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8/13

映画と米とセロリと

作者活動縮小中につき、感想の返信が遅くなります。申し訳ありませんが、お願い致します。

 ある日、家で夫とアクション映画を観ていた。

 私は映画を観ながら、あれやこれや感想を語ったり、話の展開を予想するのが好きなので、喋りながら観る。

 しかし、夫はこれをすごく嫌がるのだ。静かに作品を観賞したいのと、時折私が予測した伏線の回収が当たったりするのでとても気になるという。


 こういうときは、私が折れる。しゃべりたくてウズウズするも、映画が面白いことには変わりないから、結局集中して観ることになるだけだからだ。ここで夫に我慢させると、彼は映画を楽しめなくなる。それはとても不本意だ。


 他にも、私はアジアン料理が好きで夫は苦手、私は動物好きで夫は苦手。また、夫はヒューマン系や感動系の映画やドラマが好きで私は苦手、夫はゲーム好きで私は苦手(意識がある)、など。

 だから私はアジアン料理は友達と一緒に食べるし、動物園で触れあえるウサギやモルモットコーナーは私が子供に付き合うし、映画はお互い好きなアクション系を観るし、ゲームはストーリー性があるものを選んでくれるので私は見ていて楽しい。


 折れることができる側が譲歩する。相手に一方的に我慢させない。自分が好きなものを相手に強要させない。

 他人だった私たちは、付き合ってから今に至るまで、たくさん話をして受け入れてきた。


 私と夫のなれそめは、友達の紹介というごく普通の出会いだった。当時の年齢もあって結婚前提に付き合いが始まったのだが、最初から生活を共にすることを踏まえていたのでたくさん互いの話をしていた。


 私はまず行動してから考えたり、喜怒哀楽の感情につられやすい、直情的なタイプだ。対して夫はじっくり考えてから慎重に行動に移し、常に冷静に物事を捉えることができる。

 彼と付き合ってから、私は感情をむき出しにすることを控えた。どんな正論も感情の前には意味をなさない、と彼に言われたことが堪えたからだ。私の周りに感情を全面に押し出す人がいて、私はその人が苦手なのである。その人と同じだと気付かされ、ぞっとしたのだ。


 それからは、夫との会話でカッと怒りに頭が熱くなっても、まずは落ち着いて心の中で考えるようになった。苛立った理由を思い返し、それが自分のわがままである場合は短気を反省する。相手側の非であるのがわかった場合は、責め立てるような文句は使わず、その言葉を言われて不快に思った事実のみを伝える。

 付き合ってから10年近く経ち、少しずつ改善されているように思う。


 話は変わるが、私の祖父母は米農家だった。今は自分達が食べる分しか作っていないが、以前は毎年農協に卸していた。十年以上前に米が不作でタイ米まで流通したときも、古米や古古米で凌いだ。


 夫と結婚した当初、彼に買い物を頼んだところ、とある大型ディスカウントショップでとても安価な米を買ってきた。5キロで1000円切っていた! と、とても嬉しそうに。

 嫌な予感がした。

 炊飯器で炊いて、その予感は当たりだとすぐにわかった。匂いが良くない。食べてみてすぐに箸を置いた。どうしても口に合わない。具合も悪くなってきた。しかし夫は特に気にするふうもない。まあ安いだけあるか、と呟くだけ。

 

 食後、私は彼に静かに願い出た。

 私は米農家の祖父母の元、ブランド米じゃないけど美味しいお米を食べて育ってきた。今日のごはんはどうしても体が受け付けない。お願いだから、今度からは一般的な価格の普通の米を買ってほしい、と。

 夫は私の迫力に圧倒されたのか、次からはそうすると約束してくれた。


 それなのに、数年後、彼はまたも同じ轍を踏んだのである!


 今度は大型スーパーで、品種不明の安価な米を買ってきたのだ。案の定、味はイマイチ。彼の言い分は、スーパーで売ってるから大丈夫かと思って、とのこと。

 一回目は私も夫も知らなかったのだからしょうがない。しかし二回目はもう許さぬ。私は激怒した。

 買う場所が問題じゃないの! 適正価格で買ってって言ったじゃん! どうしてあれだけ言っても同じような米を買うの! 前回真剣に冷静にお願いした私の気持ちをどうしてくれるの!


 たかが米、されど米。怒り狂いながら、自分が日本人であることを強く実感する私だった。


 夫は平謝りし、責任を持って原因となった米を全て自分で食べると宣言して実行した。私と子供は実家の両親がふるさと納税で手にいれたあるブランド米をたまたまもらっていたので、それを食べることにした。とても美味しかった。


 この米騒動は今でも笑い話として、夫婦の間で語り草になっている。それ以降夫はスーパーの米コーナーで、この米ならいい? と神妙に尋ねてくるのが恒例となるほどに。


 これら夫とのやり取りでつくづく思い知らされたのは、もともと赤の他人同士が一緒にいることを選んだのだから、そこには価値観や常識の差異があって当然だということだ。そこを少し頑張って埋めたり、まあそんなもんかと納得してみたりするのは、双方の努力と相手を大切に思う心があるからこそ。


 ふと、有名シンガーソングライターや国民的アイドルグループが歌った名曲を思い出す。

 夏が苦手でも、セロリが好物でも、いいのだ。

 何故ならそれは簡単なことで、そう、あなたが好きだから。なんちゃって。

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