13 達人への道
申し訳ありません、ご無沙汰しまくっております!
短いですが、どうにか時間の隙を見つけて捻じ込みました。
ほとんどの読者が前回までの流れ覚えていらっしゃらないかも(泣)
~前回までのあらすじ~
リーチ・タクト・メロリナの三人で、品評会に出す石鹸を登録するために王都にやってきた。
すると受付会場には、同じく品評会の登録に来ていた他国のお姫様が二人。
一人は本物だが、もう一人はお姫様そっくりに化けた窃盗犯だという。
どちらが本物で、どちらが偽物なのか誰も見抜けず膠着状態が続く。
そんな中、リーチが片方を男だと指摘。
問答無用で【一触即発】を喰らわせ、事件を解決したのであった。
(修正報告)
TSにおいて、「まだ」のあるなしは重要かと思い、
以下のように修正しました。
見た目はこんなんですけど、中身は男のつもりですから。
⇒見た目はこんなんですけど、中身はまだ男のつもりですから。
宿酒場【さきっちょ】は一階が酒場で、二階が宿になっていた。酒場の大きさは【オーパブ】と同じくらいだが、見渡した限り俺たち以外の客は人間しかいない。多様な種族で賑わう【オーパブ】が異色なのであって、王都ではこれが普通だ。
「ほうほう、そんなことがあったのかや。災難じゃったのう」
「ま、オレがスパッと解決してやったわけですけどね!」
事の顛末をメロリナさんに語り聞かせている利一が、天井を仰ぐ勢いで踏ん反り返った。今回ばかりは誰が見ても利一の手柄だし、得意げになるのも仕方ない。
利一の話を酒の肴にしているメロリナさんの顔は、酔いで薄らと紅潮しており、幼女の外見を裏切って、やたらと艶めかしく見える。
「ああ、そうだ。メロリナさん、ちょっと教えてほしいンだけど」
「潮の吹かせ方かや?」
それも興味なくはないが、利一もいるのでまたの機会に。
「サキュバスって、嗅覚が鋭いとかあるんスか?」
「ほむ。リーチが犯人の性別を言い当てた件じゃな」
「利一以外には全く違いがわかンなかったから、人間より鼻が利くのかなって」
「違いというのは正確ではありんせんな。リーチは匂いを嗅ぎ分けたのではなく、雄の匂いを嗅ぎつけたのでありんす」
特別嗅覚が鋭いわけじゃなく、特定の匂いにだけ敏感ってことか。
「リーチはまだまだ発達途中じゃが、成熟したサキュバスともなれば、もはや雄の匂いが視覚以上にはっきり見える」
「匂いが見える?」
「目を瞑っておっても、男から香る体臭が色や形だけでなく、その他様々な情報を教えてくれるのじゃ。その雄が剥けておるのか、被っておるのか、どれくらい溜めておるのか、先走っておるのかなどの。わちきくらいになると、雄の性的嗜好から性病の有無までわかりんす」
様々なと言いながら、その情報が下半身に集約されている気がするンですが。
「わちきは雄とまぐわう時、相手の興奮を高めるために『お願い。恥ずかしいから明かりを消してくれやす……』と生娘を装ったり、目隠しプレイなんぞを強要されたりすることもあるが、ぶっちゃけ、わちきには全部見えておる」
この見た目幼女に目隠しプレイを強要……だと?
サキュバスは魔物扱いされてるし、相手に正体を明かしているわけはない。
てことは、メロリナさんが300歳だと知らずにヤってるってことだろ?
どこの誰か知らねェけど、その変態、逮捕しといた方がイイんじゃね?
「すごかろ?」
「まあ……うん……すごいスね……」
「じゃろー。とはいえ、目以外で物を見ること自体は別に珍しくもない。例えば、リザードマンのギリコじゃと、匂いではないが、熱を視覚化しおる。もしこの先、洞窟探索でもするようなことがあれば、あやつを雇うといい」
そっちは素直にすごいと思うし、カッコ良く聞こえるンだけどな……。
利一も俺と同意見らしく、複雑な顔をしている。
「ま、どちらが優れているとするかは甲乙つけがたいの。ギリコは熱を発するものなら感知できるが、著しく体温の低い動物は見つけられん。その点、サキュバスは雄なら種族を選ばんしの。しかも、匂いは熱と違い、すぐには消えん。雄の痕跡を辿ることに限って言えば、クー・シーのマリーにも負けんのじゃ!」
のじゃ! と自信たっぷりでサキュバスの魅力を語るメロリナさんだが、それを聞いている利一の表情は依然として渋面だ。
「リーチや、これからは、今まで以上に雄の匂いを意識することを心がけんさい」
「普通に嫌なんですけど」
「習得しておいて損はないスキルじゃぞ。ある程度慣れれば勃気(勃起の気配)を感じ取ることもできる。この感覚を掴めれば、タイミングを見誤ることなく自然な流れで情事に持ち込めるしの」
「そんな感覚、掴む必要ないんで」
「確かにお前さんなら、今はサラシで潰しておるが、そのデカ乳さえ掴ませれば、大抵の雄はヤることしか考えられなくなるじゃろう。ほんに羨ましい限りよの」
「そういう意味で言ったんじゃないですから!」
でも実際、一発だと思う。揉んじまった経験(※第三部02『お前だからだよ』)から言わせてもらうと、あの感触はヤバい。魔性の乳だ。
「強情じゃのう」
「強情って。オレ、見た目はこんなんですけど、中身はまだ男のつもりですから。そこんところを忘れないでください」
「やれやれ。では見せてやるかの。タクト坊、ちぃと手伝ってくりゃれ」
ちょいちょいと指で招くようにして、自分の後ろへ立てと指示される。
何をさせるつもりかわからないが、俺は言われたとおり背後に回った。
「いつでもよい。わちきの頭に手刀を打ち込んでみんさい」
そう言うメロリナさんは、俺に背中を向けたままだ。
ふむ。
何が何やらだが、とりあえずヤってみるか。
もちろん本気で叩くつもりなんてない。俺はメロリナさんの頭上で象った手刀を右へ左へうろうろさせ、打ち込む角度を探した。
んじゃ、軽く小突くつもりでイキます、よっと。
「ほやっ!」
「うおっ!?」
……ちょっとビビった。
俺は掛け声をつけなかった。タイミングなんてわからなかったはずだ。
それなのにメロリナさんは、まるで背中にも目がついているかの如く、真っ直ぐ頭頂に振り下ろした手刀を白刃取りで止めてしまった。
「カカ、ずいぶんゆっくりじゃったのう」
体温の高い小さな手が離されるが、メロリナさんは振り返らない。
次を要求されている。
今のは偶然かもしれない。俺は告知なしで、二撃目の狙いを右側頭部に変えた。
だが、しかし。
「そいっ!」
また止められた。
偶然……じゃ、ないのか?
三撃目。今度は後頭部――と見せかけて、左側頭部に。
「のじゃ!」
またしても止められた。
どうやら、本当に見えているようだ。
満足したのか、ここでメロリナさんが俺に振り返り、屈託のない笑みを向けた。
「すごかろ?」
さっきと同じ台詞だけど、今度は素直に頷ける。
そしておそらくは、俺よりも利一の方が……。
「カ、カッケエエエ! え、ちょっと、今のなんですか!? メロリナさん、武術の達人みたいだったんですけど!?」
予想どおりのリアクションだ。
こういうの、絶対好きだと思ったよ。目が超輝いてる。
「お前さんも、これくらいすぐにできるようになりんす。訓練すればの」
「する! します!」
「まずは、匂いで対象の輪郭を捉えることを覚えるのじゃ。慣れるまでは真っ裸の雄から始めてコツを掴むがええ。タクト坊か、エリム坊あたりに手伝ってもらうとよかろ。間違っても、聖神隊の連中に協力を仰いではいかんぞ」
「はい!」
「うむ、良い返事じゃ」
ちょろ……。
「なあなあ、拓斗、俺と二人きりの時だけでいいからさ、できるだけ全裸でいてくれないか? お前、丸出しで人前に出るのも慣れてるよな?」
「慣れたくて慣れたわけじゃねェんだけど……」
「あ、嫌なら無理にとは言わないから。その時はエリムに頼んでみるし」
「俺が脱ぐ!」
「いいのか? へへ、サンキュー」
利一、お前さ……。
言いたかないけど、一歩ずつ、着実にサキュバスへの道を進んでいるぞ。
3巻が6月30日に発売しました。
よろしくお願いしゃっす!