【詩】真夜中の作業
【詩】「真夜中の作業」
真夜中の台所で、林檎の皮を剥く
ただ一心に、ただ無心に
新鮮な林檎の食感が嫌いだという男がいた
それは私の昔の男
真夜中の台所に、林檎の皮が溜まる
赤く、長く、細く、途切れずに
煮た林檎なら食べられるという男がいた
それは私の昔の男
真夜中の台所で、林檎の皮が剥けた
赤から白へ、一つの玉から二つの半球へ
その一つは、小さく切る
愛する我が子たちの口に入る大きさに
もう一つは、柔らかく煮る
私の昔の男であり、愛する夫のために
真夜中の台所で、林檎の皮を剥く
それは愛しい作業、それは甘やかな時間
◇ ◆ ◇
【解説】「日常の描写をドラマチックに」
皆が寝静まった真夜中、子供の離乳食を作っていたときにふと思い浮かんだフレーズ「真夜中の台所で、林檎の皮を剥く」。
そこから、林檎が苦手な夫が思い浮かびました。
夫は、林檎の味は好きでも食感が苦手なのです。歯に当たるカシュカシュ(?)した食感に、背筋がゾワゾワするらしく。アップルパイや林檎ジャムは好きだと、結婚前の恋人だった頃に聞きました。
恋人といえば、以前ある友人の結婚式に参列したとき、披露宴の終盤で唐突に男性司会者が新郎宛ての祝いの手紙を読み出したのです。新郎の美点から直してほしい癖まで事細かに書かれたその手紙の送り主は、なんと「新郎の元・彼女」。
友人である新婦は怪訝そうに眉を寄せ、新郎はおどおどと挙動不審。会場が騒然とする中、涼しい顔で男性司会者が締めくくります。
「新郎の元・彼女、兼、現・妻の新婦より」と。
新婦のしてやったりといった顔と、新郎のあからさまな安堵の表情が忘れられません。あれはなかなか悪い冗談だったと、友人たちの間でも今でも語り草となっています。
そんな連想で生まれた、真夜中の詩でした。
私や子供たちは林檎大好きです。