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竜王女と眷属は世界を征服する  作者: 花千烈風
始まりの始まり
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プロローグ

何が望みだ?


何も


何を欲する?


何も


何になりたい?


・・・


もう一度問う。何になりたい?


英雄


ふん。ようやく貴様自身を見れたか。面白い。ならば這い上がってこい。地の底から全てを手にしてみろ。そうすれば、お前も英雄になれる。


 俺の意識はそこで途切れた。真っ暗な空間から真っ白な空間へと投げ出された俺は、全てを悟った。俺は、強さを手に出来る。


「働け!奴隷が何かを望むな!貴様らは主人であるフィリアス様の温情で生きているのだ!分かったら働け!」


看守の怒号が飛び交う。常に監視された場所。

劣悪な環境。自由はなく、希望もない。ただ、生きることには困らない環境。

奴隷として日々を過ごしていく中で、俺は外の世界への憧れを持つ。


「カイン。外の世界って見たくないか?」

「見てみたいよ。けど、グレン、この城から抜け出すなんて不可能だよ」

「抜け出す?バカ言うな。正攻法でここから出る方法があるだろ」

「正攻法?まさか…!ダメだ!その方法だけは絶対にダメ!」

「けど、これぐらいしかないだろ」

「だからって・・・。武芸会に出るなんて死ににいくようなもんだ!」

 世界から武芸に精通した人達による大会。殺しもありの大会。

 そこで優勝すれば何でも願いが叶うとされている。

「大丈夫だって。俺だって鍛えてきてるんだ。喧嘩の強さならカインも知ってるだろ?」

「奴隷の中でもずば抜けて強いのは確かだけど・・・。負けたら死ぬようなもんなんだよ!」

「じゃあ、俺たちはここで死ぬまで奴隷でいてもいいのか?」

「そうじゃ・・・ない・・・けど・・・」

「自由も何も無い奴隷の生活。生きるだけならこのままでもいいと思う。けど、俺は抗いたい。俺が俺であるために意志を貫きたいんだ」

「・・・そこまで固い意志ならもう止めないよ。けど、これだけは約束して欲しい」

「約束?」

「必ず生きて帰ってくるって」

「もちろんだ!」

 グレンとカインは互いの約束を結ぶと、握手を交わす。カインはグレンが必ず勝つことを信じて送り出す。それが親友として出来ることだから。


「嘘だ!」

「嘘じゃあないよ。カインくんにはとてもとても残念な報せだけどねー」

「そんな・・・」

「そんな落ち込むことはないよ。彼も望んだことなんだから、さ。さぁ、頑張って労働に励んでくれたまえ」

「グレン・・・。約束したじゃないか・・・」

 主人であるフィリアスから告げられる残酷な真実。それは、カインの心を打ち砕く。世界に神なんていない。いるのは全てを支配する帝国とその奴隷。

「グレンが・・・死んだなんて・・・」

「いつまでそうしている! 奴隷番号102316番! 労働の時間はもう過ぎているぞ! さっさと労働に準じないか」

「・・・はい」

 力なく項垂れるカインを見送りながらフィリアスは外の窓の景色を眺める。これが、絶対的強者の光景だと改めて実感しながら、ふと思い付く。悪魔のような考えを。

「あ、そうだ。カインくん。君に一つ提案があるんだが」

「提案・・・ですか?」

「そうだ。主人である私がアドバイスなんてしないのだけどね。落ち込んでいる君を見ていたらどうしてもアドバイスをしたくなったんだよ。

 君も武芸会に出る気は無いかい?」

「・・・ッ! グレンが死んだ大会に出ろって言うんですか?」

「その通り。君もいい線までイケると思うんだよねー。どうだい?」

「グレンでダメだったんだ。出てもすぐに死ぬだけです・・・」

「まぁ、その可能性もあるだろうね。けど、物は考えようだよ。武芸会で優勝すれば、何でも望みが叶う。それは、人の生死すらも」

「グレンも生き返るんですか!?」

「ああ。過去にも死んだ人間を生き返らせることを望んだ人間はいた。そして、実際に生き返ったんだ! どうだい? 君も参加したくなっただろう?」

「・・・参加します」

「いい返事だ! さっそく手続きしよう。君は自室に戻って英気を養うといいよ」

 カインは自室に戻るため、フィリアスの部屋を後にした。そして、残った看守がフィリアスに問う。

「フィリアス様いいんですか? あんな温情のような提案をされて」

「ん~? まぁ、いいんじゃない? たまには奴隷にも希望を与えないと」

「なるほど。しかし、カイン如きが武芸会で勝ち上がれるとは到底思えませんな」

「僕も同じ考えだよ」

「そうなのですか!?」

「ああ。彼は勝ち上がることは出来ない。それどころか初戦で全てを知ることになるだろうね」

「全て、ですか?」

「武芸会がなんなのか。大きな大きな闇を知るのさ。考えただけでゾクゾクするよ」

 歓喜で身をよじらせながらフィリアスは恍惚な表情を浮かべる。看守はその様子を見ながら冷や汗を流していた。

 奴隷の主人は総じて、人間としてのネジが10個も20個も外れたような人物。そう教わっていた。だが、実際に見てみると分かる。

 自分の快楽のために他者を使うことに何も迷わない姿。化物だ。

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