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14 先にシャワー浴びてこいよ

今週からまた本格的に忙しくなってしまうので、

その前になんとかもう一話投稿できました!


(修正報告)

前半、自分の外見と、女であることへの自覚があまりにも足りていなかったリーチの発言を若干修正しました。それでもまだまだアホですが……。

 さて、暗くならないうちに王都を出発しようか。

 という段階で、極めて深刻な問題が発覚した。盗難事件を名推理(?)によって見事解決し、気を良くしたことで、最も大切なことを失念していたのだ。


「お前さんら、アホなのかや?」


 メロリナさんが呆れたように言った。返す言葉もない。

 厳密に言うと、忘れていたわけじゃない。

 事件の後、俺とアーガス騎士長が近況を報告し合っている間に、利一が滞りなく手続きを済ませているものだと勝手に思い込んでしまい、確認を怠ったのだ。


「受付会場に行って、受付を忘れてくるとは、一体何をしに行ったのやらじゃな」


 ほんとそれ……。

 品評会に登録する予定だった石鹸一式は、今も利一が肩から提げている鞄の中に入ったままだ。受付の締め切り時間は三十分ほど前に過ぎている。

 アーガス騎士長は、犯人である狐耳の男を騎士団本部へと護送し、黒乳首女史も品評会の責任者として関係者に事情を説明、明日の警備強化を促すなど、これから王都内を奔走しなければならないと言っていた。

 今戻っても、受付会場には、明日展示される品々を厳重に見張っている騎士たちしかいない。黒乳首女史が(つかま)らないことにはどうしようもない。


「リーチだけならまだしも、タクト坊がついていながら、なんという失態じゃ」

「面目ないっス……」


 有頂天だった利一も打って変わって落ち込み、サラシを巻いた胸のように小さくなっている。【ホールライン】の財政を左右する超々重要任務を忘れ、目先の活躍に浮かれていたのだから、その自己嫌悪は計り知れないだろう。


 石鹸の製造ルートや雇用者の確保は既に目処がついている。今すぐにでも稼働に移れる体制は整っているのだ。いや、稼働に移らなければならないくらい、計画は進んでいる。品評会に出展するしないにかかわらず、石鹸の製造は始まるだろう。

 その場合に心配なのが、特許の期待効果だ。石鹸の特許自体は品評会を介さなくても取得できるが、はたして十分な効果が見込めるのやら。

 石鹸が広く出回れば、確実に類似品が出てくる。それこそ世界中の至る所でだ。

 その際、他国と全く交流を持たない小国の【ホールライン】が特許権を主張したところで、おそらく焼け石に水だろう。大国がオリジナルだと言い張れば、それが通ってしまう。

 だからこそ、各国に睨みを利かせ、しかも【ラバン】の後ろ盾を手に入れられる品評会でのお披露目は絶対に必要なのだ。品評会は年に一度だが、来年まで待ってなんていられない。


「もう一回、黒乳首女史に会うしかないスね。多分、大丈夫っスよ。受付会場には締め切りまでに足を運んでいるわけですし、そこで事件が起きたのなんて、完全にイレギュラーなンですから。しかも、事件を解決したのは利一ですし。これって、先方は俺たちに恩を感じているはずっスよね?」

「そうさな。こちらの要望を無下にはできんじゃろ。リーチ、アホと言ったことは撤回せんが、そう責任を感じることもなかろ。プラマイゼロじゃ」


 利一は項垂れたまま、「はい……」と、か細い声で返事をした。


「品評会の選考委員長……名は……黒乳首・グロマン女じゃったか?」

「クロティーク・ビッグロマンです。黒乳首女史は俺が勝手に言ってるだけなんで」

「ほうか。でじゃ、その黒乳首を今日中に捉まえるのが難しいとなれば、ぶっつけ本番じゃが、明日の品評会に直接持ち込むしかありんせんな」

「ですね。ただ、品評会は城のダンスホールで行われるって話っスけど、まだ参加資格もないのに入れてもらえるのかどうか」

「その点も問題ない。お前さんは騎士長にコネもあるし、【ベケスバッカ】の……えー、名は……フェラ●オ姫じゃったか?」

「フェラスール姫っス」

「大差なかろ」


 だとしても、大きな声では言わンでください。国際問題になっちゃうンで。


「そのフェラスール姫とやらも、リーチに感謝しとったのじゃろ?」

「高貴な身分のわりに、つーか、高貴な身分だからか。礼儀正しい子だったよな」

「品評会で、またお会いしましょうって言われました」

「なら絶対に大丈夫じゃ。堂々と会場入りしてやればよい」


 見通しが甘いと思われるかもしれないけど、上手くいけば、審査をスッ飛ばして品評会に出展できるわけだし、考えようによっては結果オーライだ。


「というわけでじゃ、予定外に王都で一泊することになってしもうた」

「持ち合わせは大丈夫っスか?」

「元々日帰りのつもりじゃったからな。ぎりぎり二人分。しかも一部屋がせいぜいといったところかの」

「あ、じゃあ、オレは馬車の中でいいです。こうなったのはオレの責任だし」

「「アホか!!」」


 利一の申し出に対し、俺とメロリナさんの声が重なった。


「リーチ、いくらサキュバスとはいえ、最初の一回くらいは時と場所と相手を選ぶべきじゃ。それをお前さん、こんな所で、どこの誰ともわからんゴロツキのために処女を散らすつもりかや?」

「外に停めてある馬車なんて、野宿と変わらねェだろうが」

「お前さんのようなご馳走が深夜の屋外に落ちておったら、お持ち帰りどころか、その場で即食われるわ。膜が百枚あっても足りんせん」


 禿同。


「膜って……。や、女が外で夜を明かすのは危ないってことくらい、いくらオレでもわかってますよ? わかってますけど、今のオレはほら、こうやって男装だってしているわけですし。そこまで言うほどのことじゃ」


 などという寝言をカワイイ声で吐くもンだから、頭を抱えたくなる。

 肩を少し越える金髪は帽子の中に収まっているし、世界中の雄を虜にしかねない魔性の乳はサラシで隠されている。

 だが、華奢な首に、色っぽくくびれた細い腰。形の良い尻はそのままだ。

 ホットパンツから伸びた白い太股だって、惜しげもなく晒されている。

 正直な話、可愛い系女子が、ちょっとボーイッシュな恰好に挑戦してみました、以外の何物でもねェ。この酒場にいる客だって、こいつが女だってことに気づいている奴は、とっくに気づいている。


「メロリナさん、アホの意見は無視しましょう」

「じゃな。アホがうつっては敵わん」


 抗議の声がうるさいが、議論の余地はない。


「俺が騎士団本部に行ってきますよ。そこで寝泊まりしたことだってありますし。まあ、そん時は牢屋ン中でしたけどね」

「それには及ばんよ。ここは年長者のわちきに任せんさい」

「この場合、大事なのは実年齢より見た目だと思うんスけど……」

「野宿するつもりはありんせん。せっかくじゃから、他の未成ね――じゃのうて、他の店の味も楽しみたいでな。酒代はこっちでなんとかするから気にせんでよい」


 一瞬、不穏な単語が出かけたような……。

 じゅるりと唇を舐め上げる様は、どうにも酒以外のものを味わうつもりに思えてならないが……気のせいだろう。そうに違いない。






 さてさて、問題はまだまだ続く。

 いや、ここからが本番だと言っても過言ではない。

 あ、本番と言っても、変な意味じゃないぞ。誓って、そんなつもりはない。

 メロリナさんの言ったとおり、手持ちの金では二人で一室がやっとだった。

 安いだけあって、豪華な内装とは言えないけれど、個室の中にトイレと一体型のユニットバスがついており、壁は厚くて防音もしっかりしている。幸い、ベッドも二つある。

 ここで利一と一泊。


「あー、すっきりした」


 部屋に入って早々、利一がキャップ帽を脱ぎ、胸に巻いていたサラシを外した。

 外気に触れた金髪が柔らかく揺れ、胸部装甲が数倍に膨れ上がる。


 メロリナさんは夜の町へと消え、ここにはスミレナ店長やエリムもいない。

 繰り返すが、そんな状況で、利一と一泊。

 思わず、ごくりと息を呑んでしまった。


「拓斗? どうした?」

「な、なんでもねェよ」

「あっそう? じゃあ、ぼーっと突っ立ってないで、早く服を脱いでくれよ」


 夜のお誘い!?

 なんて馬鹿げた考えが頭を過ったが、匂いを感じ取る訓練をするつもりだろう。アホでお子様な利一に限って、そんなことを言うはずがない。


「あ、そうだ。ついでだし、先にシャワー浴びてこいよ」


 それ、俺の台詞!

 いや、俺のとは言わないけど、男の台詞をとるなよ!


「男の恰好は気に入ったけど、やっぱ窮屈だよなあ。この胸、本気で邪魔」


 邪魔なんて言うなよ。そこには世界中の男の夢が詰まっているンだから。

 利一は俺のことを信用している――というか、自分に対して俺が欲情するんて、思いもしていない。だからこっちの気も知らないで、そんな風に乳の凝りを平然と揉みほぐしやがるヤバいそれやめて普通に勃つ。

 シャワーで鎮めようと思い、ユニットバスに向かうが、その背に「あのさ」と、利一が遠慮がちに声をかけてきた。


「寝る前に……ちょっとでいいからさ、その……」

「訓練だろ? わかってるって」

「や、そうじゃなくて……その……せっかくオレとお前しかいないんだし……」


 え?


 え?


 利一は視線を彷徨わせ、耳まで赤くしている。

 まるで、今から俺と、そういうことをしたいと言っているかのような。


「…………え、何?」

「あの、えっとな……オレも実を言うと……興味がなかったわけじゃなくて……。でも、恥ずかしくて言い出せなかったっていうか……」


 もじもじと両手の指を絡ませる利一の声が、消え入りそうにすぼんでいく。

 鼓動が激しさを増す。頭がぐらぐらし、目の焦点が合わなくなってきた。

 まさか、信じられない……。

 だけど、それは不思議でもなんでもない。

 ある日突然女の身体になった。そこに興味を持つのは至極当然のことだ。

 そういったことをした時、女の快感は、男の何倍も大きいって話はよく聞く。

 それを試してみたいってことなのか?

 その検証を、初めての経験を、俺とってことなのか?


「だから、拓斗としてみたいんだけど…………ダメか?」

「ダ、ダメなんてことは……。じゃ、じゃなくて、待ってくれ! 他に考えようがないが、それでも俺の勘違いってオチかもしれない。確認させてくれ」


 もし違っていたら、めちゃくちゃ怒られるだろう。

 だけど、確認しないわけにはいかない。筋トレってオチも大いにあり得る。

 深呼吸して息を整えてから、それを確かめる。


「利一のしたいことってのは、要するに………………エロいことなのか?」


 質問すると、利一の顔が、カーッとさらに赤くなった。

 怒声は飛んでこない。

 利一はたっぷり十秒ほど溜めを作り、やがて……。

 こくりと、前髪で表情を隠すようにして頷いた。


「嘘だろ……」

「オレからこんなこと言い出すとか……幻滅したか?」

「べ、別に、幻滅したりなんかしねェけど、とにかく意外っつーか……」


 本当にヤるのか?

 ここで。

 利一と。

 本当にヤってしまっていいのか。

 利一に対する心の置き所も決めかねている状態で。


「嫌だったら、無理にとは」

「嫌じゃない!」

「そ、そっか」

「俺も、ずっと考えてた。お前と、そういうことを望んでもいいのかって……」

「拓斗……」


 劇薬すぎる気がしなくもないけど、ある意味、良いきっかけだ。

 ようやく、ふらふらしていた自分の気持ちにケリをつけられる。

 利一とそういう関係になれば、俺はもう、利一のことを友達(ダチ)だと思わなくなる。

 これからは一人の女の子――いや、愛する女性として見るようになるだろう。


「あー、よかった。まあ、拓斗ならそう言ってくれると思ってたけど」

「俺よか、お前の方が負担が大きいンだから、辛かったらいつでも言えよ」


 優しくするつもりだが、童貞の俺にその匙加減ができるのやら。


「心配無用。男だった頃は全くついていけなくて尻込みしちゃってたけど、今なら大丈夫だと思うんだ。ブラジャーのつけ方だって完璧にわかるし、拓斗よりも女の体に詳しい自信があるぞ」

「……ん?」

「本当は、エリムも入れて、三人でできればよかったんだけどな」


 え、3Pをご所望だったの?


「でも、無理だよな。あいつは俺のこと……女にしか見えないみたいだし。そんな奴とは、さすがにできないだろ……」


 ……あれ?

 ちょっと待って。なんかこれ、会話が噛み合ってなくね?

 男と女じゃダメってこと? 男同士でないと?

 おかしくない? それだと、どこぞの腐女子が狂喜しちゃうじゃん。


「……利一、もう一回だけ確認させてくれ」

「うん?」

「お前が俺としたいエロいことってのは、具体的に何をするんだ?」

「猥談だけど? お泊まりの定番だろ?」


 なるほどー。猥談かー。


「はは、だよな。うん、知ってた。とびきりのネタがあるから楽しみにしてろよ」

「マジで? へへ、今夜は寝かせないぞ」


 うん、それも男の台詞。


「んじゃ、遠慮なく俺からシャワーを使わせてもらうぜ」

「ごゆっくりー」


 バスルームに入った俺は、声なき声をあげた。

 頭から冷水をかぶり、頬を伝い落ちていく水滴に涙を隠して。

次回、本当に猥談させようと思います。

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