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24、邂逅からの戦闘

 薄暗いダンジョンの中で悠然とそこに存在する上層への階段。

 普通なら喜々として上っていくところだろうけど、今回は違う。


「ここは、俺が先に偵察に行ってくる。信介君には休憩を兼ねてここで先生の護衛を頼むよ」


「何かあったのか? 大方、気配察知があるお前にしか分からない事なんだろうが……」


「うん、階段を上ってすぐあたりのところに気になる気配を感じたから、一応確認のために」


 安心させるつもりで言ったけど、軽い口調に逆に不信感を感じたのか信介君の顔が曇る。

 というか今思ったけど、気配を感じるとか自然に使ってるよね、俺。これってかなりおかしくない?


「それなら、尚更俺も着いて行った方が良くないか? 相手に気付かれたとき、対処するなら一人より二人の方が良いだろ」


 気配察知があるとはいえ、相手の隠れ方が俺のスキルの効果の上を行っていれば不意打ちは回避できない。

 なのでそういうときのために二人以上で行動する方が安全だし、実際俺も普段であればそうする。

 でも、流石に今回はそうもいかない。


「そうなんだけど、信介君は疲労も溜まっているだろうし、先生を連れているとどうしても反応が遅くなるでしょう。最悪、俺でも対処出来なくなるかもしれないしね。だから、今回ばかりは俺一人の方が確実なんだ。ごめん」


「……先生のことを言われたら何も言い返せないな。分かった、今回は黙って待機するが、すぐ戻って来いよ。いつまでもお前一人に負担かけるのは、俺自身が許せないからな」


 背中の先生をゆっくりと降ろしながら信介君はそう言い、その場に腰を下ろした。

 それを見て俺は階段に向き直り、ひとつ息をついた。


 ーー覚悟は決まった。

 ーーはあ、行くしかないか…。


「じゃあ、ささっと行って戻って来るよ」


「おう、気をつけろよ!」


 俺の心中を知ってか知らずか、ニカッと笑って送り出してくれた。





 カツッ、カツッ


 硬質な足音が密閉された広いダンジョンに反響し、これから始まる出来事へのカウントダウンと化していた。


 やたらと広い空間。

 まるで洞窟を綺麗な正方形に切り抜いたように、そこは広かった。

 まるで中心に佇む人物を引き立たせるためだけに存在するかのような空間へと、俺は足を踏み入れた。


「……まさか、君が一人で来るとは」


「このパターンは想定外だったかな?」


 輝堂君は、待っていた。


 今、俺と輝堂君の距離は決して近くない。

 しかし、彼の覚悟を携えた瞳ははっきりと見ることができ、油断のないその姿勢は明らかな戦闘態勢だと分かった。

 

「他の二人はどうしたんだい? 返答によっては、僕が君を殺さなければならない」


 俺が一人で来ることが想定外だったと言うのは、上層げの崩落のあとゴブリンに全員殺されるか、ゴブリンを突破して三人でここに来ることを予想していたのだろう。

 俺が信介君と先生を犠牲にして一人だけ生き残る事を選択するのは、ないと判断されたみたいだ。

 ……殺すべきと判断した者に対する評価としては、随分易しいね。


「もしも三人でここに来ていたら、どうするつもりだったの?」


「もちろん、捕まえて魔王を倒すまで大人しくしていてもらうつもりだった」


 ……ん?


「えー……と、それは少し甘いんじゃないかな? 仮にも勇者だし、脱走してなにかしでかす可能性だってある、事情を最初から話す気がなかったのなら、殺すべきなんじゃないの?」


「……やはり、君は間違った人間のようだ。人を、それもクラスメートを殺す? そんなことは、絶対に許されない!! 二人を犠牲にした君には、分からないだろう! 僕は決死の覚悟でここにいる。シェルミラやヘルマンさんには、勇者が一人でも死ねば民衆の希望は失われ、恐怖に押し潰されて挙げ句国が滅ぶだろうと言われた。そして、力のない君達のことを公表する前に殺してくれと。だから、勇者の代表である僕が手荒な真似をしてでも力のない君達を説得し、魔王の脅威からみんなを救おうとしたんだ!」


 シェルミラ、ヘルマンと聞き覚えのない名前が……いや、王女様の名前がシェルミラだったっけ。

 ヘルマンはおそらく、輝堂君と話していた宰相とかその辺りだと思う。


 それにしても、とにかく矛盾が多すぎる。

 というか、言っていることがよく分からない。


 まず、殺人と輝堂君がこにいる理由は関係ないし。

 勝手に話をすり替えないで欲しい。

 それに、勇者が一人死ぬだけで国が滅ぶとか、いくらなんでもそんなことあるわけないじゃないか。

 簡単に騙されすぎでしょう。

 というかこんなことになる前に俺達に事情を話せば全部解決だったろうに……なんで気付かないのかなぁ。

 

「なのに君は僕のその覚悟を踏みにじった! 仲間殺しという勇者として、いや、人としての禁忌を犯した君には僕が罰を与えなければならない。僕もこんなことはしたくなかった……だが、これは仕方ないことなんだ。そう、僕が! 今、ここで! 君を殺す! 聖者の裁きを、その身に受けろ!」


 劇的にそう言い、豪華な装飾を施した鞘から美しい刀身の剣を抜く。

 それは、素人目から見ても、凄まじいと、そう思わせるほどの名剣だった。

 暗闇すらも引立て役となり、その動作は一層神々しく、流麗に見えた。


「聖剣エクスブレイド……君に裁きを与える正義の(つるぎ)の名だ。しかとその目に焼き付けておくといい」


 さっきから台詞がイタい……。

 輝堂君は天然で言っているんだろうけど。

 うん、こういうの、何て言うか知ってる。

 中二病っていうんだよね。


 まあ、シリアスな雰囲気のようだし、付き合うけど。


「正義、ね……。何の根拠もない情報に踊らされて、挙げ句こうしてクラスメートと争い合うのが輝堂君の正義だと、そう言いたい訳だね」


 思いっきり悪役だ。


「違う! 僕は人々を救うため、魔王をいち早く倒し、みんなでもとの世界に帰るために最善を尽くしている! もう全員で帰ることは叶わなくなってしまったが、ここで君を倒し、魔王の脅威から人々を救うことはできる!」


「何事も真っすぐに進むのは良いことだと思うけど、輝堂君は早とちりが過ぎるとも思うよ。俺は二人が死んだとは一言も言っていないし、そもそも本当に魔王は存在するの? 王国が勝手にそう言っているだけだよね? 一人で完結した気になって大切なものを見落としているんじゃないかな?」


「……どういうことだ………?」


 震える声で問い掛ける彼の目には、明らかな動揺が見て取れた。

 輝堂君は頭が悪い訳ではないので、今考えを巡らせているところだろう。

 察しの悪い彼のために、ここは結論を直球で言っておこうかな?


「だから……」


 王国は俺達を傀儡にしようとしている。

 そう俺が言いかけた、直後……!


 俺の背後から、二つの人影が襲い掛かってくる。


 それを間一髪でかわす。


ドガアアン!!!


 轟音を伴った衝撃が生まる。

 そこは先程まで俺が立っていた場所。

 直撃すればひとたまりもないだろう。


 すぐさま前方を確認する。

 人影は俺の誰何を待たずに声を上げた。

 ……まあ、正体は分かっていたのだけどね。


「そこまでにしてもらおうか。脳無しに余計なことを吹き込まれても困る」


「よぉう芦原……あの時のちょっとしたお返しのつもりだったんだが……避けるとか生意気なことしてんじゃねえよ!!!」


 現れたのは共にガタイのいい二人。

 騎士団長と、藤沢君だ。


 この階層に来るとき感じた気配は三つ。

 個人の特定はできなかったけど、ひとつの気配が部屋の中心に堂々と立ち、残り二つが隠れ忍ぶように部屋の隅で待機していたことで、一人と話している内に奇襲を仕掛けて来るんだということは何となく分かった。

 一人が輝堂君と分かったところで、残りは騎士団長ともう一人の協力者だと予想した。


 相手側は、輝堂君が一人に対しこちらが三人だと予測していたのにも関わらず自信ありげだったのも気になったしね。

 ……あれ? そういえば輝堂君の性格からしてこういう奇襲作戦は好まないと思うんだけど、そこのところどうなのかな?


 そんな俺の内心を読み取ったかのように、輝堂君は言った。


「言っただろう、最善を尽くすと。例え卑怯な手であっても、みんなを救うためなら僕は手段を選ばない。……君の言葉は僕の動揺を誘うにはいい手だった。でも、残念だったね。僕はそう簡単に惑わされないよ」


 むう、本当のことなんだけどなあ。

 そしてこれと同じような手を俺は決闘のとき使ったのだけれど、それを卑怯だと全否定されてしまった。

 地味に悲しい。


「うらああああああ!!」


 藤沢君がまず飛び出す。

 そしてそれが、戦闘開始の合図となった。


 正直、三人相手にまともな戦闘ができると思うほど自惚れてはいない。

 なので、基本的に逃げに徹する。


 っていうか、俺ってば多対一で逃げの戦闘ばかりしてるよね……。

 仮にも勇者なんだけど。

 でも、あの時と違うのは一回だけじゃなく逃げ切れるまで何度か攻撃を当てなければならないことだ。

 それに、命の保障もない。

 こんなふうに。


 刃渡りの長い藤沢君の剣をかわす。

 するとすぐさま騎士団長の突きが来る。


「はあっ!」


「っ!」


 ーー速っっ!!


 流石は騎士団長。

 ぎりぎりで避けたつもりだったけど、頬を浅く切られてしまった。

 傷から血が伝い、冷や汗も頬を伝う。


 ーーいや、止まってはいられない……!


 騎士団長の追撃。

 これはかわす余裕がなく、剣で弾く。

 二撃目、三撃目と的確に騎士団長は攻撃を仕掛けて来る。


 下からの切り上げを強引に押さえ付け、つばぜり合いになる前に後ろに下がる。

 突きに対しては予備動作を見て体を捻って回避。

 接近戦で徐々に追い詰められていく。


 俺の剣術スキルのレベルは5。

 訓練で死ぬ気で頑張った結果だ。

 対して騎士団長は……。


名前:グレナド・グレゴール 年齢:36 種族:人族 LV:22 

HP:762/762 MP:142/142

筋力:724 耐久:630 魔攻:96 魔防:217 敏捷:312

スキル:身体強化LV10、剛力LV4、鉄壁LV3、上級剣術LV1、盾術LV7、HP高速回復LV4、気配察知LV2、威圧LV6、礼儀LV5


 解析したところ、こんな感じだった。

 俺も数々のゴブリンを倒してレベルアップしているだろうし、ステータスにそこまでの開きはないと思う。

 けど、上級剣術LV1。

 これがどうも厄介そうだ。


 俺が押され気味になったところで、状況に変化があった。


「らあああああ!!」


 藤沢君が上段からの振り下ろしを仕掛けて来る。

 騎士団長が目を見開いて硬直している。

 剣戟が止まった……!

 奇しくも藤沢君に助けられた形となった。


 まあ、そのかわり当たったら即死しそうなほどの豪剣が降ってきたわけだけど。

 これなら見てから回避できる。


 と思った矢先、進行方向に見えたのは輝堂君が剣を構えて待ち構えている姿。

 挟み撃ちか…っ。


 考えろ。

 制限時間は一瞬以下。

 さっきのように手遅れになる前に。

 前からは藤沢君が迫っている。

 後ろには輝堂君が油断なく俺が飛んで来るのを待っている。

 かといって、半端な避け方では例え避け切れたとしても騎士団長にすぐやられてしまうだろう。

 勇者の人外ステータスを鑑みても、逃げ場はない。

 いや、上は………?


 なんだか思考速度が上がったような気がして、俺は決断を終える。

 世界がスローモーションに見える中、即座に膝を曲げて大きくジャンプ!

 俺は高いステータスが成せる驚異的な脚力で、藤沢君の頭上に飛び出した。


「なに!?」

「はぁ!?」

「そう来るか……!」


 三人の呆気に取られた顔を眼下に見ながら、空中で一回転。

 両足を揃えて綺麗に着地。

 エクセレント!


 でもこれで終わりじゃない。

 再び大きく後ろに跳んで離れた場所から三人と相対する。

 お互いの間にピリピリとした空気が流れる。


 武器を構えたまま相手の会話が始まる。


「トーゴ、貴様のあの状況での攻撃は愚策だったぞ。あのまま剣で戦っていれば私が勝っていた」


「そうだね。僕が咄嗟にフォローに回っていなければ無駄に終わっていたところだよ」


「……うっせぇ! お前らがさっさと殺っちまわねえからだろ! 大体、俺一人でもあんな奴潰せるっての!」


「待て!」


「あ、おい!」


 少しは責任を感じたのか、一人藤沢君が飛び出す。

 チームワークはよろしくないみたいだ。

 これは行けるかも……?

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