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絵葉書を集める理由

※追記!

すみません、この話だけは「のんびり」「まったり」ではありません。

宮里の心の暗い激情を淡々と綴っています。

私は時折絵葉書を買う。


最初のきっかけは小学生の頃、友達と映画を観に行った時のこと。記念にパンフレットやグッズを買いたかったのだが、お小遣いが足りなかった。

しょんぼりした私の目に止まったのが、映画のポスターを印刷したポストカード。

安価で手頃なサイズのそれは、以降映画を観るたび、旅行に行くたびに増えていくこととなる。


趣味と言えるほど集めてはいないのだが、それでももう100枚は越えただろうか。

それらを見返すと、当時どんな状況だったか事細かに思い浮かぶ。



(どこで?)

ベルリンの美術館島、ミュンヘンのマリエン広場、ザルツブルクのモーツァルトの生家、ウィーンのシェーンブルン宮殿、オアフ島のアラモアナショッピングセンター、ニューカレドニアのバナナボート、札幌のテレビ塔、平泉の金色堂、益子の陶芸教室、横浜のランドマーク、伊豆のテディベアミュージアム、名古屋の犬山城、京都の嵐山、大阪の通天閣、広島の宮島、徳島の鳴門海峡、香川のうどん、愛媛の道後温泉、長崎のハウステンボス、沖縄のスキューバダイビング……


(時間は?)

青空、黄昏、曇天、雨雲、朝焼け、星空、吹雪、雷雲……


(誰と?)

一人、家族、友達、恋人、仲間……


(どうやって?)

吟味したり、直感だったり、信念があって、何の気なしに……


(気持ちは?)

歓喜、興奮、幸福、静謐、悲哀、憤怒、郷愁……



時に鮮やかに、時に残酷に、それらは私を誘う。

もう二度と戻ることのできない、様々な輝きを閉じ込めた過去へ。


しかし途中から、ある目的のために絵葉書を集めるようになった。

葉書とは、そもそも誰かに便りを出すもの。

ただ眺めているだけでは、葉書は仕事を成していない。


私には生涯忘れることができない人物が二人いる。


一人には、深い深い愛情と憎悪を抱き。

一人には、心からの尊敬と軽蔑を覚え。


皮肉なことに、彼らの存在が私の創作活動の原点になっている。

彼らとの蜜月から背信に至る全てが、今の「私」という人間を作り上げたと言っても過言ではない。その影響力の凄まじさたるや。


だからこそ、彼らに対するアンビバレントは、私の胸の奥底に今も巣食う。

時折それは暗い澱から泡となり、ぷかりと緩慢に浮かび、ぱちんと無情に割れる。

優しい伴侶やかわいい子がいても、信頼できる友や仲間がいても、充実した時間や趣味も、何も関係ない。

その時だけは、声にならない叫びを上げ、目に見えない血の涙を流し、笑顔で静かに絶望の淵に沈む。


そう、私は二人に手紙を書くため、絵葉書を求めている。

彼らに相応しい絵葉書を追い求めているのだ。


もちろん、本当に葉書を送付するわけではない。

分別があるからではなく、幸せな家庭を築いている今の彼らに何の感慨もないから。

私が未消化な思いを寄せているのは、当時の彼らだから。


きっと探し当てた暁には、ありったけの感情を込めて、呪詛のような愛を書き連ねるだろう。

しかし出す当てのない恋文の行方は、私にもわからない。


これが、誰にも話したことのない、私が絵葉書を集める理由である。


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