2、いや確かにラノベは好きだけどさぁ!
テンプレ。つまりテンプレートとは、物事の雛形や枠組みといったものを示す時に使われる言葉だ。
昨今の物語では、それを「ありきたりな展開」や「お約束な出来事」という意味でも使われている。
例えば、トラックに轢かれて転生したり、助けた馬車にお姫様が乗っていたり、冒険者ギルドでガラの悪い兄ちゃんに絡まれたけど圧倒的な力を見せつけて周囲から注目されたり、教室で光に包まれたと思ったら実はそれは勇者召喚で目の前にいた王女様に助けを乞われたり……。
とにかく人間の想像力は豊かすぎるだと思う。
だって、本当にこんなベタでお約束なテンプレ王道的勇者召喚をされるなんて16年間一度も思わなかったから。
あくまでファンタジーは俺の趣味であって、ファンタジー世界で生きろと言われても………ねえ。
しかもスタート地点からそれなりに悪い状況だと思う。
俺はさっき王女様が口を三日月型に歪めて悪そうな笑みを浮かべていたことに気づいていた。
えっと、これは呼び出した王国が実は悪い奴というパターンなのかな?
それはとてもマズい展開なわけだけど、ただ異世界召喚されただけというのも面白くない。
だからちょっとくらい思惑が絡んでいた方が、楽しさで言えばいい。かも。
でも、そんなのんきなことを考えていたのは俺だけだった。
突然変わった景色に困惑するクラスメートたち。
そしてそれは王女様からの言葉よって混乱へと変わった。
喧騒もほどほどに王女様がしゃべり出した。
その内容は………………カットする。
なぜなら、その内容というのはまるっきりテンプレなものだったから。
……まあこんな説明で分かるわけないので三行でまとめると、
人類の敵、魔王復活!
人類滅びるかも! やばい!
そうだ、勇者を召喚しよう! たすけて勇者えもーーん!!
あまりにもお約束過ぎる展開に軽く脱力してしまった。
いや、これは実際に起こっていることだしこんなことを言っても仕方がないのだけれど、やっぱり言わせてもらいたい。
もうちょっとひねりは入れられなかったのかな……例えばほら、その、魔王と交渉を試みてみるとか。
いきなり勇者に助けを求めるのは、短絡的といわざるをえない。
でもまあ、今の話は見たところかなり嘘の割合が多いっぽい。
今の話を最初から、それはもう懇切丁寧に話してくれたのは王女様だったのだけれど、そこはまあいい。
嘘をつくなら国全体でだろうから単に演技の上手い王女様を説明役に抜擢したのだと思う。
それでも、普通に見抜ける程度だったけど。
………そう。王女様は演技をしていた。
職業が女優とかっていう訳じゃなくて、現在進行形で。
例えば嘘泣きはすごく上手いんだけど、話の途中で不自然に何度も感極まったり変なところで抑揚をつけすぎるのは減点かな。
って、俺は何で演技の審査をしているんだろう。
やっぱりあの王女様の意味深な笑みは気のせいじゃなかったっぽいなー。
召喚された勇者がいいように利用される作品をいくつか知っている俺だから気づけたけどやっぱり他のみんなは気づけていないみたいで、戸惑いながらも王女様の話に耳を傾けている。
警戒しないんだろうなー。胃が痛いなー。
……あれ? その論法でいくとニヤニヤしながらチートだのハーレムだのいっている人たちは気づいていなきゃいけないのでは?
まあ、後で冷静になるかもしれないし今は放っておくしかない。
でもまあ、だれかに相談しようにもこんな状況じゃ余計な混乱を招くだけだし今は黙っておくしかない……かぁ。
はぁぁ………、どうしてこうなった……。
俺はこっそり胃薬を取り出して服薬した。