま、まさか、グレン・・・なのか!?」
「そう・・・呼ばれてる、な」
「呼ばれてる? いや、間違いない。その顔は間違いなくグレン! 死んだとばかり思ってた・・・」
「死んだ? どういうことだ・・・」
何もかもが意味が分からない。この状況を説明してくれるゲーム案内人をくれ!
「すまない! 審判、彼は知り合いで彼のために武芸会に参加したんだ。そして、彼は生きていた。だから、この試合を中止してくれ」
カインって人が審判に試合の中止を申し込みに行った。どうやら、このグレンって人のためにカインって人は戦いに参加したのか。良い人じゃん。
「ならないな~。中止にはならない」
「フィリアス・・・」
「ククク・・・。これだけの観客を集めた興行をどうして中止にすることが出来る? 君たち友達同士には戦って貰わなければならない。
それこそが面白いのだから」
「フィリアスーーー!!」
「おいおい。何が何やらだけどよ。別に戦いたくないって両者が言ってるんだから中止でいいんじゃないのか?」
「グレン・・・」
俺は、思わずカインの手助けをしてしまう。仕方ないよねー。戦いなんて俺もしたくないんだから。
「剣闘士として才能を見出した男が情けない・・・。戦わないと言うのであれば、両方とも死んでもらうことになるな」
「何?」
「おい、あれを出せ」
「はっ!」
フィリアスという男の側近が近くのレバーを倒す。すると、闘技場にある扉の一つが開いた。
何が出てくるんだ? 俺たちが殺されるほどの怪物・・・ってとこか。
「あ、あれは・・・キマイラ!」
「キマイラ?」
「合成獣と呼ばれる人工の獣。様々な動物を掛け合わせてある恐ろしい生物だよ」
「その通り。カインくんは博学だねー。君たちには、キマイラと戦って貰う」
『おおーっと! 武芸会での闘いを断った者に与えられる罰。それが初めて披露された! まさか、キマイラだったとは!
俺は死にたくないから審判席に戻りまーす!』
審判の言葉が終わると同時にキマイラは襲ってくる。上半身はライオン、下半身は馬、尻尾はサソリの尻尾ってところか。
こんな化物と戦えるか! 俺は逃げ惑いながらカインの様子を伺う。カインは俺をジッと見ると笑顔になった。
どういうことだ? とりあえず、この状況を何とかしてくれーーー!!