第四話 こんにちわ 異世界
読んでくれている人がいて、ちょっと嬉しいですヽ(;▽;)ノ
感謝です。
俺 平田平太 は人間である。
正確には二日前まで、身も心も人間だった。
俺は某町で小さなケーキ屋を営む、しがない個人事業者だ。25歳で店を立ち上げ、今だって好きだからやれているだけで懐は常に寂しい状態、店も繁盛店とはとてもいえない。朝も早いし夜も遅い。身入りが自分に跳ね返ってくるだけマシだけどブラック企業だって真っ青だ。
それでも、顔なじみだってそれなりにできて、俺の作ったチーズケーキを「美味しかったです」なんて言ってくれるお客様もいる。両親や妹の理解もやっと得られるくらいには商売の軌道も乗ったし商店街の皆とも仲良くやれてた。
そう貧しいながらも、俺は幸せだった。
―― 二日前まで。
『蠅に転生させられる覚えないんですけどぉぉ?!』
誰か説明しろや、おい。
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まず、ここは異世界である。
『いやいやご冗談を』と俺も最初は夢や妄想だ、と笑っていたが、あっさりとそんな考えは否定された。
なにしろ、ゴブリンだのコボルド、オーガにミノタウロス諸々と俺の知る限りのファンタジー的な怪物達が、今この瞬間も周りにウヨウヨいて、「俺が」そのモンスター達から、名前も知らない美少女を守っているのだからね。
―冗談では、ない。
俺にとって異世界初接近遭遇は、牛の頭を持つ半人 ミノタウロスだった。
『あー、ファンタジー世界なら当然いるよね』
そいつが少女の身体を乱暴に持ち上げようとした
その瞬間まで、俺の感想はそれくらいだった。
だって仕方ないだろう?まだ夢だと思ってたんだから。
ついでに俺の体当たりはすごいの知ってたからね、余裕ぶっこいてたんです。
…で、俺は一回死にかけた。
なぜって黒尽くめをやっつけた時の超絶チートが消え去っていたから、である。その時の俺の心境を察していただきたい。とんだ詐欺である。ただ有難い事に幾つかのチートが残っていた事で、なんとかこの二日間、俺は生き残り、少女を守りきる事ができた。
ついでに今おきている事が現実なのだと思い知った。
今現在、俺が把握している自分の能力は2つ
ひとつは、目測およそ最大時速80Kmで飛翔可能で、更に物理法則に一切縛られないというチート。簡単に言えば重力等の影響を全く受けずに、80kmの速度で縦横無尽自由自在に飛び回る事ができる。これだけでも相当凄いチートだとは思うんだが、体感で一分も全力で飛べないし、俺以外の物体や生物には重力無視等のバフ・デバフが付かないという弱点がある。つまり飛んでさえいればどんな攻撃を受けてもほぼ無傷だけど、足が止まれば防御力なんて無いに等しいって事だ。
初遭遇したミノタウロスに全力で体当たりして、こっちの身体が衝撃で潰れかけたのも今は昔、である。
ふたつめは、虫を「召喚して使役」する力。俺がイメージした事柄に対してもっとも適切な虫が召喚される。それも一匹とかいうレベルじゃなく無限に思える数を呼べる。ただ俺が蠅という事もあって、特にイメージしなければ蠅が無数に出現する。召喚に応じた虫達は基本、俺が、なにを、どうしたいか?を頭の中でイメージするだけで、それに適した行動をしてくれる。とってもシステマチックだ。
おかげで初遭遇したミノタウロスに手も足も出ず、今まさに少女が傷つけられようとした瞬間 ―
『やめろ!その娘を殺すな!ちくしょう、誰か、誰かたすけてくれ!』と俺が願ったその刹那―
ミノタウロスの顔が黒い靄に包まれ、その靄 ―蠅たちが― が晴れた時には、ミノタウロスの顔はこの世から綺麗サッパリ無くなっていた。
そういう訳で、この力が俺の持つ唯一の攻撃手段である。当然、この能力も制限があって、まず召喚する場合は俺の体力が一気に持っていかれる。数に比例しているのだが、蠅100匹くらいなら全く疲れないが、モンスターを倒すためには大抵の場合でも20000匹以上は必要になる為、一体倒すだけでも俺はヘロヘロになってしまう。ちょっと休めばすぐに体力は回復するが、この魔境でオチオチ休んでいられないのは非常に痛い。
なにしろ、モンスター達の襲撃が止む気配が全くない。
既にまる二日、ずっと戦闘しっぱなしだ。
もはや自分が何体モンスターを殺したか分からない。身体は兎も角、精神的にギブアップ寸前だ。ブラック企業だってもうちっとマシだろう。
もし神様がいて、わざわざ俺をこんな姿で、こんな場所に転生させたのだとしたら、マジでぶん殴りたい。なんで平成の日本から、突然こんな血生臭い異界に放り込まれなきゃいけないんだ。例えそこは譲ったとしても普通はもっと安全な場所から転生人生スタートじゃないのかよ?今の状況、どう見ても死地だぞ、おい。聞こえたら、なにか言えよ、神様!
目の前に転がる、頭を無くしたオークの死体に俺は毒づくと地面にペタリと腰を下ろした。ちなみに蠅の身体ではあるが、中身は人間=俺である為、仕草はほぼ人間に近い。虫に腰やお尻といった区別があるか俺は知らないが、傍からみれば蠅の被り物を着た人間に見えるだろう。
『…あとどれだけ倒せばいいんだろう?』
俺はチラリと、二日前と変わらず眠りつづける女の子に目を向ける。
今、少女は俺が召喚した蠅に包まれミノムシ状態だ。流石に裸のまま寝かせておくわけにもいかないし、いざという時に蠅達で敵を攻撃できるので、倫理的にちょっと気が引けたが、少女には我慢して貰うしかない。まぁ意識がないのだから、知らぬが仏という事にしてもらおう。
しかし、綺麗な子だ。歳は外国人だから分かりにくいが、たぶん十代半ばだろう。美しい顔立ちに、あまり日に当たっていないのか肌は粉雪のようにきめ細やかで真っ白。髪は金髪よりのプラチナブロンドで、この異様な空間にあってもキラキラと輝いている。女神とか天使って言葉は彼女の為にあるんじゃないだろうか?こんな場所でなければ、ずっと見蕩れていたかもしれない。
それはともかく―
『…はぁ、どうしよう…』
そう。どうしよう、なのである。
何故か?
実のところ「俺は」今まで倒してきたモンスターに敵対された事は一度もない。モンスター達からすれば俺から一方的に戦闘を仕掛けられている状態だ。つまり、俺は此処から逃げようと思えば実は簡単にできる、と思う。ただそれを実行に移せない理由が彼女だ。
モンスター達の狙いが彼女―
少女を執拗に殺害しようと襲ってくるからだ。
理由は分からない。とにかくコンタクトすらままならず、彼女の姿を確認したが最後、問答無用で襲いかかってくる。俺があっちで戦い終わったと思えば、次の襲撃者が彼女に近づいている。みたいな酷いルーチンワークに陥っているのが今の現状だ。俺だけなら、確かに此処から逃げ出せるかもしれない。かと言って、俺がいなくなれば殺される事が分かっている小さな女の子ひとり、こんな場所に放置するなど、俺が、俺を許せない。そうなると、なんとかこの最低なループから抜け出したいのだが…
『…あれ…?もしかして…できる?』
思考の中に落ちかけて気がつかなかったが、さっき倒したオークの襲撃から大分時間が経つ。が、次の襲撃者が一向に現れる気配はない。おいおい、逆に今しかチャンスはなさそうだぞ。
『来い!虫達!』
俺の召喚が即座に発動する。発動と同時に仄暗い湿った大地が蓮の実の様にブツブツと隆起し、そこから無数の「オケラ」が顔を出す。そして俺の命令を実行に移すべく一気にその大地を変形させてゆく。
とにかく、今は安全に身を隠せる場所の確保さえできれば良い。あとはその時考えれば良いのだ。俺はオケラ達にイメージを渡し終わると、即座に少女の元へ移動する。
『今から逃げるからな、大丈夫だ』
意識のない彼女に、なんとなしに声をかけつつ蠅達に命令を出す。ミノムシ状態で横たわっていた彼女の身体が本当のミノムシのように蠅達によって空中に釣り上げられる。
『くっ・・・』
一度に召喚した数が多すぎたのか、乗り物に悪酔いしたような目眩がしてくるが此処が踏ん張りどころだ。頑張れ、俺。
俺はミノムシ少女の先導に立つと、オケラ達の元へ舞い戻る。そこには既に俺がイメージした通りの「モノ」が出来上がっていた。
『うん、完璧じゃん!』
俺の足元には地上からおよそ5m下、20m平米の正方形の穴が出来上がっていた。俺は即座に少女をその穴に下ろすと、俺自身も穴の中に入り、其処で仕上げの召喚を行う為、イメージを練り上げる。が、その瞬間、スゥと目の前が昏くなり意識が遠くなる。慌てて意識を無理やり引き戻したが、もう体力の限界が近そうだ。くそ、もうちょっとだ。もうちょっと持ってくれ。
『頼む、埋めてくれ!』
俺が呼んだのは蜘蛛だ。細かい種類まで俺は知らない。ただ昔読んだ昆虫図鑑に「ある蜘蛛の糸は象すら持ち上げる力があるんだ」みたいな事を書いてあったのを覚えていただけだ。朦朧とする意識の中、上空が真っ白に染められていく。蜘蛛達が一斉に糸を吐き出し始め、俺と少女を包み隠してゆく。
その光景はなんていうか ― 綺麗だった。
そして俺は意識を手放した。
☆☆☆
魔樹の森
そこは強大な魔力渦巻く人界ならざる魔境
魔王の本拠地であり魔物達の王国
だがしかし 今 ― 魔王はいない。
読んで頂いてありがとうございます。また次話もよろしくお願いします。
…妄想だけはたっぷりあるんだけどなぁ…話をつなぐのが難しいです