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62、廻魔ノ刀

 じわじわと肌を侵食するような凄まじい熱気と、一定の間隔で鼓膜を叩く豪快な金属音。

 鉄と鉄が溶け合って、混ざり合い、ひとつの形を象ってく様子が直に感じられる。


 現在、俺は鍛冶屋にて作業の見学をしていた。

 グレッダさんとの打ち合わせが終わると刀の構想を練り終えたグレッダさんは、それはもう興奮していた。

 こんなに考え抜かれた精密な武器は見たことがねぇ! と。

 製法を一から説明していく中で異世界独自のいろいろな鍛冶理論を取り入れることができ、俺の方も大変満足している。


 え? 何故俺が刀の作り方を知っているのかって?

 まあ、それはたまたま知る機会があったとしか言いようがないね。

 ふふふ。俺だって秘密のひとつやふたつあるさ。


 ちなみにアリスは孤児院にいる。

 ついて来たがっていたのだけど子供達から遊び相手として求められていることもあり、俺が背中を押すと今回は別行動をすることに決めたようだ。

 やっぱり、あと数日でここを離れるので思い出は残せるだけ残しておきたいという気持ちがあるんだろうね。

 うんうん。俺も思い出作りは大切だと思うよ。


 それにしても、鍛冶作業って初めて生で見るけど、これはなかなかに迫力があるね。


「……鉄って、こんなに簡単に曲がるものなんですか?」


「まあ、素人ならこうはいかねぇだろうなぁ。長年の修業あってこその業よぉ」


 勢いよく金づちを振り下ろしながらグレッダさんは息ひとつ乱さずに会話する。

 この人にとっては軽いウォーミングアップみたいなものらしい。


「鍛冶スキルLV6でしたっけ。どのくらい続ければそこまで辿りつけるんでしょうか」


「種族や才能にもよるが、俺はざっと二十年ってとこだなぁ」


 ちなみに俺のスキルリストには鍛冶スキルはない。

 ということは、上位スキルもしくはユニークスキルということになる。


 レベル表記もあるし流石にユニークスキルってことはないだろから、なにかの上位スキルなのだろう。

 気になるのでそれとなく聞いてみる。


「そういえば、鍛冶スキルは上位変化のスキルだと聞いたような……なんのスキルの上位変化でしたっけ」


「おぅ、そりゃ金工スキルだなぁ。いやー、その名前を聞くと昔の修業時代を思い出すぜぇ」


 へー。


『金工:必要SP150』






 木工スキルの件で驚くべき性能を持っていることが判明した生産スキルだけど、レベル1だと流石に心許ない。

 かといって急に高レベルにすると、明らかな鍛冶初心者の俺がプロ並の腕を持っていることを不審がられる。

 だから普通に熟練度を稼いでいこうと思う。

 一度スキルを取れば勇者補正もあってレベルを上げるのは難しくないからね。


 そしてなにより……今、SPカツカツだし。

 ドラグキマイラの魔石というとんでもない量のMPを秘めたアイテムをこの間入手した。

 けれどこれは切り札としてとっておきたいので今は空間収納に保管してある。

 そういう事情であまりやたらめったらスキルを取るわけにはいかないんだ。

 ……まあ、そういってる割には最近自重してない気もするけど。


 さて、チートによって鍛冶技術を習得した俺は、グレッダさんに手伝いを申し出た。

 最初は、鍛冶を嘗めるんじゃないと軽率な申し出を戒めるように憤りながらやらせてくれたグレッダさんだったけど、俺が的確な助手をしていく内にその顔は驚愕をあらわにしていた。


 俺の方も様々なスキルを駆使してグレッダさんの考えを読み取りながらなるべく効率よく手伝っていたせいか、この短時間で金工スキルがレベル2に上がった。

うーん、今思えば鍛冶と金工って若干違うような気がするのだけど、鍛冶をやっていて金工スキルが上がるってことは、スキル的にはその括りに含まれるのかな?

 まあ、都合がいいので別に文句はないけど。


「……なぁ、本当に弟子にはならねぇのか?」


「すみません、俺は旅人ですので一カ所に留まることはできないんです」


「そうかぁ……。あんたは才能の塊だと思ったんだけどなぁ」


 途中でかなり真剣にグレッダさんが弟子に勧誘してきたので、丁重にお断りしておいた。

 偶然スキル構成がよかっただけで、自分に鍛冶士の才能があるとは思ってkないし、なにより今言ったようにひとつの場所へ拘束されると観光ができなくなってしまうからね。


「火属性魔法さらに魔力操作で温度調節もお手の物ってかぁ。手放すには惜しい人材だが、仕方ねぇなぁ。ま、気が向いたら考えてみてくれ」


 と、こんな感じで作業を続けていき、そろそろ本番に入るところ。

 さっきまでのは細かい部分の型を作る作業だったらしく、今から刀を打ちはじめるんだって。


「よし! ここからは根性がいるからなぁ! しっかりついてこいよぉ!」


「はい、親方」


 そこからの作業は、猛烈と言えるほどに忙しかった。


 火属性魔法と氷属性魔法を使った強引なたたらによる玉鋼作り、空間魔法まで応用したミリ単位の調整、鍛錬は思考加速を使うほど高速で行い、心金と刃金の接着には高度な魔力操作で異世界独自の方法を使用した。


 暗い作業場で一千度近くまで熱せられた鋼がオレンジ色を超えて白い輝きを放つ。

 熱気が立ち込め、じっとしていると肌が焼け落ちてしまいそうだ。

 でも、鋼は休むことを許してはくれない。

 予測演算と並列演算を常時発動して最適行動をし続けるので、脳までもが焼き切れそうになる。

 まさに鬼のような作業量だった。


 本当は日本刀ってもっと時間をかけて作るものなんだけど、この分じゃ五時間もかからずに終わってしまいそうだ。

 素材が純粋な鉄だけじゃなくて魔力を通しやすい金属を使っているとかなんとかで、多少勝手が違うというのもあるのだろうけど……。

 やっぱりグレッダさんがヒートアップしすぎた結果俺の魔法で強引にやり始めたのが原因だと思う。

 まあ、俺も楽しかったからいいんだけどね。


「はは……。ちっと熱が入りすぎちまったなぁ」


 作業を終えてのグレッダさんの一言である。

 うん。俺も一回の作業だけで金工スキルが6まで上がるとは思ってなかったよ。

 熟練度だけで上げたスキルとしては最速なんじゃない?


「にしても、こりゃまたとんでもねぇ代物だぞぉ」


「ええ。俺も途中から紫色の輝きが混じり始めたところでおかしいとは思っていましたよ」


「鍛冶に革命が起こるかもしれねぇなぁ」


 苦節六時間。

 出来上がった刀は、なにやらただ者ではない雰囲気を醸し出している。

 作ってすぐだというのに、殺気とさえ感じられるほどの強烈な剣気が抜き身の刃から漏れ出て、決して侵しがたい神聖な武器だと直感した。


 真っ白な刀身を持つそれを、ゴクリと唾を飲んで解析してみる。


廻魔ノ刀かいまのかたな:レアリティ8

 混沌と調和の魔力を込めて作られた刀。純粋な魔力との親和性が高く、魔力を廻らせることにより威力が上昇する。魔力を馴染ませ、もう一度鍛錬することにより本来の力を解放していく』


「え………?」


 レ、レアリティ8……?

 えぇー……。


「これ、作ってもいいものだったんですか?」


「いや、まぁ……。作れちまったもんは仕方ねぇしなぁ」


 スキル基準だけど、レアリティ8と言ったら相当なレアで、普通に生活していればまずお目にかかれないものだ。

 魔力闘気がレアリティ6、MP変換がレアリティ10なのでちょうどその間といえば分かりやすいだろう。


 それにまだまだ超性能が隠れていそうな説明文だし、なにより武器に固有名がついているのがまず凄い。

 街中で見かける武器や、俺が以前使っていた剣は『鉄の剣』『木の槍』など簡素な命名が多かった。

 けれど、この刀は『廻魔ノ刀』というなんだか物々しい名前がついている。

 名前のついた武器なんてヘキサールの王城で見た聖剣エクスブレイドくらいだ。

 要するに、これは特別なスゴスゴ武器ってことかな。


「廻魔ノ刀かぁ……。こりゃ本格的に刀の製造を始めてもいいかもなぁ」


「この刀の名前が分かるんですか?」


「あぁ、鍛冶スキルを習得すると武器の鑑定ができるようになるんだぁ。ま、武器以外には効かねぇけどなぁ」


 ほうほう。解析スキルを持つ俺からしてみるとあまり魅力はないけれど、生産スキルには副次的な効果を持つものもあるんだね。

 ますます興味が湧いてきたよ。


「本当にいただいてもいいんですか?」


「もちろんだぁ。むしろその刀はあんた専用と言ってもいいほどに親和性が高い。いろいろとんでもねぇことになっちまったが、使わなけりゃ損ってもんだろうよぉ」


「そうですか、ありがとうございます」


 ということで、思わぬ事態からゲットできたこの刀。

 これからの旅の相棒になるであろうそれを、鞘に戻して腰に装着する。


 おお、侍っぽい。

 早速魔物で試し切りしてみたいなあ。


 お代は、予想外の破格の性能であったことを考慮して少し高めに渡しておいた。

 タダでいいと拒否するグレッダさんを無視して、半ば押し付けるように渡した。

 そういうところはきっちりしないと、後が怖いからね。



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