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12 名探偵リーチ

ごめんなさい……

以前の更新から開きすぎて、前回どこまで進んだか忘れられているかもです。


品評会の受付のため、リーチと拓斗(+メロリナ)が王都にやってきました。

「なんか人がいっぱいいるぞ?」

「ありゃ、ホントだな。ちょうどあの辺りなンだけど」


 品評会の受付会場は、建物の正面が丸ごとガラス張りになっているため、王都を散策していた時から印象に残っていた。しかし、今は建物を覆い尽くさンばかりの人垣ができている。

 受け付けの締め切りが迫っているため、俺たちと同じく滑り込みの出品者が押し寄せているのかと思ったが、どうも様子が違う。

 えらく派手でデカい馬車が一台停まっており、鎧の上に雨合羽を着た騎士たちが何十人もいる。一様に困り顔で右往左往しているのが遠目にもわかる。


「あそこ、騎士長さんもいるぞ」


 リーチが指差す先に、他の騎士より一回り体格の良い、アーガス騎士長がいた。

 相も変わらず、雨合羽では隠しきれないダンディーな色気を醸し出している。


「む、タクト? タクトか?」

「オス、久しぶり。ってほどでもないか」

「元気そうで何よりだが、ここで何をしている?」

「俺たちは、明日の品評会に出す品の受け付けに来たンだ」

「俺たち?」


 そこで初めて、俺に連れがいることに気がついた。

 利一も挨拶するかと思いきや、俺の上着の裾を摘まみ、背中に隠れていた。

 オイオイ、そういう可愛いことすンなよな。萌えるじゃねェか。

 和解に至ったとはいえ、一度は自分を討伐にきた騎士の代表だ。苦手意識が出るのも無理はない。無理はないンだけど、マジで可愛いからやめてそれ。

 アーガス騎士長と目が合うと、利一がおずおずと頭を下げた。


「……君は、リーチ姫か?」


 会釈でいっぱいいっぱいなのか、尋ねられた利一が、ぴゃっと俺の背中に埋まるようにして、本格的に隠れてしまう。こいつ、まさか俺を萌え殺す気か?

 返答を委ねられた形になった俺が、利一に代わって答えてやる。


「見聞を広めてこいってな。お忍びだから、あんま騒ぎ立てねェでくれよ?」

「気持ちはわからんでもないが、感心できんぞ。いくら変装して素性を隠しているとはいえ、立場ある者の振る舞いとしては」

「はいはい忠告はありがたくいただいとく。それよか、こりゃなんの集まりだ?」

「実は、少々……ではないな。極めて深刻な問題が起きている」

「というと?」


 アーガス騎士長が、話してイイものかと迷う素振りを見せた。


「これでも口は堅い方だぜ?」


 一応、俺は今も騎士団仮所属のままだし、有事の際は力になるとも言ってある。

 いろいろあったが、騎士団と懇意にしておいて損はない。

 利一に目配せをすると、こくこくと頷いて同意を示してくれた。

 大きな声では言えないことらしく、アーガス騎士長が周囲に目を一巡させてから顔を近づけてきた。生温かい息が耳に当たる。


「明日の品評会は、城のダンスホールで行われることは知っているか?」

「いや」


 俺たちは登録だけしたら、すぐに帰るつもりだしな。


「それまでの間、展示される品はここで一時保管されることになっているのだが、物によっては国宝にも等しい。登録受け付けをその開始した日から、常に二十人の騎士を置いて警備に当たっていた」


 言い渋っているのか、なかなか続きが出てこない。

 けど、ここまで言われたら、だいたい想像はつく。


「まさか、盗まれたのか?」

「……二時間ほど前に登録されたばかりの品が一つ、こつ然と消えた」

「ガチガチに警備してたンだろ?」

「もちろんだ。私はその時いなかったが、警備に当たっていた者たちは口を揃えて言っている。最後に物を確認できたのが、約三時間前。そこから現在に至るまで、蟻一匹の出入りすら見逃してはいないと。だからまいっているのだ」

「普通に考えて、中にいた奴が怪しいンじゃねェの?」

「まあ、そのとおりだ」


 絶対に人の出入りがなかったと言い切れるなら、消えた物は今も建物のどこかに隠されているか、または犯人が隠し持っているかだろう。


「んじゃ、解決は時間の問題――……てな空気じゃねェな」

「物が消えた前後、中には品評会の選考委員長と、そのスタッフが三人。それと、出品に訪れた【ベケスバッカ】の第二王女が一人と護衛が五人いたはずなのだ」

「すけべばっか?」

「【ベケスバッカ】だ。【ラバン】の北東にある大国だぞ」


 うーん、知らね。


いたはず・・・・ってのは?」

「護衛が一人減り、第二王女が一人増えた」

「意味不明」


 やんごとない人物がいらっしゃるのだけはわかったけど。

 え? 何? 捕食して分裂でもしたの?


「とりあえず中に入ろう。正直それどころではないが、登録の締め切りまであまり時間がない。手続きをするだけなら邪魔にはならんだろう。一国の姫ならここにもいるのだ。いつまでも雨中に立たせているわけにはいかん」

「だってよ。利一、よかったな」

「よかない」


 不機嫌そうに言って、ゴツ、と俺の背中に頭をぶつけてくる。


「すっかり警戒されているな」


 や、こいつの場合、単にお姫様扱いが気に入らないのと、人見知りが激しいってだけなンで。接客で慣れたかと思えば、プライベートでは相変わらずだな。

 騎士たちを掻き分け、アーガス騎士長の後ろについて建物内へ入ろうとするが。


「――ちょっと、アーガスさん、部外者を入れるなですわよ」


 黒バラをモチーフにしたような、ふりふりドレスを着たオバサンに遮られた。

 黒髪だけなく、黒い手袋に、口紅までもが黒い。

 三十代後半ってとこか。綺麗な人ではあるけど……濃いなァ。

 アーガス騎士長への口振りからして、相当身分の高い人物だと予想できる。

 この人が【ベケスバッカ】のお姫さんなンだろうか。


「こちら、品評会の選考委員長を務める、クロティーク・ビッグロマン女史だ」


 違った。

 けど、俺たちの目的はお姫さんじゃなく、むしろこの人だ。


「すんませン。俺たち、品評会の受け付けに来たンです。現場を引っ掻き回す気はないンで、中に入れてもらえませんか?」

「お黙れですわ」


 語尾に「ですわ」をつければ上品になるってもンじゃねェぞ。

 へこへこと、できる限り腰を低くしてお願いしたってのに、黙れはねェだろ。

 第一印象最悪。ムカついたから、素敵なあだ名をプレゼントしてやる。

 命名――黒乳首女史。

 もう一個思い浮かンだけど、そっちはさすがにな。


「ここには今、ベケスバッカの王女様がいらしているのですわよ? ただでさえ、聴取で不快な思いをさせてしまっていますのに、そんな小汚い一般人の相手なんてしていられるかよですわ」


 オイ、小汚いとはなんだ。ここにおわすのがどなたと心得る? 新進気鋭の多種民族国家【ホールライン】の国家元首であらせられるリーチ姫なるぞ。

 とは、お忍びなので言えないが。


「どうせ、大した持ち込みでもないのでしょう? 運がなかったと思って、今回は諦めることですわね。さっさと帰りやがれですわ」


 黒乳首女史が、入り口に立っていた俺を外へ押し出そうと突き飛ばした。

 オバサンの力で押されても大したことはないが、はずみで一歩退()がった拍子に、後ろにいた利一にぶつかってしまう。


 バシャ。


 ――と、水を叩く音がした。

 嫌な予感がして後ろを振り向くと、利一が……水たまりに尻もちをついていた。


「うわっ、利一、すまん!」


 服だけじゃなく、顔にも泥水が跳ね、酷い有様だ。

 やっちまった。着替えなンて持ってきてねェぞ。


「い、いつまでも、そんな所にいるのが悪いのですわ」


 ぶつかったのは俺でも、原因は自分にあることがわかっているらしく、さしもの黒乳首女史もバツが悪そうな顔をしている。


「クロティーク女史、今すぐ彼女に拭く物を」


 ズブ濡れになった利一の手を引いて立ち上がらせていると、アーガス騎士長が、有無を言わせない語調で黒乳首女史に命じた。


「彼女? え、女の子?」


 利一が女と知り、黒乳首女史がさらに申し訳なさそうな顔になった。

 根は悪い人じゃないのかもな。

 なんて、そんなことはどうでもイイ。利一が風邪を引くので早くしてくれ。


「ゆ、床を汚したら承知しないですわよ」


 吐き捨てるように言い、黒乳首女史がパタパタと走っていった。


「利一、大丈夫か?」

「冷たい。パンツまでぐしょぐしょだ」


 パンツぐしょぐしょとか言うな。レベルが上がっちまうだろうが。

 いやらしい目を向けてしまいそうだったので、俺は煩悩を消すために別の話題をアーガス騎士長に振った。


「なくなった品って、どういう物なンだ?」

「【ベケスバッカ】からの出品で、〝センズリング〟という腕輪だ。他者から魔力を吸収し、ストックしておくことができるアイテムらしい」

「へェ、そりゃ便利だ」


 つっても、魔力ゼロの俺や人間には無用の長物だな。


「便利だが、恐ろしいアイテムだ」


 具体的に、どう恐ろしいのか想像できない俺は、それ以上関心を示さなかった。

 入店の許可が出たということで、今度こそ建物の中へと入っていく。

 出品される物は別の部屋に置かれているのか、雑多な感じは一切ない。

 複数の窓口と待ちスペースがあるのはギルドと変わらないけど、こっちは客層を選ぶというか、内装がどれも上流階級を意識しているように思える。

 こういう場所にいると、目がチカチカする。アーガス騎士長に挨拶もできたし、さっさと用を済ませて帰りたい。


「うおっ!?」


 現場検証の邪魔にならないよう隅っこで待機していようとしたところで、それが目に入り、思わず声が出た。

 そこには高そうなソファーが置かれており、かるく五人以上は座れそうなのに、腰掛けているのは二人。他の連中は護衛か侍女だろう。傍で立って控えている。

 その腰掛けている二人が、身なりから顔立ちまで、何から何まで瓜二つだった。


「あそこに座ってるのがお姫さんだよな? 双子?」

「言っただろう。増えたのだ」


 そんなワカメみたいに。


「おそらく、どちらかは偽物。いつから紛れ込んでいたのかは知りませんが、護衛としてやって来て、センズリングを盗み、今は王女様に化けているのですわ」


 アーガス騎士長の端折りすぎな説明に、タオルを持って戻ってきた黒乳首女史が補足を入れてくれた。


「盗むにしても、なんでここでなンだ? 自分で持ち込ンだ物を盗ンだわけだろ? 道中で盗むとかは考えなかったのかね。ここには騎士もわんさかいるのに」


 これにはアーガス騎士長が答えてくれた。


「品を確認するまで、鍵付きの宝箱に入れて厳重に封じられていたからだろうな。本来なら、護衛の姿のまま逃亡を図りたかったはずだ」

「図れなかったのか?」

「わずかな時間だが、雨天のため、馬の交換に手間取ったのだ。そうこうしている間にセンズリングが消えていることが判明し、ああして事情聴取を行っている」

「じゃあ、姫さんを選んで化けたのは?」

「身体検査を回避するためだと考えている。他国の王女を強引に引ん剥いて調べるわけにはいかないからな。王女のことを性格から仕草まで相当調べているらしく、周りにいる侍女にも見分けがつかんようだ」

「その侍女さんに頼めねェのか? 普段から着替えとか手伝ってそうじゃん」

「身体検査をされるということ自体、王族にとっては侮辱にあたるのだ」


 めんどくせ。

 けど、身体検査を拒むってことは、十中八九、腕輪は偽物王女が所持している。

 ここまで完璧に化けられるってことは、利一みたいな変装じゃない。

 特能か、それに類する魔法めいた力のはずだ。


「見破る方法ってねェのか?」

「…………ないこともない……が、大きな危険を伴う」

「でも、このままにはできねェんだろ?」


 品評会が世界的に注目されているってことは聞いていたけど、他国からの出品もあるとは思っていなかった。しかも、お姫様が直々にとは驚いたぜ。

 そんな状況での盗難事件。国際問題に発展してもおかしくはない。

 ややあって、アーガス騎士長が重い口を開いた。


「【ラバン】と【ベケスバッカ】の中間辺りに、悪魔が巣食うと言われる塔がある。そこに、真実を映し出す鏡が安置されているそうなのだ」


 なるほど、ラ●の鏡だな。


「その鏡を手に入れればいいわけか」

「手伝ってくれるのか?」

「俺とアーガス騎士長の仲だ。当たり前だろ」

「恩に着る。片道で三日はかかる距離だ。品評会は延期するしかないが、それでもこれを放置すれば、最悪の形で国交に亀裂を入れてしま――」


 そこまで言いかけたアーガス騎士長が、口をあんぐりと開けたまま固まった。

 その隣にいる黒乳首女史も、卒倒しそうなほど顔を青くしている。

 何事かと思い、二人の視線を追うと。


「無礼者! なんのつもりだ!?」

「この方を【ベケスバッカ王国】第二王女様と知っての狼藉か!?」


 利一がお姫さんに近づき、すんすんと匂いを嗅いでいた。

 護衛の方々が、次々と剣に手をかけている。


「おま、何やってンの!?」


 慌てて護衛の人たちの前に飛び出し、利一を背に隠した。


「すンません! すンません! 自分ら田舎者なンで、許してやってください! オイオイオイ、利一、お前、何考えてンだ!?」

「だって」

「だってじゃねェだろ!」

「こっち、右に座ってる人、男だよな?」

「そんなこと言ってる場合かよ! それがどうし――…………はい?」

「はい? じゃなくて。なんで皆わからないんだ?」


 えーと…………はい?

 ちょっとすぐには意味が理解できず、俺は利一が指差しているお姫さん(右)の全身を上から下までまじまじと見やった。

 この国では見られない、エキゾチックな衣装を着た美少女で、利一ほどじゃないにしても、出るところはちゃんと出ている。余裕で勃起可能だ。

 そんなお姫さん(右)が男? いやいや、ありえねェだろ。


「じゃ、じゃあ、一応訊くぞ? こっちのお姫さん(左)は?」

「そっちの人はわかんないけど、見たままなら女の子じゃない?」


 見たままって、違いがわからねェから困ってンだよ。

 どういうこと? 男かどうかだけ見分けられるってこと?

 それって、サキュバス特有の嗅覚とかじゃねェの?


「なんだよ? オレ、変なこと言ってる?」


 言ってるよ。自覚ねェのか?

 ……後でメロリナさんに確認しよう。


「ぶ、無礼な! わたくしが男ですって!? 何を根拠に申しているのですか!?」


 お姫さん(右)が声を荒らげた。

 もしこれが見当違いな発言だったら、キレてもおかしくない。


「根拠っていうか、えっと、ごめんなさい。ちょっといいですか。間違っていたら何も起こらないんで。というか、オレもその方がいいし」

「な、何をなさるつもりです!? おやめなさい! わたくしはフェラスール・ドエロ・ニュル・ベケスバッカ! この名前が持つ意味をわかっていらっしゃるの!? 旧ベケスバッカ語で、ドエロは(まこと)! ニュルは王! つまり、ベケスバッカ王国の正当な王位継承権を持っているのですよ!?」


 知ったことかと言わんばかりに伸ばされた手が、お姫さん(右)の肩先に触れた瞬間、利一が「えいっ」と気合いを発した。


「うっ」


 お姫さん(右)が、くぐもった声を出し、ビクッ、と仰け反った。

 かと思うと、そのままソファーにぐったりともたれかかり、気を失ってしまう。

 ……利一の奴……【一触即発(クイック・ファイア)】を撃ちやがった。


「ほらな。やっぱり男だった」


 利一がそれ見たことかと胸を張った直後。

 気絶したお姫さん(右)の輪郭がブレ出し、周囲の解像度が変化したように全く別の姿が浮かび上がっていく。狐みたいな耳が現れ、服装だけでなく、顔つきから骨格まで、線は細いが男のソレへ。これなら性別を間違えることはない。

 そして、右腕には紺碧の腕輪をつけていた。

 これがセンズリング?

 てことは、えーと、つまり、ラ●の鏡入手クエストは…………中止ってこと?


 ……………………。


 ……………………。


 ……………………。


「こ、これにて一件落着ッ!!」


 誰もが唖然として言葉を失っていたので、俺が強引にそうまとめた。

 利一だけが、「褒めて褒めて」とドヤ顔で賛辞をアピールしていた。

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