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第三話 俺 蠅になる

知らなんだ…一般的には何話かまとめて書いてから投稿し始めるのだという事を…

投稿遅くてすみません…



俺は ― 夢を見ていた。


薄気味の悪い森の中、

地べたに仰向けに寝かせられた美少女がひとり ― なぜか素っ裸! ― と、

その傍に怪しげな出で立ちの黒頭巾が三人。


どう見ても刑事案件的な匂いのするそんな場面。

それを遥か上空から、ぼんやりと俺は観ていた。


「 … 寝る前に警察24時みてたから、かな?」


確か ― そうだ。

リビングでコーラ片手に一杯やりながら、ボケっとテレビを観ていた所までは記憶にある。


で、その先が…さっぱり記憶にない。つまり俺は、リビングで寝てしまったという事か。寝落ちは良くある出来事だけど、こんなにハッキリと意識があるのに寝ている、という状態は生まれて初めてで、ちょっと感動もんだ。だが、それはそれ。俺はこの居眠りから一刻も早く目覚めて、本来の自分の寝床に改めて潜り込まねばならない。何故ならこのままだと別の問題が色々とあるからだ。例えばうたた寝を母さんに怒られてしまうー、とか明日のミーティングで居眠りしそうだー、とかである。


だが、まあ ― 不思議な夢だ。


意識は、さっきも言ったがハッキリとある。

これが覚醒夢という奴なのか、不思議な感覚だ。何か自分がふわふわと浮かんでいるような感じで、所在が定まらない。夢の中で夢を観ているような感覚。ただ移動しようとしても、そこから微塵も移動する事ができない。まるでその場所に縫い付けられたような感じだ。


しかし、この状況に甘んじてはいられない。

俺は朝寝坊をしない為にも一刻も早く寝床に行かなければならない。だから、はやく起きろ、俺。


俺が、俺自身を夢の中から必死に起こそうとしていると、夢の状況に変化が起こり始めた。


今まで棒立ちだった黒頭巾達が、ジリジリと少女に近づき始めたのだ。


ああ、嫌な予感しかしない。

なんだよ、わざわざ夢で見せるな、こんなもん。


そもそもこの設定はないだろう。金髪美少女に悪党三人。見事にお約束な展開がお膳立てされてるじゃないか。なんなら、あそこへ俺が颯爽と飛び出して少女を助け出せば完璧だ!


…って、俺、もうすぐ30だぞ。

いやファンタジーとか大好きだけどさ、もうそろそろ卒業したっていいじゃない?



漠然とそんな事を考えているうちに、ふと気がついた。

俺の視線と男達の視線が噛み合っている事に。


…あれ?

ついさっきまでこの現場を上空から俯瞰していた筈なのに、気がつけば俺は今、黒頭巾達の眼前に移動してる。まるで瞬間移動だ。映画のシーンがパパッと切り替わる感じ。


そうして今、俺の前には黒頭巾、背後に美少女。どうせなら美少女を見せてくれ。


まあ夢だ。理屈で考えても仕方ない。



さて黒頭巾達だが、やはり全員が男だ。

黒一色で統一された、あれは所謂レザーアーマーってやつだろう軽鎧で全身を覆っている。体格も三人が三人共大きく凄く強そうだ。ちょっと格好良い。俺の普段着のよれよれ黒ジャージ姿とは月とスッポンだ。


ただ、その頭巾はない。センスゼロではないか。まあ野盗みたいだから、それはそれでTPOに合っているんだろうが、せめてスカーフで口元を隠すくらいでいいのに。で、次に武器。

三人が三人とも右手に西洋風の剣 ― あれはなんて言ったか、TVゲームの知識でいえばショートソードか ― を右手に持ち、俺にその物騒なモノを向けている。ぶっちゃけやめてほしい。


夢でも怖い。



彼らはゆっくりとその刃を、俺の眼前で振り上げる。


『なるほど。彼女を殺す気なのかこいつ等。』


俺の存在はこの夢において、まあ黒子や観客みたいなもんだろう。という事は俺の背後で静かに眠っている美少女に、こいつらはその物騒なモノをふり下ろそうとしている、という訳だ。


いや、やめて。


白馬の王子は登場しないの、この夢?

俺の予想とはちょっと違うけど、殺すって酷いだろ。俺の夢なんだけど、誰か止めてくんないかな。というか起きろて、俺。


俺の願い虚しく、男達の剣が此方に振り下ろされる。


あちゃぁ、スプラッタな場面まで見せられたら、夢でも明日憂鬱になるの確定だぞ。おい。


俺が悶々としている間も、どんどん三つの凶器が俺に、いや正確には俺の真後ろにある少女へ、迫ってくる。中々の迫力だ。これが現実なら確実に漏らす自信がある。


おいおい、もう剣先が俺の目と鼻の先だぞ。

このあと起こるであろう結果を想像すると、夢とはいえ平静ではいられない。つか早く起きろって、俺!




次の瞬間 ―


「痛ったぁぁぁぁ?!」


凄まじい痛みと衝撃が俺を襲う。訳の分からないまま、俺は地面へと叩きつけられる。


口の中に 妙にリアルな血の味が 拡がっていく。


ぐ…な、んで?

これは…俺が…斬られた?


状況が把握できずに混乱したまま、俺は男達へと視線を向ける。男達は剣を振り抜いた格好のまま、此方を伺っていた。まるで彫像になったかのように、じっと動かず、ただ ― 俺を凝視していた。


男達の視線と俺の視線が再びぶつかり合う。その時、俺は初めて気がついた。彼らの眼に怯えがあるのを。理屈ではなく、そこにあるのは間違いなく恐怖、だと俺は直感で悟った。


彼等は、俺を恐れている、のだ。


でも…なぜ?

しがないおっさんひとり、何を怖がる必要があるというのだろう。むしろ夢でも痛かったり、夢の登場人物達に真剣に怖がられるこの意味不明な状況に、俺が怖いよ。とそこまで考え…


あ、身体。


夢と解っていたからスッカリ後回しになっていたが、大人に剣でぶった切られたのだ。夢とは言え心配になってくる。俺の身体、大丈夫なの?


俺は今更ながら、自分の身体を確かめる。




「ん?…お、おぉ?!」


俺は慌てて立ち上がり、自分の身体を見下ろす。


…視界の中に一匹の蠅がいた。



どういう理屈か、俺は頭の天辺からつま先までそいつの全身を見る事ができた。それが夢であるからなのか昆虫特有の複眼のおかげなのか分からない。ただ馬鹿でかい蠅が其処にいた。


というか ― その蠅が 俺だった。


正確には蠅みたいな何か、だ。

全長はスマホサイズ、十センチくらい。某仮面ヒーローよろしく赤々と輝く大きな目ん玉。顔の両端まで大きく裂けた口とそこから見える二本の牙。口角からは、昆虫らしからぬ真っ赤な血が流れ出ている。身体のほうもあちこち出血してる。普通に重傷だ、と思う。


ただ ― 痛みがない。

斬られた一瞬だけは超痛かったが、不思議な事に今は全然痛くない。


なんにせよ、この強面な顔以外は俺の知っている蠅と同じ姿みたいだけど、サイズといい光る複眼や裂けた獣口といい、すくなくとも俺の知る「まともな」蠅の姿ではない。


つか、自分が蠅になる夢とかキモいんだが?




「おい!魔力は消えた筈なのにまだ生きてるぞ?!」


男のひとりが悲鳴に近い声で叫ぶ。


「うるさい!分かっているだろう、こいつにさっきまでの魔力はない。今なら俺達でも殺せる。グズグズするな!」


男達が何やらもめている。


ああ、そうか。

この人ら、俺を退治しようとしていたのか。女の子を襲う暴漢、じゃなく化物(俺)から少女を助けようとしている場面なんだな、これ。


なんだ、てっきりオジサン変な想像してたよ。

ハハハ、最初から言ってくれよ、悪いな、君たち。


でもどうしよう、今まで蚊帳の外だと思っていたのに突然登場人物のひとりになっちゃったぞ。こんな姿でどうしろっていうんだ。夢だって殺されるのは嫌なんだが?


「大丈夫、もう殺気すら感じない。今なら確実に仕留められる!あの小娘諸共も消し炭にして、この仕事は終わりだ!」




…え、なんて言った…?


殺す?

少女も殺す、確かにそう言った?


「はやく殺せ!」


勘違いじゃ ― ない。

この男は少女を殺すと言っている。


ここが夢の世界だと分かっていても、男の言葉に自分の心が急速に冷えていくのがわかる。同時に夢の住人である男達へ殺意が湧き上がる。夢の中だからなのか自分の感情に制御が効かない。怒りが、殺意がどこまでも膨れ上がる。止められない。



俺は、俺の心の思うまま、ゆっくり「俺の身体」を浮かび上がらせる。


いい加減にしろよ、お前ら。

夢の中だろうと、なんであろうと、小さな娘を殺そうとするんじゃねぇよ。


俺の蠅の身体が、今度は明確な意思を持って男達と対峙する。先程まで息巻いていた男達が、俺が動き出した事で再び硬直する。



ああ、ここは俺の夢。俺の世界だ。

だったら 俺の好きにしても、いいよな?


だから ― 俺は、お前ら 殺すよ。


そう思ったのが早いか、俺の身体はまるで弾丸のように飛び出し、まず一番手前にいた男の胸板を容易く、拍子抜けするほどあっさり簡単に貫いた。そのまま勢いを殺さず森の木よりも高く俺は上昇する。眼下には、残りふたり。


身体にまとわりつく血が煩わしい。

俺はその血糊を振り払うように、眼下の敵めがけて速度を上げ降下していく。


飛翔する俺に向けて、突如空間に現れた稲妻が俺に襲いかかってくるが、俺のこの身体はバレルロールに似た動きによって、その全てを尽く躱していく。その高速機動についてこれない男の元に辿りつくと、俺は俺の身体の本能、それの望むまま男の頚動脈に牙を突きたて、動脈を無造作に切り裂いた。男の首から盛大に血が吹き上がる。


よほど恐ろしかったのか、最後に残った男は狂ったような叫びをあげその場から逃げ出していた。




「…ふぅ」


まぁ逃げた奴を追う必要はない、よな?


相手が夢の住人だったしても、あまり気分のいい出来事じゃない。というか、強すぎ、俺。なに一撃とか。蠅の体当たりで人が殺せる訳ないのに、さすがは夢だ。


というか夢の中だったから良いけど、人殺しとかリアルだったらマジで吐くからね、俺。


俺は、未だ何も知らず昏昏と眠りつづける少女の胸の上に舞い降りると「どうでもいいけど寝すぎだよ、いいかげん起きてくれ」と思いつつ、自分が眠りから覚める事を待つ事にしたのであった。


☆☆☆



俺が人殺しをしてから、二日が経過した。


正確に時間を知る事はできないが太陽が二度登っては沈んでいるのだから、二日くらい経過したのだろう。


で、この二日間で分かった事が、ある。


母さん、俺 蠅に転生しました。



よければまた次の話も読んでください。ありがとうございました。

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