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千川雹。
それが僕の名前である。高校三年受験期真っ只中。
ちなみに図書委員会の委員長である。日ごろから読書が好きなおかげか、国語の成績のみならず、三年の中でも上位に食い込むほどになっていたので、先生方から推薦を受けた。僕自身は目立つことはあまり好きではないため。高校も中学からの同級生が来なさそうなところを選んできたのである。
が、しかし…
「千川先輩…」
金髪に短い髪の毛。風になびいてさらっと揺れる髪は艶があってきれいだ。すっと細い目に、綺麗に形作られた鼻。かすかに笑顔を見せるその瞳は紺碧の色でとても澄み渡っている。
そんな美少年…海堂藍唐は僕の中学からの後輩である。成績優秀、容姿端麗、運動神経もとてもよい。みんなからは注目の的である藍唐は僕の可愛い後輩。
そう“可愛い”後輩なのである。
つまり、海堂藍唐は女の子である。今説明したとおり、女の子であるはずの彼女はその容姿から男の子に見間違われることが多い。そんな彼女との出会いは本当に偶然だったのだけれども…まあ、その話はまたいつか。
だが、そんな彼女を周りの人たち(そのほとんどが女子である)が放っておくはずもなく、みんなから愛されている。
そんな彼女が、僕に話しかけに来てくれる。それ自体が問題なわけではないのだ。いや、彼女といることを問題にすること自体がおこがましいことなのだけれど…そう、問題は場所である。
ここは多くの生徒が通るであろう通学路のしかもど真ん中。先ほどから視界の端を通る同じ学校の生徒であろう人たちの視線がいたい…
「…先輩」
気がつけば正門前で、頬を膨らませて藍唐がこちらをにらんでいた。きっと、何度か僕の名前をよんでいたのだろう。周りからの視線が痛い。すべてを理解したときには、もう意味なんてなかった。