ファッション迷子
服装に悩んできた人生だった。
子供の頃、少女趣味の母親からフリルたくさんのワンピースやスカートやら、赤いギンガムチェックのシャツやらを与えられ、素直に着ていた。
その反動か、小学校高学年からはスポーティーなものやモノトーンのものばかり選ぶようになり。
中学高校は一日の大半を制服で過ごしていたので、それ以外はジャージのようなゆるい服装で犬の散歩に行くくらい。
さて困ったのが大学生になったときだ。
私服通学ということは、服だけでなく鞄も靴も自由。付属の高校に通っていたので、大学には知り合いばかり。
入学前の春休み、雑誌を買い漁り、今時の大学生のトレンドを学び、お小遣いで買える服屋に駆け込み、何とか一週間分の服を揃えた。
おかげで周囲から浮かずに済んで、大学生活にも慣れたある日、キャンパス内で高校時代のとある友人に出会った。
「蒔灯、そのワンピースとカーディガン似合ってる! やっぱり大学生になると服装の趣味も変わるんだね」
お世辞を言わないことで知られる友人に誉められて照れる私は、その後に続く言葉に衝撃を受ける。
「高校生のとき、休みの日に遊ぶ約束したら、蒔灯、全身茶色の服で現れたことあったじゃん。あれはひどかったよね、本当」
この率直な友人の言葉も相まって、ファッション迷子(造語)の日々が始まった。
(ちなみに、茶系の服は最近まで避けていた。もはやトラウマである。)
男性受けを狙って淡色の花柄ワンピースを着たかと思えば、ナチュラル思考の女友達に影響されて麻のシャツを選んだり、古着に手を出して玄人ぶったり、カジュアルを極めたTシャツとジーンズだったり、レイヤードに凝ったり、背伸びしたOL風コーデだったり……。
恋人の好みに合わせた時期もあった。友達のセンスを真似した時期もあった。
しかしどうにもしっくりこない。
この服を本当に着こなせているのだろうか。自分は本当にこの服が好きなのだろうか。服に着られていないか。常に自問自答していた。
社会人になっても、ファッション迷子は定住の地を見つけることはできなかった。
職場は都会にあり、オシャレな街をいくつも通り過ぎる。野暮ったくならず、かといって気張って見えないような服は何だ? 何を着たらいい? ますます混乱した。
ただ、どうやら自分はシンプルな服装、落ち着いた色を好むことはわかった。だが、好みの色と服が自分に似合うかというと、それはまた別の話で。
くすんだ色や濃い色が好きだが、色白の肌には重たくなってしまうと言われてしまった。
反対に、色白の肌だからパステルカラーが合うと言われても、好みではないので気乗りせず。
結局無難にまとめては歯がゆく思う日々を繰り返し、今に至る。
ああ、ファッション迷子はどこへ行く。
さ迷い、流れ、惑い、その行き着く先は。